第15話 3歳
魔法の練習を始めてから更に1年半が経過して俺は3歳になっていた。
俺の必死の訓練は全く実る事は無く、相変わらず極小の魔法を使用する事すら出来ていない。
代わりに魔力の流動は寝ている間も途切れる事は無く無意識の内に高速で行われており、スピードも上がり、常時身体中を魔力が駆け巡っている状態となっている。
それに伴い身体能力も3歳児としては破格に上がっているので剣の練習を始めている。
「おおっ。流石は僕のファルエルだ。将来は天剣となるに違いない。パパの3歳の時とは全く比較にならないほど凄いな。本当に素晴らしい!」
相変わらずパパは俺を暑苦しく褒めてくれる。
天剣とは天界でも一番の剣の使い手に与えられる称号らしいが、そもそも見た事がないのでどのぐらいすごいのかわからない。
悪魔の時も武器を使ってはいたが、俺は魔法の方が得意であり剣については、あのクソ勇者にぶった斬られてしまったぐらいだから、悔しいが大した事はなかった。
その俺が少し鍛えたぐらいで天剣を目指せるとは思えないのでパパの贔屓目なのだろう。
本を読むスピードも上がってきたので、手に届く範囲の書庫の本はほぼ読破してしまった。
流石にかなりの数の本を読んだので文字も憶えてしまい、いつの間にか書く事もできるようになっていた。
「おお〜。流石はワシのファルエルだ!僅か3歳にしてこの博学さ。しかも文字まで独学で覚えるとは、天才を超えた、神才だな。もう天使ですらないのかもしれないな。ワシは嬉しくて倒れてしまいそうだ」
グランパが顔を真っ赤にして、本気で倒れそうな勢いで俺の事を褒めてくれている。
最近グランパが2人だとわかりづらいので、最近はパパ側のグランパをグランパ、ママ側のグランパをグランパパと呼び分けている。
グランパの熱苦しさはパパ譲りだ。
いやパパの熱苦しさがグランパ譲りと言った方がいいのだろうが、2人とも暑苦しく愛情を注いでくれる。
グランパパは
「私に似てなんと理知的な顔なんだろう。将来は天界中の女性のアイドルになるに違いない。こんなに見目麗しい3歳を私は見た事がない。私が女の子なら放っておくはずがない」
喋り方はグランパに比べると随分理知的なのだが、内容は負けずに暑苦しい。
アイドルってなんだ。本で読んだので意味はわかるが悪魔の時にはアイドルに相当する存在はいなかったので
全くピンと来ない。
そして一番の変化はママに赤ちゃんが出来た。
出来たというかママのお腹の中にいる。
ママの子供と言う事は俺と同じく悪魔の転生者かもしれないが、仮にもママ達に危害が加えられるような事があってはいけないので、妹か弟が生まれる楽しみ半分と、倒すべき敵が生まれる可能性を考慮して常に注意を払い、生まれるまでの間になんとか敵を倒せるように剣と共に魔法を使えるようになりたいと切に願っている。
流石にこの2年は俺にとっても長く、全く成果の出ない魔法に心が折れそうになった。
だがそのたびに赤ん坊の時に味わったお漏らしと、お尻ふきふきの屈辱を思い浮かべて気持ちをリセットした。
本当の生き地獄を味わった俺には、全く成果の出ない2年間も耐えられない苦痛ではなかった。
そしてこの暑苦しい家族と麗しいママの為に俺は強くならなければならない。
俺も馬鹿ではない。2年間もこれだけ練習して一切発動しない魔法に適性があるとは全く思わない。
思わないが、諦めてやめたら一生魔法を使える可能性が閉ざされる。
自分から諦めて一生魔法が使えないのと、訓練を続けても結果一生魔法が使えなかったのは、同じ結果だがまるっきり違うものだ。
俺には、ママを守る義務がある。
暑苦しい家族の期待に応える義務がある。
無駄な努力を死ぬまでしてやる。死ぬまで努力して死ぬまでに絶対魔法を発動してやる。
3歳児にして俺には生涯をかけての目標が出来ていた。
雌伏の時を経て次話から序盤の山場を迎えます。
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