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最強剣士、最底辺騎士団で奮戦中 ~オークを地の果てまで追い詰めて絶対に始末するだけの簡単?なお仕事です~  作者: 空戦型
第十九章 見果てぬ大地へ

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395.身も蓋もありません

 世の中には昼行性の生き物と夜行性の生き物がいる。

 昼行性とはすなわち人間のように昼に活動する生き物だが、夜行性は日の沈んだ夜の闇に紛れて活動する。つまり日の沈んだ今の時間、昼行性動物である人間は夜行性の生物に不覚を取る確率が高まる。


 ただし、人間が必ずしも夜には活動しないとは限らないし、夜行性の生物もまた然り。何事にも例外は存在する。

 そして幸か不幸か、今回探すアルラウネは昼だろうが夜だろうが植物なので移動しない。あとはこの暗闇で植物の場所を把握出来れば問題なく探すことが出来る。


 しかし、だからといってこの深夜に動き回るなど騎士団のブラック勤務でもそうそうないことだ。


「普通やんねーんだよなこの時間帯にこういうの。氣の察知は個々の慣熟度に依存するし、一人の作業なんて効率悪いから翌日に回すのが組織的運用ってもんで……」

「なんか文句あるわけ?」


 ルルの問いに「あるけど」と素直に返すと、彼女は挑発的な笑みを浮かべる。


「ふーん、最強の騎士ってこの程度で音を上げるんだー? 意気地無しだなー騎士ってさ! そもそもシアリーズ様に頭下げて戦い方教えてくださいって頼んでる訳でしょ? 冒険者に頭下げる騎士団とか……ぷぷっ」


 こちらが騎士だから煽ってくるのか、元々こういう性格だから煽ってくるのか、或いはその両方か。はたまたシアリーズが絡んでいるからなのかもしれないが、夜の調査の言い出しっぺなのだからもう少し集中して欲しいものだ。

 と、氣が気配を捉える。


「二時の方角に魔物。いや、たったいま逃げたな」


 深夜は魔物の領域――とはいっても、氣を使って周囲を探っている影響でこちらの気配が強まっているせいか魔物は意外と接近してこない。

 剣に手をかけたルルは不満を露にする。


「さっきから逃げた逃げたって、魔物の尻尾すら見えないんだけど」

「そりゃそうだろ。夜の森じゃ月夜もあんまり当てにならん」

「そーじゃなくて、適当に言ってるだけなんじゃない?」

「君に近寄りたくなくて避けてるのかもな」


 ささやかなジョークだが、実際には彼女が身につけている香水やさっきから警戒しきりで無言モードが続いているルートヴィッヒが持つ魔物除けの効果もあるだろう。


 以前ノノカさんが言っていたのだが、人類にとって魔物が天敵であるなら、天敵を殺す為に技術を磨いてきた人類もまた魔物にとっての天敵かも知れない、だそうだ。事実、単一の種として最も世界の魔物を殺しているのは人間だろう。

 だから、魔物も安易に近づこうとはしないのかもしれない。


 ただ、安易に近づかないだけで狙ってはいる可能性はあるので注意深く行動する。最初は軽快に挑発を飛ばしてきたルルも段々と大人しくなってきた。


「……この感じ、アルラウネか?」

「早速アタリじゃん!」

「いや通常種かも……ルートヴィッヒ、確か変異種と通常種の違いは……?」

「ツルの色の違いだ。原種は茶色いが変異種は深緑色をしている」

「じゃあハズレだな。どう見てもツルが茶色い」


 ランプで照らしたアルラウネは光に照らされて身じろぎするようにうねるが、射程外なので何もしては来なかった。ただ、垂れ下がるツルの一部に絞め殺された小動物が無惨な姿でぶら下がっているあたり、やはりこの生物も立派な魔物なのだと思い知らされる。


 その後も数度の偶発的な魔物との遭遇、アルラウネの発見があったが、変異種は見つからない。当然と言えば当然だが、夜の調査は昼に比べて圧倒的に速度が遅いので当然に予測された展開だ。


 ルルは苛立ちを見せたが、そのたびに深呼吸して自分の感情をコントロールしている。ルートヴィッヒは小声で俺に耳打ちした。


(彼女も相応に場数を踏んでる。最初の挑発も冒険者の間じゃ挨拶みたいなものさ。だからって訳じゃいが、多少の無礼は許してやってくれ)

(まぁ俺も大概無礼だとは言われてきた方ですし、構いませんよ)


 ギルド冒険者は良くも悪くも個人主義だ。

 出世するにも活躍するにも個人の能力と判断に依存する。

 あれくらいの生意気さがないと仕事として続けられない、というのはあるかもしれない。もっともあの兄を持つ妹なので生来の部分もあるだろうが。


 気配を探るとまた反応。

 しかも、俺としては感じ慣れたものだった。

 この大きな人型のシルエットと憎たらしい気配は、間違いない。


「オーク討伐に移行する」

「待て待て待て待ちたまえ。君が索敵の要なんだから突撃しようとするんじゃないよ」

『ブギ!?』


 慌てて止めに入ったルートヴィッヒの声で気付かれたか、オークは警戒して去って行く。俺は一瞬へまをやらかした同僚に向ける目でルートヴィッヒを見たが、後れて自分の方がおかしいことに気付く。


「すまん、職業病の発作が出てしまったようだ」

「入院したまえ。いい病院知ってるよ?」


 心配には及ばない、と言おうとしたところで、ふとルルが沈黙していることに気付く。ルルは何やら思案を巡らせ、やがて意を決したように提案を持ちかけてくる。


「あのさ。いっそオーク追いかける?」


 唐突な提案に俺もルートヴィッヒも目を丸くする。

 あんな汚穢生物の尻など仕事でもない限り追いかけたくないもののような気がするが、追ってどうするというのだろうか。


「……ヴァルナ。あんたさっき気配を感じたオークはまともだと思う? それとも異常だったと思う?」

「反応からしてまともなんじゃないか? ……そうか、まともなオークが何らかの理由で異常行動を取るなら、逆にまともなオークを観察した方が因果関係が掴めるってことか?」

「そゆこと。悔しいけど騎士のくせに馬鹿じゃないわね」


 本当に悔しそうだが、騎士に対する熱い風評被害はやめてほしい。

 あと俺は一応騎士の中では成績良い方だから。

 同僚には「学力は別として時々著しく馬鹿」って言われるけど。


 しかし、彼女の提案は理に適っている。

 どうせダメで元々だ。上手くいけばオークと変異アルラウネに関係があるか、どういう経緯を経てオークがおかしくなるのかの二つの謎を同時に突き止められるかも知れない。


「そうと決まれば追いかけよう。灯りは気付かれるから消すんだ。気配は離れたがまだ遠くには行っていない筈。全員俺の後ろに付いてきてくれ、多分あっちの方角に移動してると思うから」

「多分って……当てずっぽうでオークに会えるのかい?」

「根拠はカン。だけど、冒険者にもないか? カンだけどこっちが正解だって確信する瞬間がさ」


 冒険者二人は顔を見合わせ、進む俺の後ろを何も言わずに付いてきた。

 カンというのは突き詰めると経験則であって、言葉では説明できない情報を脳が拾い集めて行う簡易未来予測だ。昔は本に出てくる登場人物のカンの良さを格好良いなと思ってた俺は、成長してから非論理的だなと思いなおし、そして今は自分がカンを働かせる立場なのだから、人生とはおかしなものだ。


 しかして、オークはその後すぐに見つけることが出来た。

 代わりに追跡はなかなか骨の折れるものになった。

 風上に立てば存在を悟られるし、近づきすぎても見つかる。かといって離れすぎると見失うリスクも高まるので絶妙な距離感が必要だった。幸いにして魔物の生息する森はオークを惑わすものも多いのか、王国での追跡よりは気取られづらそうだった。


 ふと、追跡の邪魔にならない程度の声量でルルが話しかけてくる。


「ね、ね。真面目な話、シアリーズ様はなんで王国にいたの?」

「冒険者として一通りやることやったから平和に暮らすつもりだったらしいよ」

「……勇者とデキてるって噂は?」

「あー……」


 そこまでプライベートなことを漏らしても良いものか、と一瞬考えたが、シアリーズに彼への未練が残っているとも思えない。他の人には秘密だと念押しをしておく。


「告白まではしたらしいけど、肝心の勇者がいつまで待ってもシアリーズの所に返事をしに来ず、待つのに飽きた彼女は愛想を尽かしたみたいだ」

「っし!」


 小さくガッツポーズをするルル。

 勇者とくっついて欲しくなかったらしい。


「シアリーズ様は孤高の天才剣士! 勇者とくっつくなんて解釈違いすぎんのよ!」

(そういう問題か?)


 孤高の天才剣士が一人の騎士を新たな恋のターゲットとしてロックオンしてる話まではしたくないので敢えてそれ以上は何も言わないが、どうもかなりの陶酔っぷりのようだ。

 ロザリンドとはまた違う種類のファンだな、などと思っていると、前方を移動していたオークが別のオークと合流する。ルートヴィッヒが顔を顰めた。


「おい、増えたぞ。どれを追うんだ」

「いや、ここから連中は集団行動するから問題ない。オークの習性なんだ」

「雑魚専のマニアック知識披露されてもアテにないんないのよねー。たまにいるけどさぁ、ぼくその辺の素人とは拘りが違いますみたいなアピする奴」

「そーゆーのならうちの国に凄いのがいるよ。オーク好きの天才女教授がさ」

「え、オーク研究してるの女なの!? そんなマイナー雑魚研究してるくらいだからてっきり頭脂ぎったハゲかけの五〇代独身デブおじさんイメージしてた……」

「イメージ力の偏重が著しすぎる……」


 連中はサイズからして働きオークだろう。働きオークは集団で群れから離れ、自分の食事とカースト上位への貢ぎ物を求めて更に分散して活動する。そして一定時間活動すると最初の解散地点に戻ってきて全員で群れへと戻るのである。


 例外として、貢ぎ物が全く足りない場合と、一匹では食料等を回収しきれない場合は群れに戻らず暫くチームで活動する。群れの規模の少なさから見て、あの群れはその例外寄りに思える。


(しかし大陸オークは王国オークより小柄だが装備はいいな……)


 ノノカさんの大陸時代の研究には目を通していたが、そのデータの通りだ。

 何処で拾ったのか鎧を分解して作った肩パットをベルトで固定したり、人間のものであろう斧を手にしている個体もある。戦いの中で装備を捨てざるを得なかったり命を落とした冒険者などの装備を頂戴しているのだろう。

 防御力の向上は毛が生えた程度の違いだが、装備を持つオークというのは厄介だ。とはいえ正直オークほどの筋力があると剣や斧の威力より棍棒の質量とリーチの方が脅威だとは思うが。


 それに、小柄な分だけ木登りや敏捷性は大陸オークの方が上だろう。

 王国オークに比べて腹部も引っ込み気味だ。

 ただ、体の細さは力の不足にも繋がる。


『グオオオオオッ!!』

『ギャビィィッ!?』


 突如、猛き咆哮と共に暗がりから凄まじい速度で猛獣の影が走り、最後尾のオークの喉元を捉えた。悲鳴を上げたオークの首筋にミシミシと軋む音を立ててかみつくそれは、サーベルパンサーと呼ばれる魔物だ。


 サーベルパンサーに噛みつかれたオークは明らかな致命傷を負い、残ったオーク達は慌てて逃げていく。サーベルパンサーはそれには目もくれずにオークを囓り始めた。この魔物はオークの毒は平気らしい。


 大型のネコ科動物が魔物に変異したと考えられているサーベルパンサーは、一般的に「噛みつかれれば助からない」と呼ばれる程の咬合力と、噛んだ瞬間に一気にせり出すサーベルのような歯による二重のダメージで獲物を殺傷する。

 しかも爪もまたサーベル並の刃渡りと鋭さを誇り、瞬間速度の速さや待ち伏せをすることから大陸での討伐難易度は五に設定されている。


 魔物の世界も弱肉強食。

 決して魔物の中で強者ではないオークの、ありふれた末路なのだろう。

 サーベルパンサーは昼は見かけなかったのでどういう魔物か興味はあるが、今はかまけている暇が無い。ただ、幸いにしてサーベルパンサーも食事の邪魔が入るのは都合が悪かったのか、血にまみれた口で囓りかけのオークを咥えて遠ざかっていった。


「急ごう、オーク達を見失う」

「うん。あーびっくりした……サーベルパンサーなんてこの辺じゃ滅多に出ないし、弱点をマナに預けてたから襲ってきたらどうしようかと……」


 本当に緊張したのか、ルルは手汗を服で拭いていた。まだ三星アリオト冒険者である彼女には荷が勝つ相手だという自覚があったらしい。とはいえここには六星冒険者とそれより強い男がいるので戦闘になっても問題はなかったのだが。

 ところで、俺は気になることを聞いた。


「サーベルパンサーの弱点ってなんだ?」

「マタタビ。安いマタタビは効果いまいちだけど、純度の高いマタタビさえあれば唯のでかいネコよ?」

「あーね……」

「あー、仲間に頼りすぎてたー……次からは自分でも最低一個は持つか、管理徹底しよっと」


 ネコにマタタビ、ワイバーンにモリョーテ……あれだけ勇ましい生物の極めて身も蓋もない弱点に、俺は気の抜けた納得の声を出すほかなかった。


 そして追跡から更に数分、遂にその時はやってきた。

 捕食者の危険に晒されながら危険な夜の森を彷徨ったオーク達が行き着いた先は、深緑色のツルを持つ変異アルラウネの元。


「どうやら……アタリみたいだな」

「ヴァルナ、前言撤回。アンタ腕の良い専門家よ」

「さて、夜更かしに見合うものが見れるといいがねぇ……」


 アルラウネの周囲は地面から栄養が吸い取られて木々が少ないため、月の光で若干見えやすい。俺たちはオークの異常行動の真相を突き止めるため、気配を消してギリギリまで接近を試みた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 『あと俺は一応棋士の中では成績良い方だから。』 棋士のネタがあったから、誤字なのかどうか分からないですけど一応。 [一言] ヴァカめ、ヴァルナ君が病院行った程度で治るわけないだろ!彼…
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