第4話 職業
【マグナ・カルマ:お疲れ様です。すみません、ちょっと問題が発生しました】
「エンジェルガーデン」を無事に出ることができたマグナは、ダンジョンから一番近い街に着くと、すぐに街の酒場に入るなり、ギルドチャットにそう書き込む。
すると、すぐにギルドメンバーから返信が返ってくる。
【クーリ・クー:おつっすー。どうしたん?】
【マグナ・カルマ:クーさん、おつです。今さっき、『盗賊の塒』のメンバーとちょっと争いになりまして……】
【クーリ・クー:おー? それでどうなった?】
【マグナ・カルマ:相手レベルが低かったおかげですぐに逃げていきました】
【クーリ・クー:オケ。今、「五重の塔」四階だから、一時間後にギルドホールで詳しく教えてー】
【マグナ・カルマ:わかりました】
百レベル専用ダンジョン「五重の塔」。
モチーフは名前の通り、現実にも存在する五重の塔である。
各階層が一つの巨大な部屋になっており、それぞれの階層には決まったボスと雑魚モンスターが現れる。
決まったボスしか出ないので、きちんと対策をたてていれば特に問題なく攻略できる。
マグナ達はすでにクリアしたダンジョンだが、五階のボスが超低確率で希少なアイテムを落とすため、周回でもしているのだろう。
(ふぅ……)
そこでマグナはギルドチャットを閉じ、ため息を一つ吐く。
『盗賊の塒』の構成メンバーは百人を超える大所帯のギルドで、一年くらい前からその名前を聞くようになっていた。
先ほどのメンバーは、リーダー以外は中堅メンバーといったところであろう。
しかし、古参のPKギルドだけあって危機察知能力は高かった。
マグナの召喚した『断罪の智天使』からのダメージ量だけで、即座に召喚モンスターと判断した判断能力と撤退の早さは熟練したものだ。
さらに、使われた煙玉も高ランクのアイテムであり、八十レベ相当の探知スキルを持つ『断罪の智天使』が見失うほどであった。それを惜しげもなく使うということは、それだけ資金力も高いということだ。
先ほどのため息は、そんなギルドと争う可能性が出てきたことに対するものだ。
マグナが使った魔法は『追撃する智天使の門番』だけで、これは高レベルの召喚魔法ではあるが、決して使える人間が少ないわけではない。
『追撃する智天使の門番』を習得する条件は、プレイヤーレベルが九十レベル以上であることと、属性値の比率で聖属性の比率が八割を超える必要がある。さらに、天使を召喚できる職業の中でも上位職が必要である。
「Infinity of The Life」では、十レベルにつき一つの職業に就くことができる。
つまり、百レベルのプレイヤーはほぼ全員が十個の職業に就いているということである。
職業の中には、最初から習得できるもの、レベルで解放されるもの、特定のスキルを持つことで解放されるものなど様々だ。
その中でも天使を召喚できる上位職を持っており、かつ、聖属性に偏った属性値を持つプレイヤー。
十億人のユーザーを持つゲームだ。これくらいの条件であれば、珍しくはあるものの決していないわけではない。これだけでマグナを特定するのは困難である。
とはいえ、見られている可能性も存在する以上、安心もできない。
誰にも見られないようにしながら探索をしていたつもりだが、隠密スキルを持っていないマグナではできることに限りがある。
(面倒くさいことになったなー……)
そんなことを考えていた時だった。
入口のドアに取り付けられた鈴の音が鳴り、客の来店を告げる。
「あー! あそこの人! ねー見て!」
店内に女性のその言葉が店内に響いた。
その声にマグナが振り向くと、
「ほら! やっぱりさっきの人だって!」
そこに立っていたのは、先ほどマグナが救った三人組の女性プレイヤーだった。