表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/103

#16


求めてきた……

求め“られて”しまった……


そうなのだ、このヴァンパイアの本当の目的は、この私の生命()……


悔いは、残る……


私は、私のお母様の無念を晴らす為に……(そそ)ぐ為に、これまで“何もかも”を、手を打ってきた……


けれど、それも今日でお終い―――


この私の血を……生命の通貨としてのモノを、不死者に捧げる……

それは同時に、私の“死”を意味する……


けれど……これでいいんだ―――


この私の生命と引き換えに、“皆”の……


そして、何より大切な“あなた”の生命が救えるのなら―――




王女自らが認めた敗北により、求められたのは、マナカクリムに住む住人、全員の生命()でした。


数多(あまた)の種族の坩堝(るつぼ)と化し、何百万とも言える“生命の雑踏”―――


“それ”を、王女一人の生命と、価値が“同等”だと亡者は(うそぶ)く……


実を言うと、『敗北した際の償い』としては、シェラザード自身が自国の城へと戻ればいい……以前のように、『王女』に戻ればいい―――だけのことでしたが。


(つい)ぞ、『言葉の魔力』の前に、屈し(まけ)てしまった……


現在のマナカクリムには、(ふる)くからの“知己”や、今まで(だま)しながら付き合ってきた“仲間”……


その(なか)でも、少し異性として意識し始めている“男性剣士”や、事ある(ごと)に自分と―――意中の男性剣士を争奪する(とりあう)為に、火花を散らし合っている“悪友(よきとも)”……


“彼”や“彼女”の生命が救えるならば―――と……






「―――判った……」


「うん?」


「いいよ―――奪っても……私の生命()を……」




割り切ったか―――

良い表情をしている……

諦観(ていかん)とも達観(たっかん)とも、また違う……

フ・フ・フ―――これだからこそ、『生者(せいじゃ)』は興味深い(面白い)……


“ワレら”が“主上(リアル・マスター)”よ……

“ワレら”をよく()べし、(まこと)の王者よ……

一時(いっとき)“ワレら”は、そなたの(もと)を離れる……




#16;血の誓約(ちかい)




“現在”では()だ、誰も知らない……

知られていない…ヴァンパイアの『主上(リアル・マスター)』―――


そう―――実は、ヴァンパイアには、(まこと)に仕えている、『主上』なる存在がいました。


呆れるほどに最強で―――呆れるほどに不死(しなない)者を、(かしず)かせる者……


だがしかし―――ヴァンパイアは、“今回を限り”に、本来の主と(たもと)を分かとうとしていた………


?   ??   ???


これは一体、何を意味するものなのか……


すると―――





「よかろう―――では、その細頸(ほそくび)を差し出せ……」





“これ見よがし”にと開かれる、吸血鬼の(アギト)……

見るも痛々しい、上顎(うわあご)の二本の犬歯……




ああ―――…あの犬歯で、私の頸動脈は食い破られ

大量の血を吸われるのだろう……飲み干されてしまうのだろう……


怖い―――本当の、恐怖を感じる……


けれど、これでいいんだ……


私一人の犠牲(この事で)で、“あなた(クシナダ)”の生命が救えるのなら―――……




自分の生命が、ここで終焉(おわ)りを迎える……そう観念したか、シェラザードは、その双眸を閉じました。


そして―――その華奢(きゃしゃ)(くび)を、血を捧げる為に差し出した……


そして―――王女の血を採る為に、ヴァンパイアの手は、そっと(くび)(あて)がわれた……





そして―――――………………





「―――フ・フ・フ……やはり思っていた通りだ。」




……―――え?




「この芳醇(ほうじゅん)薫香(かお)り、まろやかな咽喉(のど)越し、甘美なる口当たり……   上等な500年モノの蒸留酒を思わせる味わい!」




―――なにを……今されたの……?




この時シェラザードは、不思議な感覚に陥っていました。


読書家でもあった彼女は、『英雄譚』『冒険譚』の他にも、『伝奇物』にも目を通したことがあった―――

その(なか)でも、やはり“ヴァンパイア”に関する記述も、多く目にしてきた……


血を吸う時の行動―――その鋭い犬歯にモノを言わせ、数多(あまた)の生命を(むさぼ)ってきた……


そうした強烈なインパクトもあり、さぞや自分の時でも、吸血の際には苦しみや痛みは伴うものだと思っていた……


―――のに?


手を、(あて)がわれただけで、吸われてしまった??





「あ……の―――私……?」





すると、ヴァンパイアは急に膝を折り、王女を前に(かしず)きだし……た?





「“我等”との『血の誓約(ちかい)』により、定めたる新たなる主よ―――   この、ヴァンパイアの『公爵』たる【ヘレナ】―――   あなた様を『我が主(マイ・マスター)』として認める。」


「(!!)『公爵ヘレナ』?!   『緋鮮の記憶(あのお話し)』にも出てきた……!!?   でっ―――でも……ちょっと待って? 私の事を……『我が主(マイ・マスター)』??」


「いかにも―――」


「なぜ……なの? どうしてなの??」


「“私”は“私”のやりたいようにやる―――   それはプリンセス、あなた様がやってきた…やろうとしている事と同じなのですよ。」


「でっ―――でも、あなたは……   私の“おやじ(お父様)”―――また、それに連なる、あの“連中”から雇われていたはず……」


「ハッ!   “あんなモノ”は、所詮破られるためにあるようなものさ……!   だが―――あなた様との『誓約(ちかい)』は違う……」


この“あたし”の―――

“オレ”の―――

“ワシ”の―――

“ウチ”の―――

“あちき”の―――

“私”の―――

そして“余”の―――


「【ヘレナ】を形成する総ての魂を縛る『契約事』……   このような崇高な理念の下で交わされたモノと、己の業欲(ごうよく)の為にしか(はし)らない下衆(げす)なモノとを、一緒くたにしないで頂きたい!」


「(!)―――ごめん……なさい…………」


「いいえ、“私”の方こそ、口が過ぎてございました……   お(ゆる)しを―――我が主(マイ・マスター)……」





(いま)だ状況は判らず、思わずも錯乱しそうになる……


そも、このヴァンパイアは、自分の事を、あの『緋鮮の記憶(英雄譚)』に登場する“キャラクター”に(なぞら)えた……


それでもまだ冷めやらぬのに、かつての“約束事”を勝手に破棄し、自分と新たなる“契約事”……『誓約(ちかい)』を結んだ―――


?   ??   ???


そこでシェラザードは、少しばかり考えを巡らせました。


現在(いま)”、公爵ヘレナ自身による告解(こっかい)がなければ、自分を監視するために、実の父より雇われた『(とり)』の一人だった時、その者より、よく勝負を挑まれていた事があるのを思い出していました。


けれどもそれは―――今にして思えば、今回に通じている事だった……?


そして―――……





「さあ―――我が主(マイ・マスター)よ……命令(オーダー)を。」


あなた様は“私”に何を求める―――?

あなた様は“余”に何をして欲しい―――?


「さあ……命令(オーダー)を―――!」


“あたし”は、あなた様が求める『死』を与え―――

“オレ”は、あなた様が求める『生命』を与えよう―――





王女の血を等価として、結ばれた『誓約(ちかい)』の(もと)に―――

王女は命令(オーダー)を下す……


そして公爵は―――




―――了解した……

では、御覧に入れましょう


(あるじ)()(もと)




つづく




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ