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最強剣士、最底辺騎士団で奮戦中 ~オークを地の果てまで追い詰めて絶対に始末するだけの簡単?なお仕事です~  作者: 空戦型
最終章 ラストミッション

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466.終わりだと思わないことです

 人質は、極めて古典的かつ短期的には非常に有効な交渉手段だ。

 人間が同族意識や仲間意識を持つ限りは、多かれ少なかれ必ず躊躇いが生じる。

 仮に人質を取る側が最終的には目的を果たせなかったとしても、最後の最後まで相手に損失のリスクを突きつけ続け、行動を躊躇わせることが出来る。


 まして、都市レベルで制圧された場所の人質だ。

 当然、このような騒ぎに巻き込まれて命を奪われる謂れのない一般人が人質に取られることになる。そして、そうした人の為の剣である騎士が要求を無視してみすみす民を見殺しにすることなどあってはならない。


『場所は中央公園広場で。人数は呼ばれた二人きっかり。多くても少なくても駄目ですよ? 言わずもがな、やってきた二人に抵抗のそぶりあらば即座に人質は殺します。一人二人じゃなく沢山ね。あぁ、可哀想な市民の皆さん。民の剣と称される外対騎士団に見捨てられて残酷な死を迎える人々の心中は察するに余りあります』


 ガーモン団長が胸くそ悪そうに舌打ちした。

 他の騎士達も同様で、ロザリンドは「……ろす」と無表情で何か呟いていて正直怖い。


「さも同情しているような口ぶりでいけしゃあしゃあと……」


 俺はというと、思うところは様々あるがやることはすぐ決断した。


「お呼ばれしたから行ってきます。シアリーズ、いいな?」

「えー? そういう献身求められてもなぁ……まーしゃーないか」


 民の為に命を投げ捨てるなどという発想は欠片もないであろうシアリーズは本気で嫌そうだったが、「貸し一つね」と不承不承ながら頷く。彼女はこういうのは他人の犠牲に関係なく暴れ回るタイプの人だろうから了承してくれてほっとしたが、作った貸しが巨大に見えるのは気のせいだろうか。


 騒ぎを聞きつけてやってきたローニー副団長が駆け寄ってくるし、後輩達が顔色を変える。普段から民の為の騎士であると豪語する俺ならそうするであろうことを分かってくれているようだ。

 なので、俺も皆への信頼を預ける。


「たった十分とはいえ時間は稼ぎますから、後はよろしく」

「じゃねー」

「おい、約束守る保証ないだろ!? ホントに行くのか!?」

「待っ……」


 俺は呼び止める声を無視して剣をセドナに向けて放り投げ、王都に走った。

 シアリーズも己の剣をロザリンドに渡して走り出し、加速して横に並ぶ。


「良かったの? 話し合いしなくて」

「約束の十分に間に合わなくなる。それに、今はこうする他ないだろ。大丈夫、十分稼げればひげジジイがなんとかするって。王宮も把握してない極秘の抜け道作ってるからな、あのひげ」


 外対騎士団本部はひげジジイの趣味で罠満載だ。初手で建物そのものを爆破するくらいはしないと攻略は困難だし、恐らく本部の人間は逃げている。だとすればもうすぐ外の騎士たちと合流して策を講じる筈だ。

 今必要なのは、とにもかくにも時間。

 セドナはそれを分かっているから何も言わなかった。

 理解ある親友で助けかるが、多分あの場にいなかったネメシアに後で死ぬほど怒られる。

 後で会えればという前提つきだが、そこは共に死地を乗り越えた仲間を信じよう。


「助けに来ないか行った途端殺されたらどうする?」

「悩みどころだが、君に死ねとまでは言えないからそのとき次第だな。ジジイがこりゃ無理だと思って撤退を選んだなら、実際問題本当にそれしかないんだろ。逆に何か講じてくるんであれば針の穴に糸を通すような道でもうちの騎士団はなんとかするさ」

「ヴァルナと私が抜けることで戦力五割以上ダウンなのに、楽観的すぎない?」

「過大評価が過ぎるっての。そんな柔な組織がこれまで大きな失敗もなく劣悪な環境で仕事を続けられるわけないだろ?」


 数が少ない、予算が足りない、時間が厳しい、etc……etc……あの騎士団はいつもどこでも問題だらけだった。それはそれで職場環境改善してくれよと思いはするが、それでも知恵と連携と、時々は運を交えつつも問題そのものは解決してきた。


 成長した後輩達に、聖天騎士団も味方についてくれるだろう。

 ノノカさんがいないのが気になるが、セドナに頭脳を補って貰う他ない。


「英雄は役に立たない、が外対騎士団の隠しスローガンだ。見てろ、俺がいなくてもトンデモ作戦実行してくるぞ?」

「世界一位の最強剣士がどの口でほざいてんだか。ヴァルナって本当、自分の強さとか実力に対する自負ってもんがないよね」

「オーク討伐の役に立たないからな」


 喋っている間に、王国の中央公園広場に辿り着く。

 そこにいたのは変異種らしい複数のオーク達とそれを指示していると思われる人とオークの特徴が交じった人間。恐らくあれがハイブリッドヒューマンだろう。ガチガチに緊張している辺り、当人自体の戦闘能力はさほど高くないのかも知れない。


(人質は……いる。本当に年寄りばかりだ)


 公園の端や屋根の上に十体以上いるオーク達の野太い腕は、捕えられた王国民の老人たちの首をいつでもへし折れるよう掴んでいる。オークたちは人に情など湧いて居なさそうなので、指示があれば何の呵責もなく殺されるだろう。


 ハイブリッドヒューマンは手元の装置になにやら話しかけている。

 すると、放送が拡声された犯人の声を出す。


『時刻より五秒遅いですねぇ……あ、報告を聞く時間計算に入れてなかった。失礼、こっちの凡ミスです。時間通りご足労いただきありがとうございます』

(あの装置で遠隔通信してるのか。魔王も確かああいうの使ってたっけな)

(なるほど、最高指揮官がどんなに離れていようと即座に言葉を伝えられると。ナーガの技術協力で作った技術が全面的に悪用されてるな……)

『どうやら剣は置いてきたようですけど、隠し武器とか持ってると面倒なので拘束します。抵抗したらもちろん人質は死にますよー』


 ひっ、と、人質たちから悲鳴が漏れる。

 祭典の筈の日に突然の命の危機に晒された者たちの表情は恐怖と不安に満たされていた。本来ならそれを華麗に助けてこその王国筆頭騎士だが、それをすれば助けられるのはせいぜい数名が限度で、あとは呆気なく首の骨をへし折られて殺されるだろう。

 人質の中には「我々には構わず犯人を捕えてくだされ!!」と勇敢に叫ぶ人もいるが、その犯人はこの場にいないようだし、民を見捨てることも出来ない。これで相手がオークじゃなければ情に訴えることも出来たのだが、と思い、倫理観が根本的に違うオークの軍隊はこういうときも便利なのかも知れないと場違いな感想を抱いた。


(素手で戦えないとは言わないけど、見捨てちまったら俺の騎士道に背くことになる。自分で言うのもなんだけど、でかすぎる弱点だなぁこれ)


 民を見捨てられないことが、これほど致命的な事態を招くとは思わなかった。政治家などが人を切り捨てる判断をすることは知っているし、何かの利益を得る為に何かを消費するのは当然のことだが、いざ自分が選択を突きつけられるとあっという間に選択肢がなくなって少しショックだった。


 オークに拘束されるのかと思っていたら、人間がオークの合間から出てきて厳つい罪人用の手錠を取り出した。凶悪犯用で腕の動きを広く制限し、指先も使えないようカバーのついた手錠だ。足にも頑丈な錠が嵌められる。


 これは騎士が実際に様々な耐久テストを重ねて辿り着いた本当に頑丈な錠で、氣を扱えるとか体を鍛えている程度での破壊は不可能だ。仮に破壊できたとして、抵抗とみなされて人質は死ぬ。


「……他に手段はないと思って来たのは確かだけど、これ本当に厳しい状況だな」

「今更過ぎない? はー、気分わるっ。どうせならヴァルナを拘束したいのにぃ」

「どういう意味かは聞かない。聞かないぞー」

「そりゃもう既成事実を作る為に」

「聞こえないなーあーあー聞こえないぞー」

(この人達なんでこんなに緊張感ないんだ……)


 それにしても、オークと人の混成組織か。

 いや、人は少数だろう。こんな思想からして危険な計画に秘密を守って付き合うような人間を多数用意出来るとは思えない。彼らはせいぜいオークに出来ない細かい作業の補助程度だろう。

 シアリーズは自分に拘束具をつける男に口を尖らせる。


「肌には触らないでよ、変態おじさん」

「……」

「無視するんだ、ふーん。まぁ国を丸ごと裏切ろうなんてこと考えるくらいだし、人の心も恥もないのは当たり前だよね」

「……」

「シアリーズ、無駄に煽るなって」

「はーい」


 今のは彼女なりに情報を引き出す為の揺さぶりをかけたのだろう。氣を探ると、一人は特に動揺はせず、もう一人の人間は言いたいことがあるように氣が揺らめいていた。同じ計画に賛同する人間でも動機は違うのだろう。逆を言えば、それだけ裏切りづらい人間を特定の基準で選別しているとも考えられる。

 だとすると、裏切りの可能性はなくとも思想は統一されておらず、仲間意識もあまり高くはないのかもしれない。だからといってそれを騎士団の仲間に知らせることは出来ない。


 出来ないが、騎士団が間接的にそれを知ることは出来る。

 例えば今、オークも気付かない木陰からこちらの様子をじっと見ているハルピーのぴろろと鷹のファミリヤ、ヒュウが状況を伝えるという形で。


(流石はキャリバン、抜け目ないやつ。俺が出てすぐに偵察に出したな)

(バレないようお口チャックしとこっと)

『いやー、不気味なほど従順ですねぇ。では従順なまま牢屋内に移動してもらいましょうか。あ、しつこいようですけど……』

「牢屋内で脱走するそぶりを見せたら人質を殺すって言うんだろ」

『脱走するそぶりを見せたら人質は殺しますのであしからず』

(あれ?)


 こっちの声が聞こえていないのかな、と思ったところではたと気付く。声の主は恐らくあのハイブリッドヒューマンなるオークから報告を受けて喋っているだけで、こちらの姿も声も見聞きしていないのだろう。声が聞こえるからつい会話できると思ってしまった自分の間抜けさがハズい。

 だが、細かいことだが重要なことではあると思い、敢えて声に出す。


「こっちの声は聞こえてないのか? どうなんだ」


 するとハイブリッドヒューマンの女がキッとこちらを睨む。


「煩いわね! あんまり煩いと抵抗の意思ありって伝えるわよ!!」

(……このメスオーク、いや人? ハイブリッドヒューマンっていうか、殆ど人じゃないか)


 あの表情やヒステリックな言い様は、完全に人間のそれだ。

 それともあれは人寄りの個体なのだろうか。

 いくらテロリストでオーク要素があるとは言え、あれを殺すのは道徳的にどうなのだろうかと考えてしまう。もちろん国家の敵なので殺されてもあちらは文句が言えない立場なのだが。

 放送から響く声に戸惑いが混ざる。


『貴方の主観で伝えられると大変困るんですけどねー』

「ああっ、も、申し訳ございません! 騎士ヴァルナが煩くてつい……」

『カッとなってやったは勘弁してくださいよ? 与えられた役割に忠実にしてくれればいいですから』

(……通信機を破壊すれば上との連絡は途絶させることができるな。ただ、その場の人質を救出出来てもあちらが別の場所で人質の殺害を命じれば……『外対騎士団はみなさんを見捨てました』なんて吹聴されても王都はパニックだ。厄介すぎる)


 それと、一つはっきり言っておかなければいけないことがあったので、ハイブリッドヒューマンの女に声をかける。


「ひとつ伝言頼まれてくれるか?」

「何よ! しつこいわね!!」


 俺は彼女の様子を無視して忠告する。


「俺は約束は守るが、お前たちの側がもし一人でも民を殺したなら、俺は腕が千切れようが何万の敵が立ち塞がろうが、必ずお前らを地の果てまで追い詰めて一匹残らず根絶やしにする。よく、覚えておけ」


 それだけは、絶対に譲らないし、絶対に実行する。

 その様で何が出来ると鼻で笑うならばそれもいいだろう。

 どの様になろうが実行するだけだ。


「ひ、あぁ……ッ!?」

『ブヒィ……!!』


 女の全身の皮膚に鳥肌が立ち、オーク達が気圧される。

 俺はただ覚悟を口に出しただけだ。

 気圧されるのならば、その程度の意志で立っている側が悪いと思う。


「きゃー、だーりん怖ぁい」

「茶化すなシアリーズ。おい、きちんと伝えろよ」


 女が震える声で通信機に喋りかけると、放送から返答があった。


『え? なになに? はぁ……さらっと恐ろしいこと言いますねぇ。ま、いいでしょう。互いに平和的に行きましょうよ』


 それ以上は何もさせて貰えなかった。

 俺とシアリーズは拘束されたまま馬車に乗せられ、その場から離されていく。シアリーズはわざとらしく「バランスがとりづら~い」と言いながら俺にしなだれかかっている辺り、まだまだ余裕綽々のようだ。こら、人の匂いを嗅ぐなってば。監視の人がすげぇ微妙な顔でこっち見てるぞ。


(あとは仲間が救出に来てくれるのを待つか……誰も犠牲にはしたくない。頼んだぞ、みんな)


 先ほどぴろろとヒュウのいた場所に視線を送ると、そこにはもう何もいなかった。

 上手く情報を持ち帰ってくれよ、ふたりとも。

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