♯13
シェラザードの仲間であるクシナダが、発生したトラブルを収めさせようとしていた時、ふと現場に現れたダーク・エルフの女性……
その女性の事を、さも知るが如くに、シェラザードは彼女の“個人名”を呼んだのです。
そしてなぜ、この地を訪れているのか……その理由も―――
すると……
「はっはっは―――ご挨拶だな、シェラザード。 私がどこにいようが、それは私が決める事だ。」
「ま…そりゃそうだわね―――(ハハ~w) まぁ~ったく、あんたが羨ましいわw」
「それより―――お前こそどうしたのだ、こんな処にいて……いいのか?」
「ヘヘ~ン、それこそ利子つけて返してあげるわよw 『私がどこにいようが、私が決める』……って、ね。」
「これは一本取られたようだな―――w そうか……では、『そう言う事』で、いいんだな……。」
そこで交わされた、数少ないやり取り―――
それでも、お互いの事を知り過ぎているくらいまでに、知り過ぎている……と、言う事を、クシナダは感じ取りました。
私は……この数ヶ月間で、やっとこの人の事が判りかけてきた―――と、言うのに……
彼女達は、私達の倍以上も生きてきた時間があるからこそ……なのだろう。
互いが、“誰”であるかを知っている―――
ちょっと……羨ましいな………。
時には―――憎まれ口を叩き合い……
時には―――好きな異性の争奪で発生される、激しいまでの言葉の応酬……
そうしたことで、この女性エルフの事に関しては、詳しくなった“つもり”……でしたが。
自分達が築き上げてきた以上のものを、2人はすでに築き上げていた……
それはさておき―――
「それよりかさ……久しぶり―――てことで、今の私の仲間達を紹介してあげるよ。 もちろん、クシナダの奢り―――で、ねw」
「(なっ?!)なにを言い出すのですかッ! 大体、私達のクランの財政難、一体誰の所為だと思っているの?」
「ジョ~ダンダヨw(ケラケラw) ほんと、あんたってば、期待裏切らないんだからww」
「フン―――言ってろ……ですわ、この『肥エルフ』!」
「(肥ッ…)今、なに言うてくれたんじゃい―――! こっ…こっ……ここ肥肥……肥エルフだとぅ~?!」
「その長耳―――ついてるのは伊達なんですか……。 ヒヒイロ様も、多くを言わないからいいようなものの…… 私達のクランの、慢性的な財政難―――その原因作ってるのは、あなたの暴飲暴食でしょうがッ!!」
ガァ~~ン
「う……薄々は気付いてたけど―――そうだったノ…ネ? で…彼―――何か言ってた?」
「(カチンー☆)何も言いませんでしたけど……そこは推して知るべしでしょうがッ!! 大体―――あんな暴飲暴食っぷりなのに、そんな体型保ってられるなんてッ―――嫌味以上のなにがありますか!」
「(………)―――ウラヤマすぃ~? 羨ましいんだろ?正直に言えよッw(プークスクスw)」
「シェる゛ぁ゛~?私の気が済むまで、“神殿送り”にしてあげましょうか??」
ダーク・エルフの女性がいる………というにも拘らず、クラン内でいつも勃発していると見られる、彼女と彼女のvs……
もしここで、いつもの引き止め役がいなかったら、この街は火の海に沈んだことだろう……が、幸いにも今回は、全く別の象での、引き止め役がいたのです。
「まあまあ―――お二人共w ここは私に免じてだな……。 それにシェラザード、お前は私に、お前の仲間達を紹介してくれるのじゃなかったかな。」
「そ~うしたかったんだけどネ~~w クシナダが、私の挑発に乗っかってくれちゃってくれるんだモ~ンw」
「ア・ナ・タ―――」
「シェラザード……揶揄のは、“悪い”―――とまでは言わないが、程々に……な。」
「わ~かってるって、さっ―――行きましょ♪」
いつもは、二人の仲に割って入って、宥めるのに四苦八苦している仲間がいた……
けれど今回は、そんな彼とはまた違い……そこは、この女性エルフの性格を、良く知り得ていたからこそ出来た芸当なのだ―――と、さながらにして気付かされたのです。
そして……自分達が良く利用している、待合い喫茶のラウンジに着くまでに……
「すまないな―――お嬢さん……」
「あ、いえ―――別にあなたが謝る謂れは……」
「彼女は―――なんと言っていいか…永の間、孤独だったものでな……。 言ってしまえば、他人との交流の仕方を知らないのだ。」
「(えっ―――……)」
「ただ―――今の彼女を見ている限りでは、実にのびのびとして、実に自由……実に愉しそうだ。 この私も彼女の事を170年も見続けてきたが……あんなにも感情豊かに振舞える様を、私は……私以外の誰かに見せたことを―――知らない。」
そのダーク・エルフの女性……アウラからの言葉は、言い換えてみれば、自分が彼女から、個人的に気に入られている事を、暗に物語ってもいるのでした。
そしてその事は、この後―――ある象となって顕れてくるのです。
そうこうしている内に、目的の場所まで辿り着いた彼女達は……
♯13;ダーク・エルフの『姫君』
「どうしたんだ―――やけに遅かったじゃないか……て、誰?その人……」
「(ムヒョッ?)アウラさん?」
「(ン??)ササラさ―――ん?ま??」
「(……)サンマは大好物でしゅけど……?」
「ああいや―――失礼…… しかし…『黒キ魔女』であるあなたが……また、なぜ?」
「まあ~紆余曲折アリ~ノで、今は私達のクランに所属してるってワケよ。」
「シェラザード……? ―――なるほどな、お前が一枚噛んでいるとなると、不思議ではなくなってくるな。」
すると、“こちら”でも、このダーク・エルフの女性の事を知っている人物が……
それがこの度、新たにシェラザード達のクランに加入をした、『黒キ魔女』であるササラだったのです。
それに……彼女はこの時、徐々に気づき始めていたのです。
それと言うのも―――
「ええ~っ? ちょっ―――ちょっと待ってくれ?? ダ…ダーク・エルフで、『アウラ』―――って、言ってたよな?」
「ああ―――そう言ったが?」
「ヒィ君?どうしたの?」
「クシナダ―――お前、聞いたことないか…… ダーク・エルフにして、一級の冒険者……その二つ名を、『黒竜の乗り手』と言われている……」
「(はっ!)そう言えば、アウラ…… どこかで聞いた覚えがある名前だと思っていましたが―――」
「それだけじゃないぞ……確か―――あなた様は……」
「(えっ―――?)」
「ダーク・エルフの王国……『ネガ・バウム』の『姫君』―――でしたよね?」
「よくご存じだな―――ああ、その通りだ。 しかし、それがどうかしたのかな?」
「そのあなた様が……うちのシェラと、どう言った関係が……」
「昔からの付き合いだよ―――それ以上の事実はいるまい?」
確かに、昔からの付き合い感は感じられる……
事実、ここに来るまでの僅かな時間でも、彼女同士の緊密さは知れてくるところだったのですから。
しかし―――今また別の事実を突き付けられてくると、それまでの事実が上書きされてくる……
アウラは―――ダーク・エルフの王国『ネガ・バウム』の“姫君”で……
その“姫君”と、昔からの付き合いがあると言う、自分達のクランに所属する女性エルフ―――
? ?? ???
『昔からの付き合いがある』を、額面通りに受け取るならば、肌の色の違いは別として、同じ“エルフ”同士なのだから……と、思う事がある。
―――が、しかし……果たして、一つの王国の、それも“姫君”との付き合いが、『昔』から……?
そしてこの後―――この“答え”は、衝撃を以て突き付けられてくるのです。
つづく