第26話 新しい命
俺は相変わらず魔法を使えるかどうかを試すことが出来ていない。
パパとグランパ達がやってきて
「もう大丈夫だ。本当にすまなかった。もう何も心配しなくていい」
と言っていたが、何が大丈夫なのか詳しい説明がなかったのでよくわからない。恐らくもう襲われる事はないと言う意味だろう。
それにも関わらず
「ファルエルちゃん。一人でどこか行っちゃダメですよ。ずっと一緒ですよ。ママがついてますからね〜」
とママに過剰に保護されてしまい、一切一人で出歩くことが出来なくなってしまったからだ。
流石に5日間寝たきりになっていた俺が目を覚ましてからのママの憔悴ぶりをみると、無下には出来なかった。
このままではお腹の赤ちゃんにも影響が出るのではと心配してしまい、赤ちゃんが生まれるまではママの言う通りにしようと心に決めた。
まあ、無茶をして死にかけた俺が悪いので自業自得だ。
必然的に室内での生活が続き、魔力操作の鍛錬と読書をメインにしている。
魔法を発動して以来魔力の感じが少し変わった気がする。以前より流れる量が増えた気がするのだ。
もしかして魔法を使ったことで魔力回路のような物が広がったのかもしれない。
流入量の増えた魔力を身体の中で右回りにぐるぐる回す。最近では扱いが容易になりすぎたので左回りにも流して見ている。意味があるのかわからないが、最初はかなりの抵抗感があり、うまく出来なかったが最近は左回りも問題なく出来るようになってきた。
読書もママの力を借りなくても殆どの本を独力で読むことができるようになったので、ジャンルを問わず置いている本をとにかく読んだ。
体力が落ちないよう剣の素振りだけは、室内で続ける事を認めてもらったので続けているが、6カ月程度はそれほどの向上は見られない。
俺が倒れてから丁度6カ月が経過して遂にママが出産する事となった。
外からお医者さんがやってきて、俺とパパは別室で待つしか出来なかった。
苦しそうなママを見ると胸が締め付けられる。死んだりしないのか?大丈夫か?あのお医者さんは本当にお医者さんなのか?
俺にとっては初めての経験なので、そわそわして全く落ち着かない。
「ファルエル。大丈夫だよ。ママもパパもこれで3回目だからね。ファルエルの時に比べたらママも随分と落ち着いたものだよ」
そうなのか?あれで落ち着いた方なのか?相当お腹が痛そうだったけど。
それにしても長い。かれこれ半日近く待たされている。
やはりあの医者はヤブ医者だったんじゃ無いが?
考えたくは無いが、もしママに何があれば絶対に許す事はできない。
俺の全身全霊を持って消滅させてやる!
不穏な事を考えながらさらに時間が経過した頃
「オギャー、オギャー、オギャー」
おおっ。これはまさか・・・・
俺たちに所にあのお医者さんがやってきて
「無事生まれました。元気な女の子ですよ。おめでとうございます」
「おおっ。女の子か。そうか、そうか、よかった」
女の子・・・
と言う事は俺の妹が生まれたのか?
「ファルエル、見に行こうか、ファルエルの妹が生まれたんだぞ」
俺はパパに言われるままに、ママの部屋に連れて行かれたが、そこには疲れた顔のママと、真っ赤なサルのような赤ちゃんが一緒に寝ていた。
「ファルエルちゃんの妹ですよ〜。これから仲良くしてくださいね」
これが俺の妹・・・
この赤くてサルみたいなのは生まれたばかりだからなのか?
俺も生まれたばかりの時はこんな感じだったのだろうか?
「ママ、触っても大丈夫?」
「うん少しなら大丈夫ですよ」
俺は恐る恐る妹のほっぺたに触れてみた。
その瞬間俺の身体に電撃が走った。プニプニスベスベのこのほっぺた。可愛い。
先程までサルのように見えていた妹がその瞬間、とてつもなく愛おしい妹に変わってしまった。
お腹の中にいたのはわかっているが、こうして目にするのは初めてだ。
それなのにこの瞬間に俺の家族になってしまった。
この感情はなんだ?ママ達へ感じる愛情と同種なものであるのはわかるが、それと同時にとてつもなく愛おしく感じる。
子爵級悪魔の時には妹も弟もいなかったが、妹とはかくも可愛く愛おしいものなのか?
俺はあまりの衝撃に放心状態となってしまった。
この作品は皆様のブックマークとポイント評価で支えられています。
興味を持たれた方は是非ブックマークと下部からのポイント評価をお願いします。
よければhjネット大賞受賞作 モブから始まる探索英雄譚 https://ncode.syosetu.com/n8930fk/
もよろしくお願いします。




