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最強剣士、最底辺騎士団で奮戦中 ~オークを地の果てまで追い詰めて絶対に始末するだけの簡単?なお仕事です~  作者: 空戦型
第十九章 見果てぬ大地へ

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398.夜に駆けてゆきます

 冬虫夏草というものがある。


 冬は虫の姿であったのに夏には草になっていることが名前の由来で、虫の死骸からにょきにょきと生えている草だ。虫から草が生えるのなら、魔物の脳みそから種が芽吹いてもおかしくない。


「ってんなわけあるかッ!! 冬虫夏草はカビの一種だよ!! よしんばカビが生えてたとしても免疫駄目になっちゃってるか死んだ後だよ!!」

「誰に突っ込んでるんだね君は?」

「すまん、冷静になる……」


 ルートヴィッヒに珍生物を見る目をされた。

 思うところはあるが、今は捨て置く。


 植物と言えば、被食散布という種子の散布を行う植物がいる。

 いわゆる果物や木の実がそれに当たり、栄養価の高い果実等を狙う動物にわざと自分の子孫たる種子を果実ごと食べさせるのだ。

 アルラウネもかなり特殊ではあるが、この被食散布に当てはまるきらいはあった。だから魔物の脳みそから種が芽吹いてもおかしくはない。


「いやおかしいわ!! そもそも数時間で発芽する種子なんて聞いたことねぇし、体内で発芽したら排泄された後に芽吹けねぇだろうが!! そもそも親指大のサイズがある種がどうやって消化器官逆流して脳に到達するんだよ!!」

「ヴァルナさっきから頭おかしくなっちゃったの?」

「いや、情報の整理が……」

「あーうん、分かる分かる」


 ルルに、とりあえず同意しとこうみたいな同情の目で見られた。

 釈然としないが、今は捨て置く。


 ――さて、脳といえば生物の行動全てを司る最重要器官である。

 しかし、自然界にはこの脳を乗っ取ってしまう生き物がいる。

 それが、寄生虫だ。


 その種類は様々あり、既存の生物を利用して成長、繁殖を繰り返すちょっと気持ち悪い生き物だ。しかしその分狡猾であり、虫や魚の脳をコントロールしてしまう者もいるという。まだ世界では研究がそれほど進んでいない分野だが、確かに寄生虫ならオークの脳で芽吹いてもおかしくはない。


「いやおかしいんだよなぁ……だってこいつ虫じゃなくて植物の種子なんだもんなぁ……しかも脳に到達出来るくらい小さい虫なら分かるけど、この種でかすぎだし、一体どうやって短期間で脳みそまで到達したんだよって疑問が解消されてないんだよなぁ……」


 更に付け加えるなら、異常行動は明らかにオークだけで起きているように見えたが、他にもアルラウネを捕食する生物はいた筈だ。なのに今のところオーク以外で異常行動が確認されていないのは、一体どういう了見なのだろう。


 いや、或いは――と、オークの脳から剥がした種を見る。

 試しに地面に置いてみると、緩慢ながら、根が動き出す。根は地面にずぶずぶと侵入し、とうとう種自身が揺れて段々地面の中潜り始めた。これにはルートヴィッヒ達もぎょっとする。

 俺は即座に種を剣で貫いた。

 放っておけばアルラウネが生えてくるところである。

 ルートヴィッヒは口元を抑えて呻く。


「アルラウネの種は確かに魔物の元だけあって普通の植物より生命力が強いが、こんなに露骨に地面に潜るような動きをするとは聞いたことがない……」

「寄生虫のように種が動くとはな。そういう変異の仕方だったのかよ」


 そもそも、種子というのは芽吹きやすいタイミングになったら発芽し根を伸ばすものだ。生物の体内は残念ながらその環境に該当しない。

 種のエネルギーも有限だ。環境に合わせて発芽すれば効率よく周囲から栄養を吸い取れる環境になるが、生物の体内で無理矢理発芽しても、流動的な消化器官の中では胃酸などに晒されて逆に弱ってしまう。


 そんな環境下で無理矢理発芽し、消化器官のどこかに穴を開けて脱出し、恐らくは血管を利用して脳まで到達するには、それだけで力尽きかねないエネルギーが必要だ。というかそもそもこのサイズの種が動脈などの血管に詰まったら普通に死ぬと思うのだが、その辺はオーク驚異の生命力なんだろうか。

 

 元々野生生物なんて医者にかかれないのだから、どんなに痛くて苦しかろうとも体が動く限りは生き残る為に動き回るものだ。種が脳に回るまでの間に異変らしいものを俺が見抜けなかったのは、オークにとってその程度の痛みは日常だったからなのかもしれない。

 試しに他のオークの頭蓋を切り裂いてみると、どのオークにも同じ種子が脳に根を張っていた。


「解剖の時、脳まで見なかったのが失敗だった……きっと仕留めた三匹もそうだったんだ。肝臓に微かに残っていた傷跡は種が侵入した場所。そこから変異アルラウネはオークの脳まで侵入し、異常行動を引き起こした……」

「ね、ねぇヴァルナ。ということはさ……もし万が一あたしたちがこのアルラウネの種を飲み込んじゃったりしたら……」

「多分脳を乗っ取られる前に種が動脈とか静脈を傷つけて激痛と内出血で死ぬんじゃないかな? そして死後頭蓋からアルラウネが生えていると」

「うっわ怖ぁッ!! ちょっと想像させないでよそーいうの!!」

「そっちが言い出したんだけどねー……」


 変異アルラウネの予想外の恐ろしさにルルは恐れ慄き、ルートヴィッヒは「そんなヤバイ特性があったとは……!」と頭を抱えている。ギルドの討伐優先順位が吊り上がりそうだ。


「でも、多分だけど……こんなデカい種を丸呑みするのは子供の誤飲くらいだ。魔物の中でも種の丸呑みをするのはオークだけだったのかもしれない。なぁルートヴィッヒ、今日回収してた変異アルラウネの種見せてくれよ」


 突然の頼みに首を傾げながらもルートヴィヒが差し出した種を精査すると、種の大きさに二種類あることが判明する。大多数を占める人差し指サイズの種と、僅か十粒程度の親指サイズの種だ。


「この親指サイズが多分蔓の方に入っている種だ。こっちの種には魔物の乗っ取り能力がある。そして恐らく他の種にそれはない。もしあるならこの森はもっと異常行動を繰り返す魔物だらけになる」

「普通に種にも大きさに差があるんだと思ってた……」

「俺もさっきまでそう思ってたよ。オークは雑食で食べ物に対してもチャレンジャーだから、偶然変異アルラウネの蔓が食えることに気付いたんだろう。その際に偶然種ごと飲み込んでしまったオークが脳を乗っ取られたと見える」

「でも、なんか変じゃない?」


 ルルは人差し指を顎に当てて首を傾げる。


「そんなことしてアルラウネになんの得があるの? あんま詳しくはないけどさ、寄生虫って宿主から栄養を貰う為に宿主を生かしておくものでしょ? だって宿主が簡単に死んだら寄生虫も困る訳だし」

「ああ。その他、わざと鳥に宿主を食べさせることを繁殖のサイクルに取り込んでるのもいるが、このサイズの種をわざわざ食べる奴がいるかは疑問だし、動物でそれをやるのも聞いたことがない。だからこそ、可能性は絞られると思う」


 そう、ここまでの変異アルラウネは異常に満ちている。


 二種類の種のうち片方にだけある能力。

 そもそも繁殖を度外視してるとしか思えない種の驚異的な動き。

 そして乗っ取られたオークの脈絡がない動き。 


「このアルラウネは突然変異ではなく、人為的な品種改良が行われたものである可能性がある」

「馬鹿なッ!!」


 ルートヴィッヒは信じられないものを見る目で俺を睨む。


「何を言っているのか分かっているのかヴァルナ殿!! 魔物の品種改良は国際魔物取扱条約で禁じられている!! 魔物が世界に発生した頃に執り行われた、世界最古にして現在も全国家が条約締結を義務づけられている、破棄不能の鉄の掟だぞ!!」


 何を今更、と、内心で思う。

 王国ではとっくにそれを「起きたもの」として扱っているというのに。


「だから、いるんだよ。鉄の掟を破った奴が」


 そして、その人物は恐らくアルラウネの種子を介してオークに指令を与えている。仮定ではあるが、フェロモンに行動を極端に左右されるオークであればむしろ他の生物より操りやすいくらいだ。


 あのオークたちが人の計画性ではなく魔物に従えられて一斉に移動しはじめたと考えるのは難しすぎる。仮にそんな魔物がいたとすれば、それは特殊上級魔物――この世界に単一種単独でしか確認されていない、人知を超えた怪物ということになる。


 ルートヴィッヒはまだ俺の推論が信じられないのか、しきりに首を横に振って狼狽する。


「意味が……意味が分からない。数百のオークを引き連れたらそれは確かに驚異だろう。だが、時間をかければ壊滅は可能だ。冒険者に仕留めきれなかったとしても、それこそ雑魚の群れなど騎士団が出撃してなんとかする! 犯人の目的はなんだ!? そんなことして誰が何の得をする!?」

「誰が、何の……」


 例えば、テロリズムや歪んだ破壊衝動なら、損得も何もない。

 しかし、恐らく魔物のコントロールの試みは相応に時間をかけている。

 高度な品種改良知識も必要だし、組織的な企みの可能性の方が高いだろう。


 確かに皇都の騎士団は内部のゴタゴタで混乱してはいるだろうから仕掛けるには悪くないタイミングだ。皇国にも敵は多いし、そのうちのどこかが皇国の評判を下げる為に行った可能性はある。魔物を人為的に操った奇襲など、他のどの国でも即座には対応できないだろう。


 このタイミングで得をする組織――王国?

 いや、皇国内での実験に王国がここまで関われるとは思えない。

 帝国という考えもなくはないが、地理的な遠さが気になる。

 もっと手っ取り早く得をする組織はないか。


(――いや、まさか……でもタイミング的にはあり得るのか?)


 確かに今、冒険者も防げなかった進撃を止めてみせれば起死回生だ。

 しかし、もしも予想通りだとすれば、それは決して許されることではない。

 俺は最悪の想像を浮かべながら、それを防ぐ為に何が出来るのか必死に思案を巡らせた。




 ◇ ◆




 男は、月夜が照らす平原を馬で駆けていた。

 名馬の雄々しき肢体が躍動し、大地を蹴って軽快な蹄の音を鳴らす。


 その後方百メートル程度の場所をもうもうと土煙を上げて追跡する数百の緑色の巨体、オークの勢いが衰えぬ様に、男はほくそ笑む。

 男は、ある策を授けられていた。


『君はきっかけを作ってくれれば良い。所定の位置までオーク共をおびき寄せたら、後は何事もなかったかのように伝令のフリをして事態を知らせてくれれば良いのだ』

『左様。方法を知る必要は無い。手段はそうさな、現場にでも捨てていけばいい。その道具だけで犯人を特定することは出来まいし、事後処理に際して別の手の者に回収させよう』


 男は、老人達の唐突な策に困惑した。

 得体の知れない仕事、得体の知れない手段だ。

 しかし、男の立場は芳しくなかった。

 故に、彼は甘言に負けた。


『結果を作れば、状況など如何様にも覆せる。むしろこれ正しき形への回帰なのだよ』

『君たちの立場も保証しよう。いや、成功すれば、するまでもなく約束されるだろう』

『そうだとも。君のせいで窮地に立たされたの御仁も、手を汚さず元の鞘に収まる』


 彼には積み上げてきた実績と、尊敬する人物に尽くす覚悟があった。

 誇りを守るという大義名分は、幾百の正論を越える甘美な果実だ。

 だから彼は言われたとおりに行動し、言われた通りのことを引き起こした。

 たとえ、それが権力に固執し努力を諦めた末に辿り着いた、腐敗の境地であったとしても。


「見ていてください、アレイン隊長ッ!! 貴方の率いる騎馬隊こそが皇国の最も輝く切っ先であることを証明してみせますからぁぁぁぁッ!!」


 月夜が男の顔を照らす。

 そこにいたのは、ファミリヤの伝令を伝達することを怠った騎馬隊の騎士だった。


 彼に命令を出したのは、更迭予定である騎士団の旧支配者たち。

 彼の脳裏には、『突然の魔物襲撃に慌てふためく騎士団を鶴の一声で纏め、撃退に成功した英雄的な旧体制の騎士たち』という輝かしい夢の世界が広がっていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 人間でも寄生虫が出す物質のせいで怒りっぽくなる場合もあるしカマキリの尻を水に付けたら虫が出ることもあるから現実で寄生虫や菌それに食生活などで性格に影響があるならファンタジーな世界ならもっとな…
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