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第6話 勇気

『最強のミルクティー‼ 現実も超えるそのおいしさ、いつ味わうの? 今でしょ!』


 そんな売込みとともにこのお店が紹介されている記事を発見する。

 ご丁寧に道案内の地図までついており、目印になるようなものも丁寧に書いてあることから、このお店にたどり着く難しさと、この記事を書いたものの優秀さが伺える。

 

 マグナは、お気に入りの穴場のお店が人に知られてしまった事実を嘆きながらなんとか笑顔を保ちつつ三人に話かける。

 

「や、やっぱり有名になってしまいましたかー。ここのミルクティー美味しいですからねー」

「あ、やっぱりそうなんですか! 古参の方のお墨付きともなると期待せずにはいられませんね!」

 

 マグナは内心を悟られないように少しおどけたように話す。そんなマグナの内心を知らないミーナがさらにマグナに話しかける。


「ってことはマグナ君もよくここに来るの?」

「ええ、まあ……」

「へー! というかよくこんな場所見つけられたね。私達なんて地図があっても迷ったのにー」

「僕も自力で見つけたわけではありませんよ。仲間にこういう場所を探すのが好きなフレンドがいまして」

「へー! フレンドってもしかしてギルドメンバー?」

「……! え、ええ……まあ……」

「ギルドかー、やっぱり入ったほうがいいのかなー?」

「う、うーん……どうでしょう?」

「そういえばマグナさんは百レベなのにどうしてあそこのステージに?」


 いきなり少し掘り下げられると困る質問をされ、マグナは動揺を隠せなくなる。

 ココは少し空気が変わったことを敏感に感じ、話を変えてくれる。

 

「ああ、それは素材集めですよ。高レベルの魔法やスキルの中にはアイテムが必要なものがありますからね」

「へー! あのステージでしか手に入らないアイテムなんてあったんですねー」

「いえ、そういうわけではありませんよ」

「え、でも……」


 百レベルのマグナがわざわざレベルの低いダンジョンに来るのは、ここでしか手に入らないアイテムがあったから。

 そう考えたココに対して、マグナは首を横に振る。


「僕が欲しかったアイテムは……」


 そういいながら、マグナはアイテムボックスから白いクリスタルを取り出す。


「この『聖属性の結晶体』です」

「「え! これ?」」

「ん……」


 取り出されたアイテムを見て、ココとミーナは思わずといった感じで声を出し、今まで黙っていたレオンですら驚きに目を見開く。


 しかし、彼女達が驚くのも無理はないだろう。

 マグナが取り出したのは、六十レベルのココ達ですら持っているドロップ率は低いものの、低ランクの雑魚モンスターからでもドロップする。

 百レベルのマグナが、わざわざ足を運ぶようなものとはとても思えなかった。


「確かにドロップアイテムの中じゃ結構高く売れるもんだけど……、確かこのアイテムって高レベルダンジョンのほうがいっぱい手に入るんじゃ……」

「ええ、そうなんですけどね。僕は召喚魔法以外がからっきしでして……。今日は運悪くギルドメンバーも留守で……。ソロだとPK対策も考えないといけないですからね。あそこくらいがちょうどいいんですよ」

「なるほどー」

「はい、一度で大量に使う割に一個が結構いいお値段しますからね」


 高位の魔法ともなるとこのアイテムが百個以上使うこともある。

 オークションなどで他のプレイヤーから購入することもできるが、無駄な浪費を好まないマグナは、暇があればこうやって集めるようにしていた。


「そうなんだー! じゃあ、私達が持ってるやつ全部あげるよー!」

「ミ.ミーナ!」


 そういったミーナは、ココの制止も聞かず、アイテムボックスを開き中身を確認する。


 だが……、


「無くなってる……、二十個くらいあったのに……」


どうやら「盗賊の塒」にすべて奪われてしまったようだ。


「私も無くなってます……」

「……私も」


 三人とも『聖属性の結晶』を奪われてしまったようだ。先ほどまでの明るい雰囲気とは一転し、暗い雰囲気になってしまった。


「い、いえ本当にお礼は構いませんよ。今回でストックもかなりできましたから。……ではこれで自分は失礼しますね」

「え、あ……」


 ミルクティーも飲み終わり、ギルドメンバーであるクーリ・クーとの約束の時間が迫ってきたマグナは立ち上がる。二つ目の質問を聞いていないが、聞ける雰囲気でもない。仕方ないと割り切る。


「あ、あの!」


 背中を見せて立ち去ろうとするマグナに、思わずといった様子でココが立ち上がりながら声をかける。


「なんでしょう?」

「あ、そ、その……」


 ココの言葉にマグナは立ち止まってくれたが、その言葉の先が出てこない。


「その?」

「……あ、いえなんでもありません」

「左様ですか。ではこれで……」


一瞬の沈黙の後、マグナは再び背を向けてお店を出ようとする。


「待って!」


 店内に響き渡る声。


 驚いたマグナは再度振り返り、そこでさらに驚くことになった。

 大声を出したのは、ココでもミーナでもなく……。


 三人の視線の先にいたのは、震えながら両手を握りしめるレオンだった。人見知りな彼女の精いっぱいの勇気であった。


「あ、あの……、私達と、パ、パーティーを組んでほしい……です」

「「「……‼」」」


 ココやミーナにとっても意外だったのだろう。驚きに目を見開きながら、レオンを見つめる。

 出会って短いマグナにとっても意外であったため、思わず立ち尽くしてしまう。


「……」

「あ、あの私からもお願いします!」

「マグナ君、お願い!」


 ミーナまで立ち上がり、マグナに頭を下げる。マグナは突然のことに驚き、固まってしまう。

 しかし、お願いされた返事をしなければならない。一つ咳をして精神を立て直す。そして、少し考えてこう返事をした。


「その答えは……ここではできません。ただ、もし時間があれば一緒に僕のギルドに来ませんか?」


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