#12
普段、彼女といる時には、目にすることなどなかった―――
彼女の両耳を飾る『装飾具』……
“それ”が何であるかも知らず、クシナダは……
シェラ?あなた……“それ”―――
“そんなもの”どうしたと言うの?
私達と一緒にいる時には、身に付けているのを、目にしたことなどなかったのに……
その“石”は、太陽の光を遍く吸収し、その『カット』の仕様も相俟って、光りの乱舞が―――“乱反射”が、起こる……
それは今、『自分がここにいる』と言う事を、知らしめんが為に―――?
けれども―――……
「それより……全くなんと言っていいか―――なんと言うか~~」
「あんたに、エルフの自覚っちゅうモンはないんか?あ゛あ゛?(エルフ語)」
「なんだと?自覚? はっ―――そんなものは、いつでも持っている! このオレ様こそが至上!至上にして高潔!高潔にして高貴!! それこそが、オレ様がエルフの貴族として生まれたあか……(エルフ語)」
「はああ゛~?なにさっぶいこと言うとんじゃ、お前ェ…… よう、自分で言って、恥ずかしくならんかあ? 聞いてる、こっちが恥ずかしくなるわぁぁ~~(エルフ語)」
「な…何だと?貴様―――同じエルフだと思っていれば、付け上がりおって~…… いいか!このオレ様は、貴様のような庶民の出とは違うのだ! その貴様が、侯爵家に盾突くと、どうなるか―――(エルフ語)」
「出タヨ……“侯爵家”出せば、どうかなると思ってる、腐った根性――― よっし、判った……ちょい個人的な話しィしようや―――“こっち”で、なァ?(エルフ語)」
途中で、何を話し合っているのか判らなくなってきた……
しかしそれは当然のことで、人族であるクシナダや、周辺にいる獣人や亜人達も、彼ら彼女の会話が判別不能だったのは、正しかったのです。
それと言うのも、この侯爵家御曹子とシェラザードの会話こそ、種族間でしか通じ合わない、『エルフ語』だったのですから。
しかも、どうやら自分達の仲間である、女性エルフの感情が昂ってきたからか、形相が『鬼神』の様になってきた……
言っている言語は、判別がつかない―――までも、感情としては、激しく怒っているのが判る……
それに、彼女が何に対して怒っているかが判ってきた時、仲間の女性エルフは、侯爵家御曹子を、人気のない裏路地へ連れ込んだのです。
そこでは……?
「お前なあぁ~~エルフの評判落としてくれて―――どう責任取ってくれるつもりよ? お゛?(エルフ語)」
「なっ……きっ、貴様の方こそ、そんな暴力的な言葉づかい―――(エルフ語)」
「はあ゛あ゛~~?聞こえんなあ~? それに、この“私”に、自分が侯爵家の出身てことが、通用すると思ってんのが、嗤いが込み上げてくる……っつうかw なあ……兄ちゃん? あんた、貴族辞めて、“芸人”なった方がマシやぞ?(エルフ語)」
「(な……に?この凄味のある喋り方―――?)まっ……まさか―――きさ………いや、“あなた様”は??(エルフ語)」
「―――っったく……ホントは、“ここ”までするつもりはなかったのにさぁ。 それによ、何が一番いけ好かんかと言うとな、 『私は貴族の出ですぅ~、どうぞちやほやしてください~~』 なんて言う、“勘違い”が、私にしてみりゃ気っ持ち悪いと言うか、怖気が立ってくる……て言うか。 いいか―――これ以上私を不快にさせるようなら、本格的にシメるぞ?!ぁ゛あ゛?(エルフ語)」
そう言えば、他の(貴族の)子弟からの噂で聞いたことがある……
現王国の王女は、社交的にもそれなりの振る舞いはするものの、自分が気に入らない(貴族の)子弟を、こんな風に人知れない場所まで連れ込み、筆舌し難い内容の暴言を吐いたり、時には腕力に訴えることがある……と。
上流貴族の『侯爵家』の御曹子を、人通りの少ない“裏路地”まで連れ込んだ彼女のしたこととは。
なにも甘やかな色恋の告白をする―――と、言うようなことではありませんでした。
とは言え、見知らぬ者がその裏路地を通りかかった時は、建物の壁に男性の背を押しつけ、色恋の告白を強引に押し通そうとしている女性……
その強引な様子は、男性が逃げようとしても逃げられにくいように、女性の腕も壁に押し付けてあり。
{*いわゆる“壁ドン”状態}
しかも女性の表情からしてみても、端から見たら、一種の『修羅場』の様にも見えもしたのです。
{*例えば浮気の発覚とかw}
しかし、事実はそうではなかった―――
彼女は、彼女自身が不快に思っている事実を前に憤慨をし、『厳重注意』をしているに過ぎなかったのです。
それに、徐々に気づき始めた侯爵家御曹子は、“禁句”を口にし始める―――……
「城にいるはずの―――? あなた様がなぜこのような……(エルフ語)」
「私がこんなところに居たらいかん―――て、誰が決めた? そんなにまで私の自由を奪いたいんか……あ゛?(エルフ語)」
「(う…ぐギギ)い―――いいんですか……? “あなた様”が……城ではないところで……このオレ様に危害を加えれば―――(エルフ語)」
「暴露すっちゅうんか――― あんた中々面白いこと言いよるの? ええで?構わんで? 暴露せるもんなら暴露してみろや?w そん代わり―――私はあんたの事を解体するで……(エルフ語)」
「ヒ……ヒイイッ―――! そ、それだけはご勘弁をっ!! わ―――判った、判りました……も、もう奴らには近づきませんから!!(エルフ語)」
「なにを今更、そんなことを言いよんの…… 上級貴族かなんだか知らんけども、上級貴族の、そういう日和見なところも、いけ好かないんだよ…… あんたも―――エルフの貴族言うんやったら……肚ァ括ってモノ言えぇや!!(エルフ語)」
#12;本領発揮
一体、どちらが“悪役”なのやら……w
それはさておき、シェラザードが上流貴族の御曹子を、人気のない裏路地へと誘い込み。
甘い恋路の誘惑を囁きかけていた頃……
今回、被害に遭った犬人族の子供とクシナダは……
「もう大丈夫よ……大丈夫だから―――ね?(どうしよう…泣き止まない……)」
例の出来事から幾何か経ち、興奮の熱も少々冷めてきた頃、自分の目の前で展開された出来事の所為もあり、犬人族の子供は、泣いてしまいました……。
本来なら、クシナダも、ぐずる子供を宥めるスキルは有していましたが、彼女自身も、自分の目の前で展開された出来事に理解が追いつかず、多少混乱していたことは否めなかったのです。
すると―――……
「どうしたのだ―――」
「あっ、はい―――(えっ……この人―――エルフ? けれど、肌が浅黒い……と言う事は、もしかして?!)」
エルフながらも、浅黒い肌を持つ『ダーク・エルフ』の女性……
その女性が、未だ泣き止まない犬人族の子供を、宥め始めた……
「よしよし……もう泣かなくていいから―――エルフも、あんな連中ばかりじゃないから、安心しなさい……。」
武骨な印象を与えがちな『ダーク・エルフ』……
けれど、その時クシナダは、そんな印象とは裏腹なことが出来る、このダーク・エルフの女性に、惹かれていました。
武骨ながらも、その内に美しさ漂う―――“凛”とされた方……
シェラやシルフィとは、また違う印象……
一体、この方は誰なのだろう―――……
幸いながらも、恐怖に震え、泣いていた犬人族の子供は泣き止み、自分の事を慰めてくれたダーク・エルフの女性とクシナダに対し、お礼をしてその場を立ち去っていきました。
その後―――侯爵家の御曹子を人気のない裏路地に連れ込み、そこで、やるべきことをやり終えた、エルフの女性が戻ってくると―――
「クシナダぁ~~全く―――面倒起こすな……よ??!」
「あっ―――シェラ…… (?)どうしたの?」
「アウラじゃない! どーうしたの?」
「(アウラ……)それがあなたの名前―――」
自分が貴族のバカ息子に、少々過激な“お説教”をしていた時に、現れたと思われるダーク・エルフ……
その女性の“個人”を特定できる“名前”を呼んだ―――
クシナダは、人族であるがゆえに、そのダーク・エルフの女性の事を知りませんでした。
けれど彼女同士は、エルフであるがゆえに、お互いの事を知っていても不思議ではなかった……
ですが、そう……そのダーク・エルフの女性『アウラ』こそは、シェラザードの事を、知り過ぎるくらいに知っていたのです。
つづく