#15
シェラザードは、鵙の正体を知っていました……。
『不死属性』を持つ―――“血”を“吸”う“鬼”……
『ヴァンパイア』―――だ、と。
だからこそ『生者』を弄べ―――
だからこそ『生者』を憎しみ―――
だからこそ『生者』の証したる、血を喰らひ―――
時を紡ぎ生くる……
しかし―――そんな事は“関係ない”とばかりに……
「(く……!)あんた―――『おやじ』より言いつかされてなかった? 私を生かして連れ戻せ―――って!」
「あぁ~っれええ~~?そうだったっけぇ~~?w ヤッバぁ~い忘れちゃったあ~~ww なぁ~んて、な…… イイじゃあ~ん?別ぇ~~っつに―――だあって王女サマ、あたしが本気出しても、死なないんだからさあ?」
「(……)“本気”―――?アレで?w 嘘吐いてんじゃないよ―――半分も解放してやしないくせに……。」
「アハハ~☆バレちゃったあ~~ww ああ―――ソウダヨ? だって―――本当にあたしが“本気”出しちゃったらさぁ…… 『死ぬ』よ――― 半端なく、冗談なく 死ねるよ―――」
けど……
「“私”はお前を殺さない――― なぜならお前は、“私”の玩具だから……」
だからこそ―――
「“余”を、愉しませてくれたまえ……」
こうした、生命の奪い合いでさえも、かのヴァンパイアにしてみれば、“座興”の域を越えませんでした。
シェラザードも、これまでにも幾度か、生命の奪い合いの、“真似事”のようなものを、していたから判る―――
いくら馘を刎ねようが―――
脚や腕を落とそうが―――
胴を断かとうが―――
すぐに再生・回復をしてくる、驚異の存在……
異名を『不死の王』『闇の帝王』とも呼ばれている……
それこそが『ヴァンパイア』なのです。
それに、シェラザードは、“生きて”いるからこそ、限界というものがある……。
いくら技や術が優れていようが、体力は―――……
「(ここ…まで―――か)『参った』―――わ……。」
「ン・フフフ―――……おや、もう降参?」
「“ウチ”は、ようやく身体が温まって来た処―――なんやけれどなあ? な~んかつまらへんわあ? ま……ええか―――今回は見逃したろw」
「えっ……本当に―――?」
「(……)ああ~~~“あちき”に嘘偽りはないぞよ?」
だ け ど
「その代り、あの街に住まう者達の……」
#15;“血 ”を頂くとしよう
突如として、ヴァンパイアの残虐性を―――性の酷薄さを、“思い”“知らされ”る。
それは今しがた、呆気なく自らの敗北を認めてしまった者への、“見せしめ”とでも言わんばかりに……
とは言え、シェラザードも、“呆気なく”敗北を認めたつもりはありませんでした。
現在までの、自分の実力を出し尽くした―――
けれども、『生者』であるがゆえに、体力が切れ―――
その麗しの肉体を、大粒の汗が幾条も伝い―――
肩で大きく息をするなど、限界が近づいてきていた……
だからこそ―――だったのですが……
けれどそんなことは、『亡者』である、ヴァンパイアには、関係ない―――
だからこそ、その『等価』を求めてきたのです。
それこそが、この街―――
マナカクリムに住まう者達、『全員の血』……
ヴァンパイアは―――“血”を“吸”う“鬼”……
“血”を、こよなく求めて来る者―――
『王女』の自由と―――同“等”の“価”値……
この街の住人、全員分の『生命』を、ヴァンパイアは求めてきたのです。
すると―――……
「それは止めて―――!」
「『止めて』……? “それ”はどう言う意味だね?プリンセス―――」
「あの街に住む人達の、生命を奪う事だけは止めて―――お願い!」
「我が儘を言うのじゃないよ……フロイライン。 お前は敗北を認めてしまったんだ……」
「“余”との戯れに―――敗けたのだ。 敗けたのだから、寄越すものはあるだろう? それをも拒むとは――― 恥知らずめ…… 己の恥を、恥とも思わない―――そこがお前達の堕落したところだ……」
「そんなことは判ってる―――!」
「―――ほおう?」
私は……私が『普通の』エルフじゃない―――ってことくらい、判っている……。
『普通の』ように優美じゃないし、言葉遣いだって荒くなることがある……って、自覚している。
それに私は……現在の王国が“正常”じゃないって、判ってしまっている……。
本来なら、国のかじ取りをしなければならない『お父様』が、国の確たる方向性を決めていない……
「現在の王国は、国としての権益を……“甘い汁”を吸うために集っている、貴族派閥や大商人達の“巣窟”と化してしまっている!」
私のお母様は、正当な王家の血筋を受け継ぐ人だった―――
「けれど、“不正”を是正させようとして、生命を落としてしまったんだ! だから私が―――…… エルフの王家、正当な血を引く私が、お母様の遺志を継がなければならない…… だから、お母様の様に、志半ばで倒れられない―――」
だからこそ、敗北を認めた―――
この生命さえ繋げてさえいれば、いつかは機会が訪れる―――
だけど、“これ”と“それ”とは別……
「お願いだから……あの街に住む人達の、生命を奪わないで……。 なにより、大切な、あの人達の生命を奪わないで!」
それは本音―――それが本音・・・
王女シェラザードが、自由を嘱望した、本当の“狙い”―――
だとて…亡者には、響か、ない―――
? ?? ???
「ク・ク・ク―――ハ・ハ・ハ―――ハハハ! 何を言い出すかと思えば……」
「そんなモノが、“私”の心に響くとでも、思っていたのかい? 縦しんば、お前の希望を叶えてやった処で、勝者である“私”が受け取るべきモノは、どうしようというんだい?」
「そ―――それ…は……」
「ならば……お前が、“それ”を為そうというのかい?」
「(え……―――)私……」
急に何を思ったのか、その“鉾先”を、シェラザードに向け始めるヴァンパイア……
強者ゆえの“気紛れ”か―――亡者であるがゆえの“専横”か……
ただ―――言うならくは、このヴァンパイアは、『王女』を“試して”いたのです。
つづく