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最強剣士、最底辺騎士団で奮戦中 ~オークを地の果てまで追い詰めて絶対に始末するだけの簡単?なお仕事です~  作者: 空戦型
最終章 ラストミッション

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482.反抗期です

 カルメが一分遅れて王宮付近に到着した頃には、キャリバンのファミリヤによる偵察も一通り終わっていた。自信満々で合流したカルメには動揺は一切見られないので、恐らくは言われたとおり一撃で仕留めてきたのだろう。


「先輩、お待たせしました!」

「ん。キャリバン、状況報告!」

「それが、先輩……王宮には人っ子一人いないっす」

「なんだと!? 既に移動してたのか……!」

「空は曲がりなりにもファミリヤたちに見張らせてたんで、恐らくは地下から抜けたんすね」


 遠くから、ドズン、と、大地の揺れる振動。

 ギガントオークがどこかで派手に暴れているらしい。

 確かにギガントオークは厄介だったが、この状況では時間稼ぎが精々だ。追い詰められたシェパーの切り札は例の純ハイブリッド、アルディスとルーシャーくらいのものだろう。しかしシェパーには一つだけ逆転の手がある。それは、王都から逃げ切ることだ。


「だが、地下道は既にひげジジイの編制した部隊がオークの嫌がる香水をばら撒きながら前進中だ。どのみち連中は王都からは出られない。となると、通路を通して王都内のどこかに出てくる」

「問題はそれがどこかですね……」

「ヒュウを呼んで全体の状況を確かめるっす!」


 ぴぃぃ、とキャリバンが指で口笛を吹くと、最も高い位置から町を監視していた鷹のファミリヤ・ヒュウが勢いよく下降してくる。器用に減速してキャリバンのユガケに留まったヒュウと余人には言葉がないので分からない伝達を行ったキャリバンは、ヒュウの喉元を優しく撫でる。


「ありがとなヒュウ。先輩、ギガントオークの中に一体だけ進行を止めてその場に留まっている個体がいるそうっす! 場所は王立魔法研究院! それも騎道車の整備格納庫付近!」

「奴め、騎道車で逃げる腹づもりか!!」


 王国の地上で最も速く、そして長く走ることの出来る乗り物、騎道車。

 今や試作に試作を重ねて性能が高まっているそれは、バリケード程度なら強引に突破してしまうだろう。地下のルートが潰された今、これ以上逃亡に適した方法はワイバーンくらいのものだ。


 幸い、王都から研究院まではそれほど距離がない。

 それに、地下ルートは道がそれほど広くないためあまり急げない筈だ。


「向かうぞ!」


 場所が変わっただけで、やることは何も変わらない。

 他のギガントオークたちが次々に撃破された知らせも入る。

 戦いは佳境、ここが最も肝要なタイミングだ。

 恐らく研究院が最後の決戦の地になることを予想しながら、俺たちは予想の場所に向かう。


 果たして、俺たちの予想は概ね的中していた。

 そこには地下戦力を含めて全ての残存勢力を吐き出したと思われる『ニューワールド』のオーク部隊と、それを叩くために集結した五大騎士団が壮絶な死闘を繰り広げていた。ギガントオークは既に満身創痍だが、オーク部隊の数が凄まじく、騎士団側は既に目眩ましなどの消耗品を使い切ったのか直接戦闘に打って出ている。


『ブギャアアアア!!』

「うるぇぇぇぇ!! 喚くな、口開くな、息するな豚共がぁぁぁ!!」

「畜生! メイナス、意識ある!? 一度下がるわよ!!」

「ごめんリズカ、まずった……!」

『スキアリィィィ!!』

「ねえよ死ねッ!! くそ、どんだけ数がいやがる!?」

「下がれ、またアレが来る!!」


 オーク部隊と死闘を繰り広げる騎士達が互いに互いをフォローしながら急いでその場を駆け出すと、陽光を背負った緑の肌の女性が、落下に遭わせて見たこともないほど巨大なメイスを大地に振り下ろした。


 どずんっ、と、大地が震えて石畳がめくれ上がり、敵も味方も巻き添えにする。身の丈を遙かに上回るメイスを大地から引き抜いて肩に担いだ女性は、焦点のいまいち合っていない目で叫ぶ。


「今日の天気は左目ですか!? そうです、カラメルはコントラヴァスです!! さあ、背骨と小骨と甘い言葉をこねくり回しましょぉぉぉぉぉぉ!!」


 まったく以て意味不明な事を笑いながら叫んだ彼女は、巨大メイスをデタラメに大地に叩き付ける。その度に衝撃で瓦礫が巻き上がり、騎士たちの一部にそれが命中して吹き飛ばされる。


 恐らくは情報にあったハイブリッドヒューマンの最後の一人、ゲルズゲルドだろう。

 超人的なスタミナと怪力の持ち主で、ハイブリッドヒューマンの中で唯一自分は命令を出さずに他人の命令に従うらしい。まともに会話が成り立たないので経歴は一切不明。こちらの言葉を正確に理解しているかどうかも怪しいが、オーク化の影響で指示に従うという能力を得られたとシェパーは言っていたらしい。


 カルメが即座に弓を構えて彼女の足を狙って矢を放つと、彼女は即座に反応してメイスを地面に突き刺した。ガァンッ!! と、耳を劈く音を立てて矢が弾かれ――。


「スープのお皿の底の裏目の昨日の二度目の空回り!!」


 ――即座に引き抜いたメイスを振り回して周囲の瓦礫をテニスの要領で飛ばしてきた。慌てて回避するが、出鱈目な言動とは裏腹に飛来した瓦礫は驚くほど正確にこちらを狙っていた。

 アマルが習得した野性的なしなやかさ――それも恐らくは天性のものを彼女は持っている。

 ゲルズゲルドの重心が落ち、移動の兆候がある――静かに身構えた矢先、彼女は目線とはまったく別の方角に笑いながら駆け出した。


「追撃じゃない!?」

「あは、あは、あは! 捕まえてごらんよぬめぬめヤスリ、あは!」


 駆け出した先では別のオーク部隊と聖靴騎士団が戦闘を繰り広げる場所。彼女はそこでまた同じように巨大メイスで大地を抉り散らかすと、けたけた笑いながら物陰に隠れ、別の場所から飛び出して陣形の崩れた騎士たちに突っ込む。


 刹那。


「楽しそうじゃん? あたしも混ぜてよ、のけものは嫌だもの」


 ゴガンッ!! と、巨大メイスと碧いオーラの剣が激突し、腹の底を叩くような重苦しい衝突音が響いた。片腕で振るわれた細い剣が、巨大なメイスの破壊力と拮抗する。


「あら? なによ、面白そうなのがまだ残ってるじゃない!」


 王国最高戦力の一人、シアリーズは不敵な笑みでもう一方の剣を突きの構えにする。ゲルズゲルドは己の一撃と互角のパワーに面食らうと今度はにんまり楽しそうに笑った。


「きれいな碧! 貴方はわたしの何曜日?」

「水曜日は定休日よ!!」

 

 たぶん飲食店「ウミネコ亭」を経営していた頃の話を持ち出したシアリーズの突きを、ゲルズゲルドは神懸かり的な反応速度で躱して後ろに下がる。


 普通なら今の一撃で終わりだし、俺でもあそこまで鮮やかに躱せるか自信が無いほどの筋肉のしなり。ゲルズゲルドは目視してから反応するまでの速度と判断が尋常ではない。俺は反復練習最強論者だが、あれだけは訓練で習得出来るものではないだろう。まさに才能としか言えない。

 強者の気配を感じ取ったシアリーズが舌なめずりしてこちらに視線を送る。


「ヴァルナ、あたしこの子貰っていくわ!」

「頼んだ!」

「頼まれちゃった! あとで何貰おっかな~?」

「いや職務の範囲内だから貸し借りの話じゃなくない!?」


 不穏な言葉はさておき、あれはアストラエとは違う意味で俺も不意を突かれそうな類だ。センスの塊であるシアリーズの方が噛み合うだろう。それよりも今は――。


「カルメ、屋根の上から味方を援護! キャリバンはファミリヤ連れて俺と一緒に突入! なんとしてでもノノカさんを見つけるぞ!!」

「了解っす!!」

「ご武運を、先輩!!」


 シェパーは既に脱出準備に入っている。

 もしノノカさんを騎道車に乗せられでもしたら、それは実質的な人質だ。

 間に合え、間に合え、と心の中で叫びながら、俺は研究院の壁を強引にバラバラに切り裂いて内部に侵入した。

 ……これオークが斬ったってことで処理できないかな。

 いや、こんなことするやつヴァルナしかいねえって理由で断定されそう。




 ◆ ◇




 シェパーは追い詰められ、逃走を決意した。


 実の所、彼は異常事態が発生してすぐに各地の部下に民のオーク化を極秘裏に進めるよう独自に用意したファミリヤを使って指示を飛ばしていたのだが、キャリバンの放ったファミリヤに全て妨害されて情報をまったく送れないでいた。


(何がそこまで違うというのか! 数で劣るとは言え彼の使役するファミリヤは目ざとすぎる! リンダ教授の愛弟子ということを軽視していたつもりはなかったが……つくづく通信装置類を潰されたのが痛い!!)


 彼はここまでキャリバンの事を軽視していたことを認めざるを得なかった。

 王立魔法研究院のリンダ教授が齎したノウハウと、彼女の育成が独特すぎてペースが間に合わないと外部から雇われたファミリヤ使いの教官によって王国内のファミリヤ使いは少しずつ増えつつある。


 シェパーはそれを効率と数字で見出し、個々の力を見比べたことはなかった。

 故に、キャリバンが他と比べて十倍近い数のファミリヤを同時使役していることは知っていても、それが何を意味するのかが分かっていなかった。


 キャリバンの使役するファミリヤは判断力に長け、動きが柔軟で、飛行が上手く、スタミナも他の標準的なファミリヤ使いのファミリヤより優れている。そして何より、あれだけの数がいながら相互に連携する連帯感を持っている。


 たとえば普通のファミリヤであれば、自分たちの組織にとって不利になるかもしれない情報を見ても「優先命令があるのにどうしよう?」と悩んだり「自分の仕事が優先だ」と無視したりする。ファミリヤに与えられた職務に忠実という長所と、自己判断が求められると咄嗟に動けないという短所がある。


 しかし、キャリバンのファミリヤにはそれがない。

 おかしいと思ったら即座に動いて情報を収集するし、伝達より優先すべきと思ったらオークに不意打ちをかまして混乱させてから即座に離脱したり、場合によってはこそこそ隠れながら偵察する知恵もある。

 まるで王立外来危険種対策騎士団の部隊員の一人のような自意識と振る舞いが彼らには垣間見える。


(ファミリヤの意志を極端に尊重するリンダ教授の教育は効率が悪いと思っていましたが、それがここまで圧倒的な質の差を生んだのでしょうか……それともキャリバンくん自身が規格外なのか?)


 シェパーは知らないことだが、キャリバンは全ファミリヤについて「自分をコキ使って世話をさせ、その見返りに彼らは手伝ってくれる」という自分を下位に置いた認識を持ち、自然と個々のファミリヤを尊重している。それは標準的なファミリヤの在り方とは真逆であり、しかしそれが決定的な質の差を生み出していた。


(優先順位を間違えたのか。キャリバンくんが騎士団で最も危険な存在だったんだ。いやしかし、彼を捕えたところで要注意人物は大勢いる。しかし……ままなりませんね)


 当初、ノノカ教授とともに彼にも側に来て貰いたいと考えていた。

 しかし諸々の事情あって難しいと判断した彼は、それを諦めた。

 異なる種との共存――彼とリンダ教授はそれに一定の理解を示してくれると思ったし、是非とも話をしたかったのに。


「シェパー様、準備出来ました!!」


 聖靴騎士団用に開発された強襲型騎道車の運転席から、窓を開けて運転手が手を振る。彼もシェパーの手で送り込まれた人間で、嘗ては帝国で『堕流吐露捨おるとろす』という暴走族の長をしていた存在だ。

 王国整備士の中に嘗て自分を敗北させたライの名があるというただそれだけでこの計画に協力したエキセントリックな復讐者は、万一の際の逃亡用にしっかり騎道車を奪取してくれていた。


 予備戦力や数名のハイブリッドヒューマンが既に騎道車の中に入りこんだ。

 後は自分たちだけだ、と、シェパーは後ろを振り向く。


「さあ、ルーシャー。ノノカ女史を車内へエスコートなさい」

「……」

「ルーシャー?」


 いつもの無表情で、しかしルーシャーはシェパーの言葉に返事をしない。

 普段は返事をきちんとする彼女の無言に戸惑うシェパーは、言葉を重ねる。


「ルーシャー、我々は一度逃げて態勢を立て直さなければなりません。分かりますね?」

「分かっている」

「では、早く。もう時間がありません。私をあまり困らせないでください」


 シェパーには何故彼女がここにきて躊躇うのかが分からない。

 見たことのない騎道車に乗るのが嫌なのか。

 逃げるという行為が嫌なのか。

 それとも同族であるアルディスへの心配か。


 彼女と手を繋ぐノノカは、ルーシャーに優しく微笑みかける。


「好きな方、選んで良いんだよ」

「……ノノカは、どっち?」

「わたしはちょっと遠慮しよっかな」

「うん」

「……? なにを――」


 いや、そもそもルーシャーはノノカに意見を求めたのか?

 言われたことしか実行せず、他者の求めることをある程度理解しながらも無視する、あのルーシャーが、今、シェパーの記憶が正しければ初めて。

 それは、迷いがある存在のすることだ。

 ルーシャーは今、その答えを親であるシェパーではなくノノカに求めた。


 焦燥。

 何故かは分からないが、今、とても良くないことが起きている。

 シェパーは考える間もなく即座に叫んだ。


「命令ですルーシャー、急いで!!」


 その一言が。

 焦りに任せて己の意志のままに叫んだ無遠慮な一言が。

 ルーシャーの迷いに、一つの答えを導き出させた。


「いやだ。おまえ……嫌なこと命令してくるから嫌いだ」


 それは、シェパーがルーシャーに望んでいた自発性の芽生えで――彼にとって最悪のタイミングと形で、それは実現した。


 直後、格納庫の壁をバラバラに引き裂いて、この国で最もオークを殺戮したであろう騎士がその場に飛び込んできた。

嫌な命令してくるデブのおじさんと可愛らしくて優しい女性。

きみならばどっちを選ぶ?

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― 新着の感想 ―
[良い点] ただしおじさんは父とする。 それでも可愛らしい優しい女性が良いです!
[一言] 自分を下に置かせることで、ファミリアの自主性が重視されつつも「あいつのために働いてやろう」と思わせるだけの信頼を得たってことか…キャリバンのスタイルは面白いですな。
[一言] ノノカさんにママ味を感じる……。 まるで理想ばかり口にして娘を無神経に踏みにじるDVオヤジと、変人で子供はいないけど人の心はキチンと汲み取る女教師みたいだ。 自分の教育方針に共感する、と勝手…
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