暴食の王ー ① オドの怪物
未だにコンボイ(重機)しかないのに無理ゲーの連続、申し訳程度にラブコメ。
暗闇。
一面塗り潰された墨汁の様な濃黒…光は無く、静寂と死が支配する空間。
先程まで感じていたはずの怒りは既に無く、己が一体何であるかすら朧気だ。
「…あぁ、私は何であったのか…。」
真っ暗な空間であるにも関わらず己が眼には自らの衣服が見えた。
詰襟を首元まで締めた神経質な着こなし。
黒に金、赤の刺繍が入った軍服、襟に輝く金色に二つの紅玉がはめ込まれた階級章。
それにどんな意味があるのか、もう思い出せない。
ただ、それが己が生きた証であったようには思う。
レイン・フォン・セクメト。
最早その名すらも思い出す事はない。
かつて、そう呼ばれた彼は立身出世に全てを賭けた権力欲の塊だった。
──ああ、美味い、美味いなあ。
また、この声だ。
この声が聞こえる都度に記憶が欠落していく。
今や、その内に燻るのは狂おしいまでの飢餓だけだ。
「…あ、ああ…ああ…誰か、私の飢えを…満たしてくれ…ああ、誰か…!」
はて?
私は、何を考えていた?
確か、私は求めていたはずだ。
何を。
どうして?
「…わからなイ…ああ、痒い、痒い、脳が痒い…ああ、腹が空いてしかたがない!」
そうだ、今は飢えを満たさなければ。
闇中に浮かび上がる、顔。
それはレインの顔には違いなく。
しかし、その目に眼球は無い、そして眼窩には青白い焔が燠火の様に燻るのみ。
瞼を開けば溢るるのはタールの様に粘性を帯びた血の流れ。
「痒い、痒い、痒い、痒い、痒い ───。」
眼窩の奥、脳髄を掻き出したくなるような疼きに狂いそうになる。
しかし。
それを掻き毟る指は無い、それどころか身体がない。
今やレインは…得体の知れない何かに繋がれていた。
──喰らえ、満せ、飢える者よ──。
もう、疑問すら湧かなくなった。
…ああ、そうだ…満たさなければ。
獣は、芳しい香りがする方向へと…''泳ぎ始めた"。
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「………………。」
「……………………………。」
気不味い。
ひたすら気不味い。
スケルトンの呪詛に混乱し、軽い退行を起こしたアーシェラ。
それを思わず抱きしめて慰めた俺。
門を潜り、スケルトンが門を超えてこないことに安堵したは良かったが一連の行動に気づいた俺は脳内で悶絶した。
そして、暫くして我に返ってしまったアーシェラはもう抱きついた姿勢のまま顔を俺の胸に埋めてそのままプルプル震えている。
ちなみに耳から指先まで真っ赤だ。
「青春じゃな…」
「羨ましいナ。」
「ああ…チーフ…貴方の死は無駄にはならなかった…主任とアーシェラ様はリア充になりそうです。」
「おまえら…特にボックル!アッシャーの事今この場でネタみたいに言うなよな、祟られっぞ!?」
「…チーフならサムズアップして笑いますね、むしろ湿っぽくした方が怒りますよ。」
「…うぐぅ…。」
否定できん、アッシャーなら言う。
「…は、確かになあ、第一遺体を確認せんうちから死人にしてやるな、半分とはいえドワーフじゃぞ、丈夫さは折り紙つきじゃい。」
いや、あの爆発で生きてる?
本気で?
「…そうだな、嘘でもそう考えてた方が建設的かもな、アッシャーだし。」
「ええ、チーフですから。」
「そうだナ。」
酷い同僚もいたものだ。
と、そんな馬鹿なことを話す内に少し余裕が出てきた。
「エコーロケーションによればもう、この奥に広間みたいな場所がある他には進めそうに無いな。」
幾つかの魔導機械らしい反応も見えた、恐らくはこれが軍部の魔導兵器だろう。
「そうじゃな、そこから更に地下に空間がある…こいつは昇降機じゃねぇか?」
「そうか、ならこのままそこに──!?」
再び、スケルトンが発生した時にも感じた悪寒。
全身の産毛が逆立つような不快感。
「全員警戒…コイツ…また出やがって!!」
既に幾度も遭遇した巨大な動体反応。
それは床下や壁、土中からの反応だった。
「ちょ、主任…か、数が!」
1、2、3、4、5…
「おい、冗談じゃねえぞ!!」
四方の壁から無数に顔を出したのは忘れる筈のない眼の無い大蜥蜴…地龍だ。
しかし、そのうちの一匹は異様な風体をしていた。
暗い、闇色の鱗と肌。
そして、潰された片目の傷口に見えるのは──
人の、顔だった。
『みいぃつけたぁ〜、美味そう…だなぁ…!』
それは最早。
人であった名残りなどない、眼窩の闇からタールの様にドロリとした澱んだ血を流す、人面疽を宿した異形の地龍…否。
その本来の名は。
【澱魔素変異体】と呼ばれる怪物だった。
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