第17話 覚醒
風を纏った鳥は引き続きこちらを狙ってくる。
慌てて何が武器になるものは無いかと周囲を見回すが、細い木の枝が1本落ちていたので、なんとかそれを拾って左手で構える。
この2年間剣は飽きる程振ってきた。枝といえども戦える筈だ。
再度突撃をしてきた鳥に向かってタイミングを合わせて木の枝を振り下ろす。
「バキィッ!」
俺の渾身の一撃は飛んでくる鳥を正確に捉えたが、当たった瞬間枝は砕け散ってしまった。
そして鳥の勢いは止まらず振り下ろした俺の左腕に衝突して来た。
「グゥうぅ〜」
再び俺の腕が折れた。
両腕が折れ、片足も折れた。
ほぼ動けなくなってしまった。
木の枝も無くなり俺には攻撃手段が本当に無くなってしまった。
かと言って今更この身体で逃げる事も叶わない。
家に向かって叫べば誰か来てくれるかもしれないが、ママが出てきたらやばい。
身重のママを巻き込むことは絶対に出来ない。
三度鳥が俺を目掛けて急降下して来た。正面衝突する瞬間に残った足で後ろに飛んだが、そのまま追撃を受ける形で結局攻撃を食らってしまった。
吹き飛ばされた俺は、文字通り動けなくなってしまった。
「ううっ・・・」
身動きが完全に取れなくなったのを見計らった様にそれまでいなかった者の気配を感じて見上げた。
「お前誰だ?」
「生意気なガキですね。まあ3歳児にしてはよく粘った方ですね。あなたの兄など一切の抵抗もなく一瞬でしたからね。あっけないものでしたよ。まあ、あなたも結果は同じですがね。それではさようなら」
今こいつは何と言ったんだ?俺の兄を殺した?
まさか、こいつが俺の兄を殺した相手か!
見たことも無い兄だが、あのママとパパを常に見ているのだ、俺が肉親の情を感じないはずは無い。
俺の怒りの感情が爆発する。
「お前か!お前が兄を殺したのか!絶対許さん!俺の命に替えてもお前だけは倒す!絶対に殺す!」
「ふざけたガキですね。現状が分かっていないのですかね。まあ死ぬのですからどちらでもいいですが」
そう言いながら、そいつは俺に向けて、手に持った剣を振りかぶって来た。
その瞬間、俺の脳裏にあのクソ勇者にやられた瞬間がフラッシュバックした。
「ううっ 『アブソリュートメア』」
混乱した俺は、咄嗟にあのクソ勇者に対して使用した、子爵級悪魔ファルメウス最大の攻撃魔法を詠唱した。
勿論、天使となった俺が暗黒魔法を使えるはずは無いのだが咄嗟に唱えてしまった。
もうダメだと思ったその瞬間、巨大な光が爆音と共に集約して、俺を殺そうと剣を振り下ろして来た天使に向かって炸裂した。
「ズガガガガーン!」
土煙が上がって周囲がよく見えない。
これはどう言う事だ?あまりの出来事に頭がついていかない。
何が起きたんだ?
しばらく俺が唖然としていると土煙が晴れて来だが、先程迄そこにいた男は跡形も無く消えており、剣の先端だけが残されていた。
「やったのか?」
俺がやったとしか考えられないが・・・・
「きゃ〜!ファルエルちゃん〜。どうしたの?今すぐママがたすけるわ」
先程の爆音に気がついたママが出て来てしまった。
その瞬間、あの鳥野郎がママに向かって降下し始めたのが見えてしまった。
まずい。ママに突撃されれば大変なことになってしまう。
俺が!俺がなんとかしなければ。
恐らく先程の光の攻撃は俺の発動した『アブソリュートメア』なのだろう。
なぜ発動できたかわからないし本来黒い光による攻撃のはずが白い光による攻撃にかわっていた。
何がなんだかよくわからないが、今はどうでもいい。もう一度だけでいいから俺に魔法を使わせてくれ。
頼む!
祈る様な気持ちで詠唱する
「ブラックバースト」
今度は鳥野郎を中心に眩い光の爆発が起こり、鳥野郎は、完全に消滅した。
やはり、俺が魔法を発動したらしい。
しかも暗黒魔法?
しかし効果はどう見ても聖魔法だ。
正直わからないことばかりだが、どうにかママとお腹の赤ちゃんを守ることが出来た。
本当に良かった・・・
朦朧とする意識の中、敵が完全に消滅したのを確認して安心した俺は、激痛を感じながら意識を手放した。
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