#9
こっ……このお子ちゃま“保護”しちゃって……
んで、裏条件でのクリア―――で……
本来の成功報酬額の『50倍』??
……ってえ~~―――そんな“額”、『ギルド』……や、況してや『個人』で支払える範疇なぬか??
これまでにも、その『SSS』もの依頼を、クリア出来た者(達)は、いませんでした。
その理由も、発注者自身である『黒キ魔女』本人が、自分を討伐する為に向かってくる数多の冒険者たちを、『返り討ち』にしていたから……
ですが実は、意図的にササラが、読み辛いまでの細やかな字体で、依頼書の、あまり目立たない部分に書いてある『注意書き』を読解出来ていれば、難度『E』にも匹敵するような簡単さになっていたのです。
その“条件”とは、たった一つ―――『保護』……
そして今回、見事その条件を達成した冒険者のPTがあったわけなのですが……
本来の成功報酬額でもある、1億リブル―――
それだけでも、相当高額なのに、“裏”条件でクリアすれば、その本来のモノより、『50』もの倍率を与えられた……
言ってしまえば、一国家の国家予算にも匹敵しうるような“額”を、果たして『ギルド』……か、はたまたは『黒キ魔女個人』が支払えるのか……
ですが、実はここにも、巧みに仕掛けられた奸計が―――
「ところでお母上―――どういたしましょう? この依頼自体、私の日頃の鬱憤を晴らしてくれる、手段の一つでしか、なかったのですが……」
うえ゛っ?! なにこの子……なんだかドえらいこと、口にしちゃってるんですけどぉ?
「ですから、調子に乗り過ぎてしまって、“裏”条件での倍率も、引き上げてしまったことですしねェ……」
―――て、おいおい……“それ”って、クリアすること自体無理……って言う、『無理クエ』なんじゃねえのか??
なんと言うか……『イイ性格』―――
「そうねぇ―――それに今まで…… あなたが最初に提出した200年も前から、一度たりとてクリアがなかった……」
「(―――は???)いいいいいいいいいいいやいやいや、ちっ……ちょっと待て―――ってえ? い……今、なんて言ったんです??」
「えっ? ああ―――この依頼ね、現在から200年も前に、この子自身が出しているのよ。」
「(ふおっ?)に……200―――年……て、わ、私、今、172歳なんですけどォ? わ……私より―――先輩??」
「(ム~~)私、これでも220年生きてますよ?」
「そ―――それなのに……外見上が“少女”……なんて……。」
「(まあ……問題はそこじゃないんだけれど、ね―――)それよりどうするの、ササラ…… そんな高額、ギルドは本より、私の家で供出するのは無理よ。」
そこで“真実”は、語られる―――……
そう、この依頼自体は、現在より200年も前―――更に言えば、ササラが20歳の折に提出したモノであり、その時から現在に至るまでの期間、一度たりとてクリア出来た者(達)など、一つとしてなかった……
けれども、今件の様にクリアをしたところで、支払われるべき50億リブルもの大金は、それが例え『組織』であろうが、『個人』であろうが、支払えるわけがなかった……
の で す が
“これ”が実は―――巧みに仕掛けられた、黒キ魔女の奸計……
「そこで―――です、お母上…… 以前にも申していたように、私は、この身を売ります。(ムヒッ)」
「(ふあっ??)み…『身売り』~~って……何言っちゃってくれてんの?」
「依頼を提出したからには、成功報酬は、如何なる場合―――如何なる事情があろうとも、必ずや支払わねばなりません。 もし私が、『支払えない』との理由で、私からの無理難題をクリアしたあなた達に、何も支払われないようであれば、ギルドの信用性も一気に落ちます。」
「ああ―――言われてみりゃ確かに…… けど……さ、いくらあんたが『黒キ魔女』だからと言って、その身を売ったところで、そんなにはなりはしないと思うぜ?」
「勘違いをされては困ります。 この私の『身売り先』とは……『あなた達』なのですから。」
「(!)ま……まさ―――か、あなた様は?」
「ウ・フ・フ―――その通りです。 あなた達のPT……もしくは結成されているクランに加わり、共に依頼をこなして行く――― その際に発生する成功報酬は、私に支払ってくれなくても構いません。 今回の、あなた達が得られるはずだった、50億もの額を稼ぎ出すまでは、私がこの220年間培ってきた知識と経験と共に、あなた達と過ごす…… これが本当の、私からの成功報酬の正体なのです。」
その奸計の正体こそは、黒キ魔女自身の『身売り』でした。
しかしそこで、即座に『イケナイ』想像をする者もいたようなのですが、その事はすぐにササラ本人より否定が為された……
50億もの高額を、支払えるわけが、ない―――……
けれど、“裏”設定でなされた条件で、見事クリアを果たした者達がいる……
だからこその、『身売り』―――
それは、『黒キ魔女』として、数々の高等魔法を極めた者が、一つのPT――― 一つのクランに加われば、どう言った影響が及ぼされるか、判ろうと言うもの……。
そして『これ』が本音―――
僅か20歳(人族の年齢に換算すると2歳前後)で、冒険者の、どの術師よりも、術師としてのレベルを極めてしまった者……
端から見た時には、誰しもが皆、羨むことでしたが……
彼女は孤独だった―――
『獣人』なのに、【天使言語術】が扱える、唯一の存在……
だからこそ、重宝がられもし―――
何よりもまた、不気味がられた―――……
僅か20歳と言う、未だ精神年齢も形成されない機に、そう言ったものに中ってしまった者の心境とは、いかに―――?
だからこその、無理難題……
そのことが、ちょっぴり判ってきた気がした―――
だからこそ、“彼女”は―――
「そっか―――そう言う事だったんだ…… うん、判るよ―――私には……」
「シェラ―――?」
「私も……結構な年月、束縛されてたことがあるから、孤独辛さは判るよ……。 だから私は、自由を嘱望した――― その結果として、“ここ”にいるの……。 いいもんだよ―――『自由』って……そして、『仲間』って……。」
私は孤独で、自分がやりたいことも出来なかった。
私の周囲りには、沢山の人はいたけれど、『仲間』って呼べる者は、誰一人としていなかった……
だから―――判るよ……あなたが……
#9;仲間と共に駆けたい動機
“彼女”には、未だ仲間にも話せない事情と言うものがありました。
けれど―――だからこそ、尚更ササラの事情が理解できた……
この人は、孤独―――その見かけ以上の強さを持ってしまったがための……
誰からも、その実力を求められもし―――
また、誰からも、その実力ゆえに、煙たがられた―――
だからこその、あの見え難い『注意書き』こそは、黒キ魔女の『心の叫び』のようなもの―――
最強の術師であるがゆえに、この手を取ってくれる者は、皆無―――
この手を取り―――共に駆ける仲間達が欲しい……
それは、170年間、『王族』という束縛に捕らわれていた、『王女』だったからこそ、判り得た事情だったのです。
こうして―――新たな仲間加えたシェラザード達でしたが、
その直後から、不穏な空気は漂い始めたのです。
つづく