#11
自分が、“身代わり”の為に放った、『凝似生命体』の鳥は、返ってきました。
そこで彼女は、『今の処、異常はない』―――との報告を受けたのでしたが……
ふぅ~ん……どうやら、勘のイイやつは動き出した―――ってか。 特に、あの“連中”の周囲が活発的になってきてる…… 少しここは―――用心に越したことはないのかも、ね。
『宮廷闘争』『政争』の何たるかを知っている彼女にしてみれば、例えそれが、何の変わり映えもしない由無しごとだったとしても、敏感に感じられる処だったのです。
今も、“身代わり”からの報告で判ってきたように、以前から自分が注視している者達が、また自分達の利益のためだけに動こうとしているのを知るのでした。
……が―――
“知っている”ことで身動きが取れなくなることを、この度学んだ……
確かに“今まで”は、『城』と言う限られた“圏内”にいたことから、自分が知り得た事実を武器に、そうした者達の企み事を幾つも潰して来た……
けれども―――
“今まで”『そうしてきた自分』が
“今では”城とは関係のない場所にいる……
その事に薄々勘付き始めた者も、出始めてきたものと見え。
はたまたは、現在城内にいる『王女』が、“本物”であるかどうかを確かめる為の謀が、講じられようとしている……
ここは、一度城に戻るべきか―――
それとも、“身代わり”の能力を信じ、任せてみるべきか……
迷っている時間は少ない―――とはしながらも。
一度出奔た城に戻れば、『身中の蟲』の謀は、未然に防げる……が、しかし―――
もう一度出奔られるか……と、言えば、その確率は限りなく低くなるだろう。
いずれにしろ、決断しなければならない機は、迫っているのです。
それとはまた『別』の話しとなるのですが……
こうした『話し』の“設定上”、『エルフ』と対をなす“種族”のことを、どうしても避けてはならないのです。
そう―――それは……
その肌は『浅黒く』、身体能力に関しては、エルフをも凌ぐ―――と、されている……『ダーク・エルフ』
今、そうした特徴を持ち合わせた“女性”が、マナカクリムを訪れたようです。
ふむ……久方ぶりになるが、来てみるものだな―――― ここの処、“公務”が押して、訪れる機会もなかったのだが……
“彼女”は、『ダーク・エルフ』……
その王国『ネガ・バウム』の『姫君』でした。
然しながら、この姫君は、ダーク・エルフの“王族”であるにも拘らず、城から外出し、自由に歩き回ることが出来ていた―――。
“王族”であったとしても、『束縛』をするエルフとは、対照的―――
しかも………
ここまできたなら、足を延ばしてエヴァグリムに寄ってみると言うのもいいな。 それに、『土産話』を手土産に、王女に会うと言うのも…… フフ―――ならば、精々耳の肥えるネタを探し出さねばならんな。
『ダーク・エルフの姫君』……名を『アウラ』と言いました。
しかも、彼の王国の王女であるシェラザードの事を……?
そう、実は彼女こそは、数少ない王女の理解者でもあったのです。
数ある『お話し』の内では、よく“対立関係”として描かれている、エルフとダーク・エルフでしたが、どうやら、この『お話し』では、対立関係にはないようで…………
? ?? ???
それはさておいて―――
ここで少し、『厄介の種』と言うものが蒔かれたようで……
#11;装飾具
「あなたっ―――! なんなのですか……こんな小さな子を突き飛ばしたりして!」
「ああ~?!突き飛ばしたあ~? そのガキから、オレ様にぶつかってきたんだろうが。」
「(なっ―――)なんですって?!」
「『獣人』と言う、下賤の身が、侯爵家の御曹子であるオレ様に、ぶつかってきた――― それが何を意味するか、分かっているのか?人族の女。」
それは、エルフ―――しかも、『侯爵』と言う、“爵位”で『公爵』に次ぐ、序列の高い家柄……
つまりは、“そういうこと”―――
エルフの上級貴族にぶつかってきた、『犬』の獣人族の子供……
その子供を蹴飛ばすなどして、暴力行為に訴えていたのです。
しかし―――……
そう、この出来事の一部始終を、クシナダはその目に収めていたのです。
彼女は見ていた……エルフの貴族が言っていたことが真実なのではなく、“彼”の進行上に、偶々……犬人族の子供が居合わせただけ。
ほんのちょっと―――気付いていれば、回避できていた出来事……
なのに、身分の富貴―――種族の優位性を逆手に取り、及ばれてしまった“行為”……
シェラや…シルフィは、こんなのじゃなかったのに―――
“これ”が『エルフの貴族』だと言うの?
クシナダは、これまでの生涯付き合ってきたエルフと言えば、『シェラザード』と『シルフィ』の2人だけでした。
シルフィとの関係は、最早言わずもがなでしたが。
シェラザードは……まあ、鼻に衝く処はかなりありましたが、それも今にして思えば、自分の目の前にいる、横暴なエルフの貴族程ではなかった……
確かに、口はぼったい処も少々―――(“少々”?w)
口調も興奮すると悪くなる事もありましたが、その“性根”は、どことなく『善良』だった……そう感じたのでした。
そしてまた―――実は……
はあ~あ、気の向くまま、城から出たはいいものの、あの“連中”の動向にも、気を配らなきゃならんとは……
その日、シェラザードも、その界隈を通っていました。
そう……クシナダと、エルフの上級貴族との、衝突の現場近くを……
……ん?
―――ん・ん・ん?
あいつ……侯爵家の御曹子?
―――て、なんだよ…クシナダも、あんなのに突っかかって……よしときゃいいのに―――
シェラザードが目撃ていたのは、大まかにして……
エルフの上級貴族である、侯爵家の御曹子と、自分の仲間であるクシナダとが、“言い争っている場面”―――だけでしかありませんでした。
そう、シェラザードは、言い争うまでに至った経緯までは、知らない……
知らない―――までもが……
どちらを信じるかは、最早口にしなくても判っていた事……。
すると彼女は徐に、城を出奔してからと言うものは、一度たりとて身に付けてはこなかった、『ある装飾具』を、収めてあるポーチから取り出すと、種族として特徴のある、両の長耳に取り付けるのでした。
その装飾具は、目も眩まんばかりに煌めき輝ける……
およそ10カラットはあろうかと思われる『緑柱石』―――
その宝石の大きさも然ることながら、石の周りを取り巻く、純金であしらった『金細工』……
しかし―――その『装飾具』こそは……
「ちょお~~っと、いいかしらあ~?」
「なんだあ~?お前は―――」
「“こいつ”の仲間だよ―――」
「シェラ―――?」
「なあ~にやってんだよ……全く――― こんな“バカ息子”と、事を構えるなんてさあ……。」
「なっ―――なんだと?貴様…… 侯爵家の嫡子であるオレ様の事を、『バカ息子』だとお~?」
「バカをバカと言って、なあ~にが悪いんじゃ―――バ~~カw」
言っている事は、最早『ハチャメチャ』……
子供の口喧嘩レベルと言っても、差し支えなかった……。
そんな内でも、彼女の両耳を飾る『装飾具』は、彼女の大きな身振り手振りの所為もあり、左に右に揺らめき始める……
しかも、その“石”は、太陽からの光を遍く吸収し、乱反射するなどして―――
つづく