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最強剣士、最底辺騎士団で奮戦中 ~オークを地の果てまで追い詰めて絶対に始末するだけの簡単?なお仕事です~  作者: 空戦型
断章 外対騎士団ユージュアリィ

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447.いい加減に目を覚ましなさい

 チキンレースで自殺を図ったドラガルスが訳が分らず呆然とするなか、剣に付着した埃をハンカチで拭って鞘に収めたヴァルナは割と怒った顔でライを睨みつける。


「ヴァ、ヴァルナさん!? 何で!?」

「何でもクソもあるかこのバカたれ!! 元暴走族組のメンバーがごっそり宿泊施設を抜け出したんだから、いま俺を含めて王国騎士は全員お前らの捜索に駆り出されてるっての!! ったく、お前が抜けたヤツでよかったぜ。果たし状を机に忘れてったろ? おかげで場所が割れたよ」


 苛立たしげにガリガリと頭を掻いたヴァルナの視線は、地面に転がり呆然と空を見上げるドラガルスに映る。


「で? こんな危険な場所でお前ら何やってたかは知らんし興味ないが、終わりでいいんだな?」

「えっ、あ、はい……」

「そっちのお前は!?」


 いきなり話を振られたドラガルスは怯えた顔で後ずさる。


「お前、本当に人間かよ!? 俺たちは帝国最速の走り屋だぞ!? それをバイクも使わずに追いつけるなんてありえねぇ!!」


 現実離れした目の前の出来事に半ばパニックを起こしたドラガルスの叫びに『帝韻堕狼襲』のメンバーや元メンバーがうんうんと頷く。彼らのヴァルナを見る目は完全に人外に向けるそれであった。


 これに黙っていられないのがヴァルナ――な訳はない。

 常日頃から騎士団に散々化物扱いされているヴァルナは、実のところ任務で助けた相手にもちょこちょこ「人間じゃねえ」「現実がお前を間違った」「人の皮を被ったナニーカ」などと化物扱いされてきた。同僚の化物扱いは半ばおふざけだし、今更知らない人間に化物呼ばわりされても「鍛錬の差」と返すだけの胆力が身についている。


 なので、黙っていられなかったのはヴァルナを尊敬するライの方である。


「オウてめぇら何だコラボケェ!! こちらにおわすは平民の生まれでありながら剣一本でのし上がり王国最強に上り詰めた英雄ヴァルナさんだぞッ!! 敬え、ひれ伏せ、助けられたことに土下座して感謝しやがれやクソがぁッ!!」

「ひぃ!?」


 額に青筋を浮かべ、中腰でニラミを聞かせて顎がしゃくれるほど怒鳴り散らすライの態度にヴァルナは普通にドン引いた。


(うわぁガラわる……率直に言って知り合いだと思われたくねぇ)


 で、ヴァルナは引くくらいで済むが、『帝韻堕狼襲』側からしたら黄金期のレジェンドでしかもドラガルスに勝ったばかりの元切り込み隊長のガチギレである。これで怖くない筈がなく、全員慌ててヴァルナとライの足下に駆け寄ってきて土下座する。


「り、リーダーを助けていただきありがとうございます!!」

「バイクより速い足とかありえな……じゃなくて感動しました!!」

「ライ先輩が何故リスペクトするのかよく分かったっす!!」

「これはもうヴァルナ、さん? の勝利なのではないでしょうか!!」


 次々に感謝やリスペクトの言葉が送られてくるが、見るからに全員、独裁者が「わたしが笑っているのだからお前らも笑え」と圧力をかけたときの笑い方である。とうの独裁者であるライは最後に賛辞を送ったメンバーを指さして手を叩いて笑う。


「そこ!! お前良いこと言った!! そうだこの勝負はヴァルナさんの勝利だ!! よって『帝韻堕狼襲』総長の立場もヴァルナさんのものだ!! さあヴァルナさん、この帝国最強の走り屋集団をどうしますか!!」

「え、どうもせんけど。俺関係ないだろ」


 事情が飲み込めないヴァルナは完全にこの場が面倒臭くなっていた。

 ヴァルナの仕事は行方をくらました面子の身柄確保だけだ。

 法律違反の挙げ句に死にかけた知らない男を助けたのは騎士道精神の情けであり、もう用事は終わっている。一応彼らが暴走族であることくらいは理解していたヴァルナは、とりあえず正論をぶつけた。


「というか捕まる前に足洗ってちゃんと就職しろ。バイクは詳しく知らんけど、法律の範囲内で楽しみなさい。暴走族は今日で解散ね。異論あるやつ手ぇあげろ」

「「「ありません、総長!!」」」

「ま、待て……!!」


 良い感じで逃げ切れそうな所だったが、助けられた際に放り出されたまま地面に座るドラガルスが抗議の声を上げる。


「てめ、いや、あんたが凄いヤツだってのは分かった。ライが下手に出るなんて尋常じゃねえからな。だが……ここははみ出し者の行き着く場所だ! 居場所のない人間の受け皿だ!! 死んだ女が愛した場所、俺に残された最後の大切なものなんだよ!! それを、はい解散で終わらせろってのか!!」


 恐らくは、ドラガルスにとっては自分の死を以て終わらせるやり方であれば納得は出来たのだろう。これは理屈ではない。論理的な思考に関係なく、恋人の死と罪悪を忘れられない彼にはその道しか選べなかったのだ。

 ヴァルナは彼の叫びに何かを感じたらしく、ライに事情を聞く。

 あらましを聞いたヴァルナは、ドラガルスに寄ってしゃがみ込む。


「恋人を死なせた心の痛みは俺には分からん。だからそれについては何も言わん」

「……へっ、お前くらい強ければ何も失わずに済むんだろうな」

「俺は自分の実力のおかげで誰も死なせずに済んでると思ったことはないぞ」


 ヴァルナは首を横に振った。


「俺が騎士団の仕事で自分の手が届く範囲の人間を死なせずに済んでいるのは、俺たち騎士団が実績の裏で沢山のミスと後悔を積み重ね、失敗しない為の術を練り上げてきたからだ。俺は騎士団に入ってから先輩達にそれらを徹底的に叩き込まれた」


 ライは、知っている。

 無敵に見えるヴァルナも、騎士団に入りたての頃は様々なミスをしては怒られたり落ち込んだりしたことを。それでもこの人なら乗り越えられると感じたからライは全力で応援したし、実際にヴァルナは今の領域に至った。

 だが、それを褒める度にヴァルナは同じことを言った。

 騎士団の仲間がいるからこれだけの仕事が出来るのだと。


「危険を伝えること。情報を共有すること。仲間を信じて助け合うこと。騎士団で死者を減らすための大原則的なものだが、別に騎士団だけで役立つことじゃないと俺は思う。お前は暴走族とかじゃなくて、ちゃんとした合法的なグループを作るべきだ」


 命令はせず、すべき道を示す。

 同じ十字架を背負ったライには出来ない提案を。


「お前の痛みはお前のものだが、若気の至りでバカやった奴が同じ目に遭ってお前と同じ消えない苦しみを味わうことがあるかもしれない。そんな奴がまた社会に生まれない為に、経験者は警鐘を鳴らす義務がある。本当に失ったお前の声にしか宿らない重さはある。それは先達の義務だ」

「そうすれば……俺の胸の痛みは消えるのか?」

「簡単に消えるような痛みなら今の今まで苦しまんだろう。そんな痛みを他人に背負わせるべきじゃない。だからお前が教えてやるんだ。後悔しなくて済むやり方を、暴走行為以外の方法でな」


 ヴァルナは立ち上がり、道路の遠くに見える摩天楼に視線をやる。


「言っておくが、楽な道じゃないぞ。言って分からんやつもいるだろう、上手く伝える手段が思いつかないときもあるだろう。これは簡単な問題じゃない。だから、安易な方に逃げることだけはやめろ。自殺なんてのは特にな」


 ヴァルナはそれだけ言い残し、ライに「帰るぞ」と肩を叩いた。

 ライは頷き、ドラガルスの手を掴んで起こすと、抱きしめた。


「どんなに喧嘩しても、俺らはダチだ。だから死ぬなよ。くだらねぇ死に方したらあの世でクレアに愛想尽かされるぞ。俺たちが好きだったクレアは、そういう女だ」


 これ以上の言葉は不要だろう、と、ライはバイクのハンドルを掴んでヴァルナを追いかける。ライの後輩で王国から来た研究員たちも慌ててそれに続いた。


 ドラガルスは何も言わなかった。

 ただ、顔を隠して静かな嗚咽を漏らし続けた。




 ◆ ◇




 帰り道、ライはヴァルナと二人で歩く。

 ライは途中、ぽつりと口を開く。


「暴走族を辞めてからもバイク弄ってたから分ることもあるんですけど……二人乗りは必ずしも危険とは限らないんです。運転者と同伴者が二人乗りをする際に何に気をつければ良いかをしっかり知った上で安全運転すれば、そうそう事故なんて起きるもんじゃない」

「そういうもんなのか? 端から見たら見るからに危なそうだけどな」

「身も蓋もない話ですけど、事故れば一人だろうが二人だろうが危ないのは一緒なんですよね」


 だが、運転技術と知識があれば大丈夫だと過信すれば事故は起きる。かといって、何でもかんでも禁止にしては不便だし、抑圧された感情の行き先がまた暴走行為に繋がるかもしれない。バイクや車の急速な普及を目指す帝国で常に議論が交わされるのは、どこに線引きをするかという問題だ。


「きっと、あいつは立ち上がってヴァルナさんの言うような新しいチームを作ると思います。それにドラガルスはなんだかんだ人望の男だから、『帝韻堕狼襲』の連中はあいつについて行くでしょう。案外そういう組織が今後の帝国では大事な存在になるのかもしれない」

「……良かったのか。お前の親友だったのに俺なんかに解散宣言から何までやらせちまって」

「押しつけたとは言わないんですね」

「しんみりしてるお前の顔を見れば、それぐらい察すよ」


 ライは一度ため息をつき、そしていつものように笑った。


「今の返し、格好いいなぁ! それにあいつを助けたときもそうですよ。疾風のように駆けつけて命を助けて、そんで道まで示してやるだなんて! まさに英雄的じゃないですか!?」

「どーかな。俺の言うことってみんなの基準だと結構厳しいらしいし。お前はついてやらなくていいのか、あいつに?」

「いいんですよ」

「帝国に残るって言ったら、止めないぞ。ダチのために決意を決める奴を止めるほど野暮になった覚えないし」

「本当にいいんです。大体、俺が残ったらまた前の『帝韻堕狼襲』に逆戻りしちゃいますよ?」

「それはリアルに困るな」

「ちょっと? 今のは笑うところですよ!?」

「お前のあの時の恐怖政治っぷり見た後だとリアリティが凄いんだよ」


 割とリアルに引くヴァルナと悲しい顔をするライのやりとりは、暫く続いた。

 残れば逆に彼の為にならないという本音と、それに対する寂寥感を慰めるのに付き合ってくれたヴァルナに、ライは内心で感謝した。


 ――後にドラガルスは自動車運転技術やマナーの周知を広める為の新たな組織『ハウンドドッグ』を生み出し、彼らのルールが帝国の交通ルールのスタンダードになっていくのだが、それはずっと先の未来のお話。

 そしてライが未来にどうなったのかは、まだ不確定な未来のお話。

というわけで、ライの過去をちょっと振り返りました。

彼にも色々あるのです。

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