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最強剣士、最底辺騎士団で奮戦中 ~オークを地の果てまで追い詰めて絶対に始末するだけの簡単?なお仕事です~  作者: 空戦型
最終章 ラストミッション

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467.小難しい言葉です

 ヴァルナとシアリーズが無力化されたのと同刻、王都の外に残された人々は深刻な面持ちで情報交換をしていた。


 外対騎士団は本部から逃げてきた団長ルガーと合流し、襲撃時の様子や敵の戦力などを分析。それを王立魔法研究院から逃げてきた組の情報とも摺り合わせ、更に首謀者がシェパー大臣である可能性が高いこともセドナの口から明かされる。


 少し遅れて馬に跨がってやってきたロックは首謀者が別の人間だったことに驚いていたが、王宮しか知らない地下通路の存在を知らせたことで敵の侵入経路も発覚。十分の間にめまぐるしく情報が行き交うが、分かれば分かる程に状況は絶望的だった。


 王都が占拠されたことは、同時に王都に家族がいる者はそれを人質に取られたことも意味する。王都内にもいくつか籠城によって抵抗を試みている場所があるようだが、そこに運良く家族がいるとは限らない。

 同様の心配をしている者は多く、ローニー副団長や回収班副班長のエッティラなどは露骨に気を取られている。


 ロザリンドとアマルもまた、小さな焦燥を募らせる。


「お兄様たちは無事かしら……」

「うちの家族ももう王都に引っ越しちゃってるよ……もう、こんなことになるだなんて聞いてない! エリムスも無事かなぁ。センパイのことだからイロイロ考えた上で無抵抗で捕まったんだろうけど、そもそもセンパイも心配だし……」

「ヴァルナ先輩は、人質としての価値があります。そうそう殺されることはないハズです。ただ、犯人の要求や声明がないのが逆にもどかしいですわね」


 ロザリンドの言い方は自分に言い聞かせて落ち着こうとするかのようだったが、アマルもそれに倣う。元々アマル自身、一度へこむと沈み続ける性格だからだ。気持ちで負けたら戦いに勝てないと、氣の呼吸で自分を落ち着かせた。


 そして研究院の人達はというと、聖天騎士団の遊撃隊筆頭騎士ヴァン・ド・ランツェーと何やら話し込んで作業を行っている。ナーガたちも何やら作業中のようで、ラミィとライが難しい顔で装置を弄っている。


 頼みの綱、騎士団の脳とも言える団長ルガーは情報を集めながら静かに思案を巡らせており、まだ結論は出ていないようだ。

 そんな中、一番動揺していそうだと思ったカルメはドラゴンウェポン『チャンドラダヌス』の弦を丁寧に手入れしながら静かに牙を研いでいた。キャリバンがカルメの肩を叩く。


「張り詰めすぎると切れちまうんだろ、弓の弦も人の集中力もさ」

「分かってる。でもこれはヴァルナ先輩がシアリーズさんと一緒に体を張って稼いだ十分の猶予なんだ。一秒たりとも無駄にしたくないよ」


 普段の頼りなさや女っぽさの感じられない、狩人の目。

 鋭く獲物を探す鷹の目だ。

 これまでは自信のなさからくる問題だったのが、今度は気を張りすぎという逆の問題になっていることにキャリバンは頬を掻いて困った。こんなとき、同期であり共通の友人であるベビオンなら上手いこと場を和ませることが出来るのだが、彼は今は休暇中だ。ロック曰くそのうち来るらしい。


 と、キャリバンが偵察に出していたヒュウとぴろろ、他のなるだけ色の目立たないファミリヤたちが一斉に戻ってきた。いくらオークの軍団でも町中の全ての鳥に逐一反応するほどこちらの『目』を警戒していなかったようだ。

 彼らから聞いた話を素早く纏め、キャリバンは報告する。


「聖靴騎士団の半数程度が翌日の歓迎式典に使われる予定だった大型劇場に立てこもったものの、オークに包囲されて身動きが取れないっぽいっす。聖盾騎士団は不明、聖艇騎士団は過半数が拘束されたっぽいっす。聖天騎士団も王都内の組は捕縛されたとみていいっすね。衛兵は数が多いのでいくつかの場所で立てこもってるようっすが、着々と鎮圧されてるっす。外対騎士団の本部は包囲してるだけで近寄ってないっすね。これはオーク避けの臭いとかが出てるせいだと思うっす。中に立てこもってると思い込んで包囲も解けずご苦労なことっすねぇ……」


 最後の報告に、家族を心配していた組がはっとする。

 外対騎士団の家族はオーク避けアイテムを家に置いている。

 軍隊化してもオーク避けの臭いが効果を持つなら、すぐに手出しはされないかもしれない。


「一般市民は家の外に出ないことと出たら拘束する旨が伝えられて怖くて家に籠ってます。人質解放についてはホテルに宿泊している客を出す形で要求に応えてるみたいで、あと十分もしたらここまで解放された百人がやってくるっす」


 その他、首謀者に通信する為の通信機の存在や、ハイブリッドヒューマンの情報などもヴァルナの狙い通りに伝達されていく。

 騎士団の炊き出しに出張っていたタマエ料理長が声を上げた。


「避難者の為のテントとご飯の用意しないとね。ただでさえショック受けてるだろうに腹が減ってると余計に悲観的になるものだよ」


 タマエがちらりとルガーに視線をやると、ルガーは了承する。


「頼む。ついでに騎士が出撃するかもしれないから軽食もお願いしていいか?」

「あいよ」


 二人にはそれ以上の会話はないが、逆にその短さが二人の関係が浅くないことを証明している。


 しかし、現実は厳しい。


(――たったこれだけの戦力で、王都を奪還できるのか?)


 全員が、口に出さずとも同じ懸念を抱いていた。

 ヴァルナ、シアリーズという騎士団二大戦力を欠き、お得意の罠を設置する暇もなく、ワイバーンを封じられ、王や民を人質に取られる。武装解除と全面降伏を迫られてもおなしくないくらいの状況だ。逆に、何故それをしないのかという疑問がある。


 戦力的な問題か、ヴァルナとシアリーズの拘束に注力したいのか、それとも――海千山千の化け狸、ルガー団長という指し手を前に躊躇しているのか。


 そうこうしている間に時間が経過し、犯行グループ『ニューワールド』から再び放送による通告があった。


『騎士ヴァルナ及び騎士シアリーズが時間通りに到着しましたので人質百人返します。いやぁ、ルガー団長がこんなに素直に可愛い部下を差し出すだなんて驚きですね。騎士百名を武装解除した状態で差し出してくださいとか頼んだら差し出してくれるんじゃないでしょうか? などと戯れ言はそこまでにしましょう。次ですが、一時間以内に騎道車の魔導エンジンを取り外して大通りの前に置いてください。それ使われると色々面倒臭いんで。やってくれたらまた人質を百人解放しましょう。もちろん、おかしなことをすればすーぐバレますよぉ』


 またもや一方的な通告で、しかもヴァルナとシアリーズがどうなったかを一切言わない。騎士団全員が不安に押し潰されそうになったとき、ルガーが眉毛をぴくりと動かしてセドナを見る。

 セドナはその視線にうなづくと、その場を去って行った。

 いつの間にかロックなど数名がいなくなっている。

 ロックを除く人間は、ルガーの本部での側近ばかりだ。


 不審に思ったガーモンたちが疑問を呈する前に、ルガーはにやぁ、と口角を上げていやらしく笑った。


「まぁ、ちょっと待とうや。これは必要な時間だからさ」

(((アッこれ悪いこと思いついたときのやつだ……)))


 ルガーが何故笑ったのか、数名の騎士はどこに向かったのか。

 その答えは僅か数分後に白日の下に晒されることになる。

 解放された人質たちが炊き出しで施しを受ける中、騎士団の会議場所ではとんでもない事実が皆の目の前に突きつけられていた。


 そこにいたのは若い男が一人と、更に若い女が一人。

 猿ぐつわを噛まされて拘束されている。

 騎士団にとっては見覚えのある顔だった。


「見つかったぜ、こいつらが俺たちの動きをあちらに流してたスパイだ」

「スパイぃ!?」

「いつのまに、なんで!?」


 素っ頓狂な声を上げる騎士たちに、ルガーは腕を組んでふんと鼻を鳴らしながらスパイたちを見下ろす。


「料理班、医療室出向組に一人ずつな。騎士には送り込むのが難しいと思って外注の部分を狙ってきやがったか。ま、確かに俺なら同じ手を使うかもな。効率いいし」

「でも、団長は何故その存在に気付いたんです?」

「おかしいと思わなかったか、さっきの通告? 何故俺がここにいることがバレてる? 向こうは俺たち外対騎士団本部の人間が外に脱出したことを知らねぇ筈なんだ。実際再度偵察に行って貰ったが外対騎士団本部の中にオークは侵入してない。しかも俺らは誰にも正体が知られないようこの場に合流したんだぜ? 正解は一つ、最初から内通者がいたからだ。それも浅いところにな。深く入りこんでるならもっと俺らの動きは制限されたし、隠し通路の先に待ち伏せだって出来た筈だ」


 つまり、ルガーが後から騎士団に合流したのを見て彼らはそれを犯行グループに密告したからルガーの居所がばれたのだ。そしてルガーはその可能性を見越して騎士団合流と同時に腹心の部下たちにスパイを探らせていたらしい。


(あの一言だけで即座に確信……いやそもそも、それより前から警戒してたのかよ……)

(認めたくねえけど、さ……なぁ?)

(うん、こういうときはホンット頼もしい団長だよね)


 ケケケ、と笑って「ボロを出すとは可愛いところもあるじゃないの」とにやつくルガーを見て、騎士団員は改めて自らの騎士団を真に率いている者の頼もしさを感じた。

 奥からはセドナが両手に通信装置を抱えて現れる。


「外対騎士団のフィーアさんがズッコケてひっくり返った拍子にこんなの出てきちゃった。これを使って情報を送ってたみたい。ドゥジャイナさんに聞いたんだけど、これは送信しか出来ないタイプの代わりに敵グループが使ってるものより小型なんだって」


 小型とは言っても大きめの辞書程度にはサイズがあるが、自分の荷物に紛れ込ませておくことは可能だろう。


 ルガーは己という情報を囮にしてスパイが動くかどうか確認したのだ。

 セドナもその可能性は考えており、あの通告で情報が漏れていることが確定したので拘束に移ったということだ。


「外対騎士団は面倒だと思ったんだよなぁ、シェパーくんは? なんせ率いてるのが何をやらかしてもおかしくない俺だもんなぁ? もし海外に逃げられれば王国内での出来事が即座に海外に伝わり、即座に総攻撃に移られるかもしれない上に俺らを通して情報ダダ漏れ。かといって下手に武装解除なんて命じたら、逃げ場無しと判断してカルトみてーな熱意で全滅するまで戦うかもしれない……と、俺ら以外は思ってる。主にオーク関連ではな」


 それはルガーによる団員への刷り込みと、外への情報の漏らし方によって根付いた考えだ。

 外対騎士団は相手がオークになると容赦なく、あらゆる卑怯、残虐な手段を以てしてでも殺しにかかるし誰もそのことを疑問に思わない。そんな集団を端から見ている者は、「オーク殺しのためなら何でもする狂人集団」というイメージを持っても不思議ではない。

 そうやって本気で敵に回すには危険だという意識をルガーは周囲に振り撒かせ、誤認させていたのだ。


「え、何言ってんだ。オークを根絶やしにするのは社会の義務だろ???」

「そうよ。存在すること自体が死に値する罪なんだから」

「全ての命は平等だよ。オークが命以下の存在なだけだ」

「呼吸をしてることが烏滸がましいよね」


 聖天騎士団に「そーゆーとこだぞー……」と呟かれているが漏れなく外対騎士団は聞いていなかった。


「まーともかくそういうわけで、シェパー議員としては生かさず殺さずじわじわ削っていきたいんだろ。そもそも解放された人質が多いほど、市民とかの保護義務がある上に人数の少ないこっちは動きづらくなるしな」


 少なくとも今のところ、スパイに外対騎士団の情報を知らせる手段はなくなった。仮に他にいたとしても、数多のファミリヤと団員の目を盗んで、決して小さくない通信装置を起動させて情報を送ることは現実的ではない。


 問題は、スパイがどういう条件で情報を送っていたのかだ。

 変化があったら連絡しろ、なら時間は稼げるが、定期連絡しろ、だったら連絡がないことがスパイが身動きの取れていない証明になってしまう。ベストなのはこのまま相手に一切情報を送らないことだ。

 

 セドナが二人のスパイに背後から近寄る。


「この通信機はどういう時に使うよう言われてるの?」

「……」

「……」


 医療室出向の男はしらを切るように無視し、料理班の女性は死んでも喋れないと固く口をつぐむ。

 流石にぺらぺらと情報を喋るほど安い人間をスパイにしていないようだ。


(あんまり慣れてないけど、手荒な方法をとるかな)


 聖盾騎士団は対犯罪に秀でた騎士団であり、全騎士団の中で最も尋問の何たるかを知っている部署でもある。だが、そのやり方には時間がかかる以上は拷問のような手段を取るしかない。


 一瞬の逡巡。

 意を決した瞬間、横やりが入る。


「半端な知識での揺さぶりは阿諛便佞あゆべんねいの虚言に踊らされるだけ也」

「そういうのは経験者に任せろ的な気持ち悪いツンデレを言っています」


 その声を、騎士団の皆は知っている。

 ローニー副団長が目を剥いて驚いた。


「ンジャさん!! セネガくん!?」


 褐色の肌に鋭い眼光の古強者、少数民族『ディジャーヤ』の戦士、ンジャ。

 知的な眼鏡と毒舌を兼ね備え、ンジャの義理の娘でもあるセネガ。


 嘗てバノプス砂漠での激戦で無茶が祟ったンジャはずっと療養の為に王国北東の温泉地に行っており、付き添いでセネガもずっと休暇を取っていた。その二人がこのタイミングで戻ってきたことに騎士団も色めき立つ。

 どうやら馬車でここまで来たらしい二人の後ろには、別の人影も数名ある。


「久方ぶりに帰還してみれば、随分と焦臭きなくさい事になっておるな」

「まぁ、その二人にはもう聞かなくて結構ですよ。こっちで見つけたスパイから情報は聞き出し済みですので」


 そう言ってセネガが背後に手招きすると、冒険者リーカとクロスベル、そしてヤガラとベビオンに囲まれて一人の女性が姿を見せる。女性は顔面蒼白で脂汗を掻いており、服のあちこちから血が滲んで両腕を包帯でぐるぐる巻きにされていた。


「んふふ、皆さんにもディジャーヤ式の拷も……もとい取り調べを見せたかったですね。ディジャーヤの戦士は戦いと切っても切れない一族なんでこういうのも得意みたいですよ? それはそれとして一応この薄汚い間諜の治療をしてあげてください。腹部数か所と手の包帯の下、ちょっとひどいので」

「「「ヒェッ」」」


 嗜虐的な笑みで頬を染めるセネガに、ンジャは小さな声で「どこで育て方を間違えたのか……」と呟いていた。


 尤も、騎士団の大半はクロスベルを見て――。


「あれ!? ヴァルナお前とうとう分身の術で分裂したのか!?」

「そうかお前とうとう人間を卒業して……」

「いいや、これは影法師ドッペルゲンガーだろ」

「いや同時存在バイロケーションってやつかも」

「どっちにしても世にも奇妙なんだよなぁ……」

「よく見てください!! ヴァルナ先輩とは似てはいても別人ですわ!!」

「ヴァルナファンクラブ会員の判定が出ました!! 結果は偽物、偽物です!!」

「偽物なら遠慮は要らないな! おい偽ヴァルナ、隣の女の子紹介しろ!!」

「偽ヴァルナ、合コンのセッティングして可愛い女の子三人連れてこい!!」

「偽ヴァルナ! 君の斜め上から熱い視線を注いでいる小さな少女の情報を求む!!」

「相変わらず約一名見えてはいけないものが見えてるんですよねぇ。知ってますか? ここに小さな女の子はいませんし人は他人の斜め上に浮遊することはできないんですよ?」

「……………下で四つん這いで踏まれてる恍惚の表情のカレのことは触れたらちょっとアレかなと」

「もう一人いるのですかッ!? 踏み台にされてるのですかッ!? 幽霊なのにッッ!!?」


 ――と謎に盛り上がっていて聞いていなかったが。

難しい四字熟語使うキャラにしたことで作者を悩ませるおじさん、復活。

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― 新着の感想 ―
[一言] おお、駄目ンズ組や地下組、槍団長組も合流!! それにスパイも捕縛!!悪知恵団長の頼もしさ?や、外対の狂いっぷりも相まって熱くなってきたじゃないの!! それでも人質という枷はデカイ。これを覆す…
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