鷺の恩返し
「ぐすん……助けて」
ある雪の降る日のことです。おじいさんが村はずれの道を歩いていると、大きな白い鳥が罠にかかって苦しんでおりました。
「サギか」
「サギです。罠にかかって苦しんでおります。どうか助けてください」
困っているものを見ると手を差し伸べずにはいられない優しいおじいさんは、すぐに罠をはずしてサギを助けました。そして雪でもって傷ついたサギの足を洗ってやりました。
「ありがとうございます。このご恩は決して忘れません」
そう言うとサギは山の方へと飛んでゆきました。
その日の晩のことでございます。一人の足にけがをした、見るからに人の良さそうな若者がおじいさんの家を訪ねてまいりました。
その見るからに人の良さそうな若者の言葉によりますと、何でも足を治すための信心旅の最中で、足が悪いところに雪も降り、これ以上は歩くことができず、どうか一晩泊めてもらいたいというお話でした。
もちろん根が優しく困っている人を放っておけないおじいさんは快く若者の頼みを聞き入れました。
すると若者は少し不思議なことを口にします。
「私の休んでいる隣の部屋を、決してのぞいてはなりません」
ところが翌日になって足の具合が悪くなったとみえて、若者は旅立つことができません。優しいおじいさんは何日でも家にいて休んでいて構わないと若者に言いました。若者は念を押すように同じ言葉を繰り返します。
「私の休んでいる隣の部屋を、決してのぞいてはなりません」
正直者のおじいさんは若者に言われたとおり、隣の部屋をのぞくようなことはしませんでした。聞こえてくる音からすると、若者は泣きながら誰かに電話をしている様子です。よほど困っているのでしょう。おじいさんは若者のことをとても心配に思いました。
それから数日の後のことです。紺色の揃いの着物を着た数名の人たちが若者を訪ねてまいりました。声をかけてみても返事がないので、おじいさんは開けてはいけないと言われていた襖を開けて驚きました。
若者の姿がないのです。足の悪いはずの若者がどこかへ消えてしまっていたのです。おじいさんにはどうすることもできません。紺色の揃いの着物を着た人たちは何やら協力に感謝して去ってゆきました。
おじいさんは悲しみました。おばあさんには先立たれ、子どもたちとも離れて暮らしていたおじいさんは孤独の身の上でした。それが若者が来てからというもの、急に孫でもできたかのような気分になっていたのです。
食事の席などでの若者は話が上手でした。若者の話はおじいさんをとてもよい気持ちにさせるのでした。おじいさんは、あのとき助けたサギが恩返しに来てくれたのではないかとさえ思っていたのです。
その日の夕暮れ時、おじいさんに一本の電話がかかってきます。
「ぐすん……助けて」
「サギか」
がちゃん。