プロローグ
またも新たな話を…あれこれ書いてみてしっくりきたものが一番更新頻度高くなるかなと。
ロボットモノです。
魔導文明。
古代レガリア期に隆盛を極めた魔法と、魔導機械が世界を支える時代。
この世界、クロノギアと呼ばれる球界は神々から見ても異端と言えた。
物資文明の極みである科学。
精神文明の極みである魔法。
双方が同時、並列に存在しながら融合している世界など宇宙広しと言えどもこの世界だけではないだろうか。
この世界にはマレビトと呼ばれる存在が時折現れる。
それは異世界からの転移者であったり、転生し記憶を継いだものだったりと様々だ。
高い確率では無いが時折現れるそれらの存在は異界の知識を持って世界に変革をもたらしてきた。
何を隠そうこの俺、保坂章人もそんな転生者の一人だ。
今は地方領主……下級とはいえ貴族の三男に転生しレオ・ド・ゴルドルフと名乗る身の上だ。
とはいえ。
自分は確かに転生者だが大した知識もなければチートな能力を授かりもしていない。
現在は24歳、前世は38歳まで生きていたから合わせれば60を超える事になる。
チートも現代知識無双もしないとか、折角転生したのに…なんて思ったりしたことはないでは無いが考えてみれば記憶を継いだだけでも奇跡なのだ、ようは人生のやり直しをさせて貰ったわけだし。
……前世の様に働くために食べ、働くために生き、働いたが故に過労死するような目にあわないならそれが一番。
波乱万丈な人生を送ろうとも思わないし、これでいいのだろう。
現在の自分は前世と違ってそれなりに恵まれた素質を持って、それなりの職場で働いてそれなりに幸せだ。
貴族連合の擁する軍の下部組織、魔石採掘社メルテスの社員…ヘルブラスカ魔石採掘場の現場副監督、それが今の肩書きであり第二の人生だ。
採石場のような広い場所を、囲むように土砂と、選り分けられた何かの原石が積み上がり作業員が運搬車両に箱詰めにして積んでいく。
その積込作業はフォークリフトに似たもので行なわれているが、見た感じエンジンらしい部分にはエンジンはなく、大きな石が嵌め込まれた不思議な模様を描いた機器が存在する。
魔石。
魔法と機械文明が結びついたこの世界では家電から軍事兵器に至るまでがこの結晶化した魔素を燃料に動き、結晶化した魔素は電池のようなものだがその純度や大きさで用途は変わる。
俗に「屑石」と呼ばれる指先程度のサイズのものは研磨された後乾電池の様な用途に使われる。
また、空気中の淀魔素を取り込み、エネルギーに変換した後は清浄な魔素へ変える、実にクリーンなエネルギーだ。
淀魔素とは濁った精神エネルギー、いわば負の感情を助長するよくない空気中の魔法的な成分。
魔法や魔導に詳しくないからあまり突っ込んだ説明はできないがそういうもので世界に当たり前に存在する魔法的な二酸化炭素みたいな感じだろうか。
魔石を運用する事は、植物が光合成する様なものだ。
因みに原石であってもこれは行われているが、地中から出され、研磨されて魔導機械にはめ込まれる事でその変換効率は飛躍的に向上するのだとか。
次に、拳大からバスケットボールサイズの魔石は俗に「式石」と呼ばれ、様々な魔導機械の動力源…エンジンに変わる原動機に転用される。
さらに大きな魔石はランク分けされてC〜A、その中でも特殊な属性や用途に使える貴重なものは規格外…S、若しくはSSと呼ばれ、値段を言うなら小さな国なら国家予算規模の額になる。
こうした魔石は自然発生する長い年月を経て結晶化した物に加え、意図的に過去の高度に発達していた時代に創り出された特殊な魔石が存在する。
クロノギアは過去に今以上に優れた魔導文明が栄えていたらしいが「終末戦争」と呼ばれた物騒な時代に一度文明が衰退するほどに各地を破壊する惨劇が起きた。
歴史を習う時に貴族の身の上なら必ず聞かされ、その先史文明で地位を得ていた一族の末裔こそが現在の各地の貴族の発祥だと教えられた。
平民もまた、大雑把にその歴史を知る程度には習う出来事だ。
などと貴族院の学院生時代に習った事を思い出していると、坑道の中から重い足音が聞こえてきた。
チュイー、ガシャン。
チュイーン…ガシャン。
駆動系のアクチュエーターが軋む音。
油の匂いと排気熱に焼け、蜃気楼じみてぼやけた視界に銀色のボディが映る。
安定した太い二脚に、作業用の掘削機を両手に取り付けられた二足歩行の重機型魔導機械、コンボイ。
どこかの良い作戦が毎回失敗する司令官みたいな名前の魔石で動いて魔石を掘り出す作業機械である。
「レオ主任〜〜ダメだ、こっちはあらかた掘り尽くしちまったよ屑石しか出ねぇ!」
透明なカウルと、簡単な屋根が太い二脚の上に椅子と、操作レバーと一緒に乗っている。
その脚と椅子の間、胴体部分の左右からはマニュピレーターがせり出しており、岩盤を削るための回転掘削機を備えている。
「…主任じゃない、副監督と呼べってんだろうがアッシャー。」
以前は事務主任だったために未だに部下は俺を主任、主任と呼ぶ。
「えー、だって副監督って言いにくいじゃねぇかよ。」
バイトの学生みたいに馴れ馴れしいが、まあ長年の付き合いだからそこは今更気にはしない。
本来なら呼び方にしても構わないが、今日は別だ。
「…アッシャー作業班チーフ…上下関係は明確にしておかなければ事故が起きた際に指揮系統が乱れます、それは他の従業員の命に関わると研修で教わりますよね、馬鹿ですかあなた?」
と、俺の後ろからメガネを直しながら毒を吐くのは本社、魔石採掘会社「メルテス」の監査官兼、現場監督。
年は18歳、顔立ちは幼いが目はやや吊り上がり気味…いや、意識して吊り上げている印象は凛々しくパリッとしたグレーの、タイトなスーツ姿は彼女のスタイルの良さを全面に押し出しているが、今はそれが妙な迫力に変換される。
「げっ、ホルスタイン…」
「…私の名はアーシェラ・フォン・ホルスです、ホルスタインなどと…牛ではありません、我が家の家紋は誇り高い太陽の化身、太陽鳥です。」
インドなら牛は神の使いだけどな。
…まあ、インド無いけど、この世界。
しかし地球で聞いたような神話や名前が散見するのはやはり転生者の影響かね?
「へいへい、さーせんしたー。」
嫌そうな顔で答えるアッシャーにはまるで反省の色は見えない、火に油だぞ。
「…査定に響くと覚悟して下さいね、アッシャーさん?」
うわ、張り付いたような笑顔、怖っ!
「全く、レオさん貴方ももう少し部下を教育したら如何です?」
と、両腕を組んで「私怒ってます」アピールされた。この人アピールすると逆に可愛いよな。
年が離れているからそう思うのかね?
あと、腕に潰された圧倒的存在感。
……だからホルスタインなんて言われるんだけどな。
「それは失敬…なにぶん現場叩き上げの連中ですから口調くらいは多めに見てやってくださいませんか、アーシェラ様。」
そう、上司であると同時に彼女は上流貴族。
地方貴族である「ド」を冠するゴルドルフ家と違い、「フォン」を冠するホルス家は由緒ある王族所縁の一族なのだ。
「……様はやめてくださいと言いませんでしたか、私?」
……はあ。
「確かに以前そう言われましたが立場上上流貴族である貴女を呼び捨てるわけにはいきませんよ、会社でも上司ですし。」
「昔は一緒に遊んだ仲なのに」
「ん、何か?」
「なんでもありません。」
何故か不機嫌になった彼女の呟きは小さく早口だった為聞き取れなかった…と、言う事にしておく。
実はホルス家は我が家とは古くから付き合いがあり、遠縁にあたる。
とはいえ、何代か前のゴルドルフ家の娘があちら側に嫁に行っただけであり、我が家が王族所縁の家系と言う事でもない。
そんなわけで彼女の事は実は小さい頃から知っている、真逆この歳になって職場で再会するとも思わず面食らった。
というか、この人が一番公私混同してる気がする。
◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎
夜。
仮設宿舎で打ち合わせをするのは俺と、作業班チーフであるアッシャー、それに作業班のメンバーで魔導機械乗りのデク、ボックルの計三人。
心中では勝手に三人合わせてデコボココンビと呼称している。
アッシャーは、鳶色の眼に赤茶けた短髪を逆立てた空手家じみた雰囲気の筋骨隆々とした男。
デクは反して細身でヒョロっとした薄茶色の眼に、黒髪を肩まで伸ばした青年。
ボックルは背も小さいが、頭のキレは三人で一番だろう、青髪に茶色の瞳の眼鏡に白衣が似合いそうな合法ショタだ。
…俺はショタに興味はないが、その手の人ならきっと歓喜するであろうに違いない外見である。
三人とも現場用の厚手のツナギに、安全靴を履いて傍には名前付きのヘルム(現代で言うヘルメットの代わり)が置かれている。
「アッシャー、とりあえず明日からは西側の横穴を広げてみよう、地盤の確認とエコー検査は忘れるなよ?」
「わ〜ってるってレオ主任、まかしとけよ。」
「…おまえの腕は信頼してるが…少しは態度も直せ、本気で減俸されても知らないからな。」
「げ、助けてくんないの!?主任が言えば聞いてくれんだろ、彼女!」
「…あのなあ、確かに俺は監督と顔見知りだが…あの子はそこまで馬鹿じゃない、むしろ優秀だぞ。だからこそ俺が何と言っても一度査定したら簡単には覆らないね、保証しよう。」
「…でもチーフの給与は兎も角さ、主任はどうなの? 監督さん可愛いよな?」
と、女みたいな幼顔のおまえが言うとなんか犯罪臭がパないぞ、ボックル。
「どうしてそんな話題になるんだ。」
「だって、彼女明らかに主任ラブじゃん?」
「……たんに馴染みがあるだけだ、恋愛感情なんかないだろ、単なる親戚のお兄ちゃんだよ俺は。」
そう言った途端に三人の視線がじっとりした。
「……だから童貞なんだよ、主任……」
「顔はいいのになあ。」
「俺が主任の顔なら今頃ハーレムだな。」
三者三様にディスられた。
「ど、どどっ、童貞ちゃうし!?」
あ、しまったコレテンプレじゃねぇか。
嘘じゃないよ、前世では経験だってあったもんよ!?
え?
今生はどうかだって?
聞くなよ……。
クソ、もう打ち合わせなんか知るか飲むからな今日は!!
無言でクーラーボックスから取り出した発泡酒を開けはじめた俺に、何故か三人が憐憫の目を向けてきた。
「嘘じゃねぇよ!?」
「「「うんうん、主任は悪くねーよー?」」」
やめて、そんな目で見ないで!?
可愛い上司は幼馴染…そんな人、俺にくれ。(ぁ