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第2話 プレイヤーキラー

 そんな時だった。


「ほらほらどうしたー! もっと早く逃げないと捕まっちゃうよー?」


 そんな声が遠くから聞こえてきた。


 その声を聴いた瞬間、マグナは反射的に近くの柱の陰に飛び込む。

 そして、アイテムボックスから水色の透明な布「神隠しの羽衣」と装飾が一切ない淵が真っ黒な手鏡「闇に潜む者の手鏡」を取り出す。


 前者は羽織ることで九十レベルクラスの隠密が可能になり、後者は手鏡のように手に持つことで物陰に隠れながら反対側を見ることができる。

さらに、百レベル相当の視認探知スキルでもなければ見られていることを察知できない。この二つは、百レベルクラスの最高難度ダンジョンを周回しなければならないほどの超低確率でドロップする希少アイテムだ。


 マグナは、「神隠しの羽衣」を絹切れの音がしないようにゆっくりと羽織りながら、手鏡で声のしたほうを映す。


 そこで行われていたのは狩り。

 狩っているのはもちろんプレイヤー……。

 そして、狩られているのもプレイヤーだった。


「ほらほらー! 早く逃げないとせっかく集めたアイテムが盗られちゃうよー!」

「ほーら! また君達が苦労して集めたアイテムがなくなっちゃうよー!」


 そんな不快な声とともにプレイヤーがプレイヤーを追っていた。

 追われているプレイヤー達の装備はこのダンジョンを攻略するのに特化した六十レベル相当の装備品。装備品は既製品であり、マグナも昔お世話になっていた、聖属性と火属性にかなり高い耐性を持つ装備である。レベルも安全マージンぎりぎりであり、恐らくこのゲームを始めて半年かそこらといったところであろう。


 一方、追っている側のプレイヤー達の装備は九十レベル相当の装備品で固められており、明らかにこのステージのプレイヤーよりも遥かに高いランクの装備品をまとっていた。

 それをみたマグナの頭にはとある言葉が浮かんだ。


 雑魚狩り。

 レベルや装備のランクの高さで下手をすると一生攻撃しても倒せないほどの差がつくこの「Infinity of The Life」では、高レベルプレイヤーが低レベルプレイヤーを狩ることはマナー違反として嫌われている。


 そもそも、そういったマナー違反行為を禁止するために、強いプレイヤーが自分よりも十レベル以上低いプレイヤーをキルしても持ち物はドロップしないようになっている。

ほかにも、盗賊系のスキルも盗めない、もしくは低ランクのアイテムしか盗めないようになっている。


 それゆえ、強いプレイヤーが弱いプレイヤーを狩る物質的メリットは全くないといっていい。ほかに考えられる理由、それは心理的なメリット、いわばストレスの解消である。

 ゲームの世界で弱いプレイヤーを狩り、ストレスの解消をするというプレイヤーは決して多くはないものの存在するのは事実である。


 一瞬そう結論付けようとしたマグナだったが、すぐに考え直す。

 彼らはせっかく集めたアイテムが盗られる、といっていた。彼らのレベルは九十台。運営のPK対策によって、彼らがレベル六十台のプレイヤーからランクの高いアイテムを盗れるはずがないのだ。


 そこで、マグナはふと一つの噂を思い出していた。

 それはレベルの高いパーティに一人だけレベルの低い盗賊プレイヤーを入れ、そのプレイヤーにアイテムを奪わせるというルールの穴をつくような方法がある、と。


 そこで注意深く、追っている六人のプレイヤーを見ると、……いた。

一人だけレベルが六十台前半のプレイヤーが場違いにも九十レベルプレイヤーに守られるように逃げるプレイヤーを追っていた。


 こういったことは決して多くはない。こんなことをすればアカウントは即座に掲示板にさらされ、まともにパーティを組むことはおろか、ろくに街すら歩けなくなる。

 しかし、それを覚悟のうえでこの様な悪質なプレイを続けるギルドをマグナはいくつか知っている。


 そして,

彼らの名前の横についているエンブレムを見て確信に至る。


 足にサンダルを履かせた紋章を掲げる盗賊PK専門ギルド。

「盗賊たちの塒」 

 盗賊ギルドは数多く存在するが、プレイヤーから散々貴重なアイテムを奪った後に、惨たらしくPKを行うことで有名な悪質ギルドである。


 このギルドによって、ゲームを引退した中堅プレイヤーは掲示板でたびたび目撃されていた。

 再三にわたり運営に垢BANをしろというクレームが入ったが、それに対して運営はこのゲームのコンセプトである、「このゲームは地球上には存在しないもう一つの異世界」を理由にそれ以上対処しようとはしなかった。


 その結果、こういった悪質な行為が陰で行われるようになっていた。


(助けに行くべきか……それともこのままやり過ごすか)


 マグナは一瞬、迷う。助ければメリットはないにもかかわらず、盗賊ギルドに目をつけられるという面倒ごとを引き起こしかねない。ギルドに所属するものとして、厄介ごとはできる限り避けるべきだという考えが頭をよぎる。


 だが、


「誰か! 助けて!」


 追われていたパーティの、その悲痛な叫び声を聴いた瞬間、弱かったころ自分が同じことを叫んだ過去がフラッシュバックした。


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