第29話 衝撃
魔法を使えるようになった俺は、当初困惑していたが時間が経つにつれて冷静になって来た。
今も俺は聖魔法を使う事はできない。
そして聖翔の儀以来ママに教えを乞い聖魔法の練習に励んできた。
また俺が魔力操作の練習を始めたのも同じタイミングだ。
聖翔の儀を経て聖魔力の存在を体内で感知できるようになったからだが、俺はそれ以降暗黒魔法を一度も使ってみた事は無かった。
暗黒魔法の練習をしていたのは聖翔の儀の前日までだ。
「もしかして・・・・」
まさかとは思うが、聖翔の儀で魔力回路が開いたとしたら、魔法を使えるのはそれ以降という事になる。
つまりそれ以前は魔力がないので魔法は使えない。
そして俺は今も聖魔法が使えないが暗黒魔法は使える。
もしかして俺は暗黒魔法で有れば聖翔の儀直後から使えたのではないだろうか?
危機的状況に際して突然覚醒した可能性もない事はないが、そんな都合のいい事があるとは考え難い。
「う〜ん」
俺は1歳の時から本当は魔法が使えたのではないだろうか。聖魔法ではなく暗黒魔法を。
正直俺は暗黒魔法を使えない物だと1歳までに思い込んでしまっていて練習してみる発想は微塵もなかった。
俺の血の滲むような努力と、この気持ちは一体どうしたらいいんだ。
「う〜ん」
まあ考えようによっては、魔法以外の部分を鍛える事ができたと言えない事も無い。
前世ではこんなに努力した事はなかった。
それなりになんでもこなせていたし、魔法が得意だった事もあり体を鍛える事もさほどなかった。
それが俺は1歳になる前から読書により知識を欲し、剣も寝込んでいた時以外はこの2年間一日も休む事なく振り続けて来た。
体力をつける為に走ったりもしてきたし、何よりも、絶対に魔法を使えるようになる為に魔力操作を常時鍛え、呪文の詠唱を腐るほどやってきた。
まだこの天界に生を受けて3年半ほどしか経っていないが、前の自分よりも今の自分の方が好きだ。
強さで言えば前世の方がまだまだ強いと思うが、今の俺は自分で胸を張って言える。
俺は頑張っている!努力している!
このまま努力を続けて成長すれば、あのクソ勇者など目では無いぐらいの強さを得れるのでは無いかと思う。
ただ最近はあのくそ勇者の事も余り気になら無くなって来た。
俺が強さを求める理由はひとつだけだ。
家族を守れるだけの強さがほしい。
どんな相手が来ても家族を守れるだけの力が欲しい。
俺に過剰な愛情を注いでくれる家族のために強くなりたい。
俺の妹はまだ敵か味方か判断がつかないが、もし仮に味方だった場合は何があっても俺が守る。
あの異常なまでに愛くるしいシルフィールを外敵から守る。
それが兄としての俺の使命だと思う。
気持ちが落ち着いて来たので今日はそろそろ戻る事にする。
「まあ、魔法が使える事がわかったからよかったな・・・」
家の中に入って音を立てないように部屋の中に入るとママが起きていた。
「ファルエルちゃん。どこか行ってたの?」
「えっ?いやちょっとトイレに」
「トイレに行ってたの?ファルエルちゃんトイレにしては長くなかったかしら」
「い、いやお腹が痛くて」
「ファルエルちゃん、ママね目が覚めてファルエルちゃんがいなかったから心配でトイレにも見に行ったのよ」
「えっ?トイレにまで来たの?」
「ファルエルちゃん。トイレにはいなかったわよね」
「う、ううん」
「ファルエルちゃん、ママに嘘をついたのね。ママ、ファルエルちゃんに嘘をつかれるのなんか初めての経験で悲しい。ファルエルちゃんどうしちゃったの?何が不満でもあるの?」
「不満なんか、何にも無いよ」
「じゃあ、ファルエルちゃん正直に話してみて」
どうしたらいいんだ。ママに何て言うのが正解なんだ。
俺は魔法が使えて舞い上がっていたのかもしれない。
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