地龍 ②
地龍とコンボイ、仲良く喧嘩中?
【ヘルブラスカ坑道深部】
「なんでそんなもん引き当てんだよ、アッシャー…博打弱いだろおまえ。」
「だからじゃねぇか…今最悪だろ?」
「違いないわなあ…」
エコーロケーションを利用した反響式振動察知センサーにはすぐ真下を移動し、今にも現れそうな巨大な動体が映っている。
「逃げ…」
逃げるぞ、と。
続ける前に更に坑道が揺れた。
「げぇっ!」
「嘘だろおい!」
よりによって逃げ道側に頭を出したのは、緑色の鋼のような鱗を纏う眼球のない、目にあたる部分に二つの瘤がある巨大なトカゲ──地龍の顔だった。
グルルル…、と唸る地龍。
「ヤバイな…どうする。」
ノソノソと這い出しているが、あれが坑道に身体を出し切ればその時は俺たちが襲われる時だろう。
堅固な鱗は魔砲の一、二発では傷つきそうになかった。
無いはずの眼が、こちらに向いた気がした。
次の瞬間には特大の咆哮が響きわたり同時に地龍の脚が地に着いた。
「仕方ない、奥に逃げるしかねぇ…!」
武器を構え、上半身だけを地龍に向けて脚は回転式な為後方へと前進。
器用に狙いをつけたまま自然にてきたであろう空洞を走っていく。
地龍は咆哮をあげながら此方へ迫るも幸い直進ならばこちらが早い。
だが、このままではいずれ逃げ道が無くなる。行き止まりや、そうでなくとも直進できないような曲がりくねった道になればアウトだろう。
咆哮で遮られ気味なエコーロケーションを使い、せめて道を誤らぬように広い空間を選んで分岐を進む。
三次元的に表された反響探査の結果を映す液晶パネルじみた部分に周囲の地形が反映される。
「チッ…近寄るんじゃねぇよこのトカゲ野郎!」
急造の劣化品とは言え魔導兵器であるカノーネの魔砲が火を吹き地龍の表皮に着弾する。
だが弾丸は火花を散らして鱗の上を滑って、逸れた。
「クソ、成龍かよ…鱗が厚すぎる!」
アッシャーの焦りがこちらに伝わる。
だが今迂闊な事をすれば即バッドエンドになりかねない。
せめて回避できるだけの空間がある場所に…!
「だぁーっ!何でこんな目に合わにゃならんのよっ無事戻れたらお前の奢りだかんな、アッシャー!?」
「戻れたら、なー!」
ガガンッ、ドゥン…!
低い音を立て、アッシャーのコンボイが放つ銃弾が地龍の足元を抉る。
兎に角相手の機動力を少しでも削ごうというのだ。
「後少しで広い空洞がある…逃げ切るぞ、こんちくしょう!」
やがて苛立ちはじめた地龍は激しく土煙を上げながら、固い岩盤を削るようにして走り出した。
魔法的な力場が働いているのだ、土中移動と呼ばれる地龍の特殊な移動方法の応用だろう。
土や岩ならば地龍にとっては硬さはまるで関係ない、単分子カッターなんか持っててもあんなのに近寄れやしない、この狭い空間で突撃されては尚更だ。
「後、少し!」
アクセルペダルをベタ踏みし、コンボイの両脚か全力で稼働する、真っ直ぐな一本道で助かった。
これならなんとかなるかもしれない。
「っしゃダラー!」
弾丸が尽き、赤熱している銃身をパージし、地龍にぶつけるようにして棄てるアッシャー。
音を立てて銃身が顔付近に当たると僅かに嫌そうに首を振る地龍。
「…2、1、0…アッシャーッ真横だ、跳べぇ!!」
距離を計り、示し合わせて左右に分かれる。
一瞬どちらを追うか迷いを見せた地龍の足元に、今まで温存していたカノーネを全弾叩きこんだ。
開けた空洞、とは言えそれは巨大な縦穴だった。扇型に開いた地面の向こうには柵すらない縦穴へと続く空間しか無い。
唐突に獲物が横に飛び、一瞬の逡巡が地龍をその縦穴へと導いた。
踏ん張って急停止、或いは飛び退いて穴から離れようとした足場を崩された。
つまり、勢いあまって半ば以上自らダイブしたようなものだ。
地龍には、目ではなく恐らくは蛇などと同じく熱を察知するピット器官の様なものがあるのだろう。
事実地龍の目は開く事なくまぶたの様な箇所は盛り上がりはあるものの開く様な作りはしていない。
目の前の獲物の熱源に注視する余り、地形の把握を怠ったのだ。
アッシャーが投げた砲身の余剰熱も手伝ったのかもしれない。
キュオーーン!
と一声哭いた後、地龍は深い闇へと真っ逆さまに墜落していった。程なくして水面に硬いものが当たる様なドブンッ、と言う音が聞こえた。
地下水路でもあるのだろうか? なんにせよ高さがわからないほどの縦穴だ、あの自重で水面に叩きつけられれば即死だろう。
「な、なんとかなった…」
「さっすが主任、真逆地形を利用するとはな。」
「はぁ、だから副監督だっての。」
此方に寄ってきたアッシャーがそんな軽口を叩いて笑う。
勘弁してくれ。
こちとら生きた心地がしなかったよ、本気で。
「…全力で飲んでやるからな…覚悟しとけ。」
半眼でそう唸る俺に、アッシャーはカラカラと笑うのだった。
地龍「ッアーーー!」(落下)