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最強剣士、最底辺騎士団で奮戦中 ~オークを地の果てまで追い詰めて絶対に始末するだけの簡単?なお仕事です~  作者: 空戦型
第十九章 見果てぬ大地へ

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382.勘違いしてました

 重装歩兵隊を突破した俺は正面の状況を見る。

 陣形は殆どそのまま、兵の足も動いている。

 しかし、こちらを見る騎士たちの顔には動揺が見て取れた。


(突破されることは予想してたが、って顔か?)


 彼らの驚きは陣形の突破が早すぎることに起因するものだろう。

 実のところ、人対人の集団戦闘は外対騎士団でもたまにはするのだが、それこそ年に二度あれば良い方なので俺はこの手の経験が薄い。なので状況判断はその都度行っていかなければならない。


 状況は問題なし。

 案の定、未だに()()()()()()


 重装歩兵を突破した先にいたのは弓兵たちの構えるバリケードと、その前に揃った歩兵たち。ただ、少しもたついている。まだ余裕があると思ってのんびりしていたのかもしれない。しかも射程範囲に入っていないのかまだ撃ってこない。

 万一味方を巻き添えにしたらまずいからというのもあるだろう。


 このまま突っ込んで、放たれる矢――訓練用に刃を潰してはいるが、当たり所が悪ければ重傷だ――を突っ切るのは少々脳筋すぎる。どうするかと少し考えるが、ふと、足下に丁度いいものが転がっている事に気付いた俺は、それを拾い上げた。


 それは、隊長の護衛らしき重装歩兵が持っていた大盾だ。さっき蹴り飛ばした時に意識を失って手放したものがここまで転がってきたらしい。つま先で蹴り上げ、手で持ち上げる。


「よいしょっと……セドナに習ったとはいえ使い慣れないなぁ」


 重装歩兵隊ほどの規模で平地ならまだしも、通常オークの攻撃力を前にすれば、どんな盾も大抵は役立たずだ。最悪、盾が無事でも支えている人間が盾に押し潰される。

 弓兵を前に盾を持った騎士がすることなどただ一つ。

 ――と、思ったら大間違いだ。


 全身の体重を利用して体を回し、盾にたっぷり遠心力を乗せた俺は、それを陣形の左端サイドに向けて全力で解き放った。ついでに投げる瞬間に盾自体にも回転を乗せ、数十キロある大盾は殺人的な回転を乗せて地面を抉るように不規則に跳ねながら一直線に陣形へ転がっていった。


「避けないと死ぬぞぉぉぉーーーー!!」


 一応警告の為に叫びながら、俺は盾を追うように駆けだした。

 端の陣形を狙った理由は二つ。

 正面に突っ込んだ際が最も弓の攻撃が集中するのでそれを避けるのと、重装歩兵隊を真正面から突っ切ったなら次の陣も真正面に来るのでは、と安直に考えていた騎士への些細ないたずらである。案の定、凄まじい速度で転がってくる巨大な盾に彼らは泡を食っていた


「う、うわぁぁぁぁーーーーッ!?」

「盾は用量用法を守って正しく使ってくださいッ!!」

「どけ、どけッ!! おい邪魔だよ!!」


 先ほどまで綺麗だった陣形にはみるみる間に穴が空き、そのスペースを回転してバウンドしながら盾が通り過ぎる。俺が間合いに入ったことで弓兵の攻撃が始まっているが、盾と俺の二つの移動物に惑わされたか狙いが妙にばらけている。盾がこれから激突するであろうバリケードの奥に関しては我先にと逃走が始まっていた。


 まぁ、ここは逃げるのが正解だろう。

 逃げた後のリカバリをどうするかが問われる場面だ。


 それはそれとして、慌てて逃げすぎて仲間を押したり転倒させるなど、ここに来て騎士団の連携の脆さが露呈している。指揮官が真っ先に回避を指示して冷静に陣を変形させるなり頭を守って伏せさせるなりすれば凌ぐことはそう難しくはないのに、前線指揮官より先に恐怖に駆られた騎士達が慌てて動き出したのが邪魔して余計混乱している。


 騎士団が規律を重んじるのには様々な理由があるが、重要なものの一つとして「上の命令に即座に従い、勝手な行動を取らない集団であるため」という統率の面が挙げられる。統率の取れていない部隊では部下が上司を軽んじて勝手な判断で動くため、いざというとき重要な命令を遂行できない。

 だから騎士は規律にも厳しくあらねばならない。


「……規律を守らない組織はこういうとき脆いってのは、やっぱり本当だな」


 うちの騎士団だって、いい加減なように見えてあれで命令にはちゃんと従ってるし、任務に支障が出ない場面でしかふざけてない。ひげジジイの指示だって文句は全力で言いながらも結果的には毎度「必要な仕事」として遂行している。

 その空気感は他の騎士団としては理解しがたいらしいが、ちゃんと越えてはならないラインが存在するのだ。


 やがて俺より先に突撃した大盾がバリケードを粉々に砕いた。

 近くで堪えていた弓兵たちが悲鳴を上げて腰を抜かす。

 どうやら完全安全圏から弓を放つ訓練ばかりに熱中して、柔軟に移動することが出来ていないらしい。


 ただ、出世欲に駆られた幾人かの騎士は足手纏いの味方を押しのけて俺の前に立ちはだかる。理由はどうあれそのガッツには敬意を表そうかと思ったが、その気持ちは即座に霧散した。


「やぁやぁ、騎士ヴァルナよ!! 我こそは皇国の益荒男なる――」

「邪魔だどけ!! 俺は皇国騎士団の影の実力者!! その名を聞くが――」

「お前の名乗りなぞどうでもよいわ!! 我が名は騎士ヨーヤル!!」

「馬鹿が、勝手に揉み合ってろ!!」


 出世欲の余り我こそはと先に名乗ろうとして味方同士で揉み合い、その隙を縫って一人でぱらぱら突っ込んでくる無謀な騎士数名。そこには信頼も連携も冷静さも欠片も感じられない。


 ある意味、もみ合いに参加せず突っ込んできた騎士はいい判断かもしれないが、彼らは彼らで漁夫の利を狙おうと考えて味方の動きをチラチラ伺っている。たまに正面に考えなしに突っ込んでくる騎士を鞘に収めた剣で殴り飛ばすが、その隙にと飛び込んだ騎士が同じく殴り飛ばされたのを見て一気に動きが鈍化。かといって連携の打ち合わせなどしていないので、せっかくもみ合いから抜け出したのに全然数の優位が役に立っていない。


 思わずため息を漏らしながら、俺は睨みを利かせる。


「戦うのか? 戦わないのか? 仕掛けてこないならこのまま通るぞ」


 その一言でやっと意を決した騎士達が一斉に仕掛けてくる。

 しかし、根本的に作戦と連携がないので動きはバラバラで、味方が邪魔で位置取り出来ていない騎士もちらほらだ。


「か……かかれぇーーー!!」

「お前指揮官じゃないだろ!」

「小隊長なら逃げ出した兵士共のどこかに埋まってるよ!!」

「リーダーぶってんじゃねえ! 邪魔……パげッ!?」


 近くの騎士の顔面を小突いて倒し、残る連中もたたきのめし、最後にへっぴり腰で突っ込んできた騎士は兜の縁を叩いてやる。すると兜が横に回転し、前が見えなくなった騎士は両手をばたつかせて慌てふためく。


「うわーー!? なんだ、何が起きた!? 騎士ヴァルナは魔法使いなのかーーー!?」

「兜くらいちゃんと固定しとけよ……」


 戦うのも馬鹿らしくなり、彼を適当に蹴って転がした俺は破壊されたバリケードを乗り越えて直進した。弓兵の後ろには彼らのサポートも兼ねていた軽装兵がおっかなびっくりこちらを見ていた。


 装備の軽さもあってか、さっきの歩兵よりは動きが良さそうだ。

 このまま直進を続けると演習が五分で終わりそうだし、まだ彼らは()()()()()()()。多少意地悪な引っかけかもしれないとは思ったが、そろそろ気付く人間が出てきてもいい。僅かな期待を込め、俺は軽装兵の集団を敢えてまともに相手にすることにした。


「誇りを見せてみろ、皇国騎士団ッ!!」

「う……うおぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」


 皇国騎士団が吶喊してくる中、俺はそういえばと思い出す。


 勇ましい吶喊は騎士物語ではよくあるので子供の頃のアホの俺は憧れてたのだが、いざ騎士団に入ってみると外対は不意打ちが基本なので自分から大声上げて攻めるのはオークを誘導する時だけだった。


 なので俺の中ではいつの間にか吶喊とは「オークに聞こえない程度にやる気なさげに『とっかんしまーす』と呟く」という非常にしょぼくれた行為に格下げされていた。せめて気分だけでも勇ましくありたかったのだが、あれ無駄だったな。


 そんな考え事をしながら、俺は迫り来る騎士達を容赦なくボコボコにした。

 叫べて羨ましいとか、そんな私怨はないよ。

 王国筆頭騎士、たまにしか嘘つかないから。




 ◇ ◆




 騎士バーナードは、自分の眼前で繰り広げられる光景に感動を覚えた。


 世界最強の騎士ヴァルナは、まるであしでも薙ぎ倒すかのように騎士を薙ぎ倒していく。ある者は剣で突き、ある者は弾き、ある者は剣を振るより前に蹴り飛ばされる。ほんの一瞬まぐれの隙でも突ければ、などという己の考えが如何に浅はかであったかをまざまざと見せつけてくる。


 騎士ヴァルナに隙などない。

 少なくともこの騎士団で虐められて過ごすばかりで、普段も武器運びなどの雑用が主であったバーナードの実力では一秒時間を稼ぐことしかできない。

 まさに物語の中から抜け出してきたような、傑出した騎士だ。


 きっとこの人は虐めを行う下劣な存在など一蹴する力と権力があり、食堂で肩身狭く食事することも、深夜に無理矢理酒を飲まされたり暴行されることもなく、自分には見えない遙かな高みから世界を俯瞰しているのだろう。


 いいな。

 羨ましいな。

 自分もあんな風になりたい。


 この戦いで騎士ヴァルナに認められるような粘りを見せれば、そこに一歩近づけるだろうか。バーナードは胸の高鳴りを押さえられず、味方がどんどん薙ぎ倒されて騎士ヴァルナが近づいてくるのを待った。


 そして、遂に邂逅の時は来た。

 負傷した痛みや先日眠れなかった疲労を忘れる瞬間だった。


「か、覚悟ッ!!」


 バーナードは剣を振りかざし、幾度となく練習した刺突を放った。

 騎士ヴァルナは目もくれずに避け、すれ違い様にバーナードに足を引っかけて転倒させ、そのまま直進した。


「あっ、え……ま、待って……」


 振り返って手を伸ばしたとき、騎士ヴァルナと目が合った。

 彼はしっかりとバーナードの目を見ていた。

 何かを伝えたいのかもしれないと思うほどにまっすぐな目だった。

 合ったのはほんの一瞬で、ヴァルナはそのまま容赦なく皇国騎士団を切り崩して直進する作業に戻った。そう、彼にとってそれはもはや作業のように容易い行為だった。


 立ち上がろうとするバーナードを、騎士ヴァルナに我先にと向かう他の騎士が蹴り倒した。


「邪魔だ、戦えねぇなら突っ立ってんじゃねぇ」

「うぶっ!! ま、待って……まだ、何も見せられてない! まだ戦える!!」


 もたつきながら立ち上がった頃には自分を突き飛ばした騎士もヴァルナに容赦なく叩き伏せられ、もう軽装兵部隊は壊滅状態だった。後方からはやっと立て直った生き残りの歩兵部隊と重装歩兵が迫り、自分はこのままだと邪魔になる。


 何も示すことが出来なかったバーナードは、せめてその邪魔にならないように訓練場の脇に行くしかなかった。

 と――重装歩兵と騎士団の指揮を行う参謀が同じく訓練場の端で何やら話しているのを見つける。どうせやることもない。自分は何もあの騎士に示すことは出来なかった。そんな失意から、彼は普段近寄りもしない参謀の元へ行く。


 参謀のディアマントは重装歩兵と険しい顔で会話をしていた。


「本当にゲデナンはそう言ったのか?」

「はい、最後の力を振り絞るように、確かに『逃がせ』と」

「逃がせ……誰をだ? 兵か? いやまさか……まさか!!」


 ディアマント参謀は何かに気付いたのか、目を見開いてわなわなと震える。


「なんということだ!! 謀られた……いや、思考が停止しておった!! 伝令、伝令はおらぬか!!」


 血走った目で周囲を見たディアマント参謀はそこでたまたま近くに突っ立っていたバーナードを見つけ、つかつかと駆け寄ってその両肩を掴む。


「おぬし、今すぐ騎兵部隊のアレイン隊長に伝令を頼む!! 我らは騎士ヴァルナの真意を読み違えていたッ!!」


 ディアマント参謀からその真意を聞かされたバーナードは、言われるがままに伝令役として駆けだした。本当に参謀の予想は合っているのか、という疑問を捨てきれないままに。

ヴァルナの浅知恵が皇国騎士団を襲う。


※騎馬部隊長の名前間違えてたのでこっそり修正。誰だよトルパノって。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっとした豆知識。 中世の一部の騎士は、自分の盾の縁をあえて鋭くさせていたんだとか。これは相手が盾を掴んでこじ開けようとするのを防ぐ他に、自分の剣が使えなくなった場合に相手を組伏せて盾の縁…
[良い点] 盾の適正な用法用量とはw 気付いたか〜、ここから本番かな……
[一言] お、気が付いたかな まあ実際に姫と騎士団がいるところに不逞の輩が突っ込んで来た時、まずやるべきことと言ったらね
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