第92話 野牛を止める
今年1年ありがとうございました。
一時完全に煮詰まってしまいましたが、思いの外多数方に読んでいただいているので、どうにか第一章完と言えるところまで月に一度以上の更新を目指しています。
気長に読んで頂ければ助かります。
冬の童話企画に、本日『僕の探し物』という短編を投稿しました。
興味のある方は読んでいただけると嬉しいです。
それでは良いお年を。
俺達は、地面に横たわる子供の亡骸を放っておく事は出来なかったので馬車へと運び込んで、そのまま野牛の群れを追う事にした。
「メルエ、悪魔の眷属は倒したけど、野牛は街の方へと向かったままだから、急がないと街がたいへんなことになる。早くおいかけよう」
「そうですね。あの大群が街へと押し寄せたら街が壊滅してしまいます」
メルエが馬車を走らせて野牛の群れを追うが、悪魔の眷属を倒すのに思った以上に時間を使ってしまったので、なかなか追いつかない。
それにしても、この子供があの街にいた孤児だとは。
身体は痩せ細り汚れているが、その姿が以前のルシェルの姿と被る。
こんな子供が自ら悪魔の眷属化することなどありえない。
そもそもどうやれば、天使が悪魔の眷属へ堕ちるのかがわからない。
亡骸を見ても何もわからないが、ルシェルは少なからず面識があったようなので、そのせいか悲痛な顔をしている。
だが、既に結構な時間馬車を走らせているが、まだ野牛に追いつかない。
もしかしたらもう……
「ファルエル様! 前方に土埃が見えます。おそらく野牛の群れです!」
心配する俺の耳にメルエの声が聞こえてくる。
「それじゃあ、先回りして」
「わかりました。ただ街までそう距離があるわけでは無いようなので、それほど時間はありません」
「うん、だいじょうぶだから、前におねがい」
段々と野牛の移動する音が聞こえてくる。
メルエが馬車を操作して野牛の群れを後方から追い越して並びかけるが、窓から見える野牛の目が血走っており、完全に我を忘れてパニック状態だ。
これは後ろから追い立てるものがいなくなっても止まる事はないな。
メルエがルドに鞭を入れると、ルドが一気に加速して野牛を追い越して行く。
「ファルエル様! どうしますか?」
「この先まで行ってとめて」
ルドが加速したまま走り抜け完全に野牛の群れに先んじた。
メルエが馬車を操り、更に前に出る。
そのまま、しばらく馬車を走らせてから停車する。
少し距離があるが、このままなら後数十秒で野牛の群れが通過する。
俺は詠唱して魔法を発動する。
「グラビティバレット」
100個の巨大な火球を出現させ、野牛が接近するのを待つ。
完全に野牛の群れが見えた瞬間に火球を一列に並べて地面へと撃ち込んだ。
「ドドドドドォォオ〜ン!」
爆音と粉塵を巻き上げ火球が、野牛の行手を遮るように着弾する。
膨大な熱量と爆音に驚き野牛の動きが完全に止まるが、後方からの集団は急には止まることが出来ずに前方の集団に衝突し、野牛の群れは大混乱を引き起こした。
「グラビティバレット」
俺はもう一度魔法を発動して再度同じ位置へと100個の火球を撃ち込んだ。
「ズドドドドドォ〜ン!」
再度の火球による地響きと爆音で混乱の極地にあった野牛の群れの動きが一瞬で止まった。
次の瞬間全ての野牛が同一の意思を持つかの如く反転して一気に駆け出した。
血走った目で駆けていた今までよりも遥かに速いスピードで、あれほどの大群が一瞬でその姿を消してしまった。
「うまくいったよ」
「そうですね。ファルエル様ですから、驚きはありませんが滅茶苦茶です」
「ファルエル様、さすがです。これで街もすくわれました」
とりあえず、思い通りに運んだので、街に被害が出る事は無かった。
早くパパの元に帰ろう。
今の出来事を一刻も早く伝えなければならない。
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