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最強剣士、最底辺騎士団で奮戦中 ~オークを地の果てまで追い詰めて絶対に始末するだけの簡単?なお仕事です~  作者: 空戦型
第十三章 水上と水面と水底のワルツ

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177.問題児が追加です

 他人の事情に首を突っ込む事に関しては騎士団一なのではないかと思うほど仕事毎に誰かしらの人生を垣間見る俺としては、やっぱり真実は本人か当事者から聞くのが一番だと思っている。ただし、探られたくない腹を探ってしまったこともあるので余りにも直接的に聞きに行くのは善し悪しだ。


 まして今回の相手は女性。一度一緒の船に乗っただけで話らしいものもなく、しかも前の会議ではちょっと叱ってしまったのでイメージが悪そうだ。彼女がどんな人間なのか、人となりさえ余り知らないので予め誰かから話を聞いておきたかった。


「で、俺なの?」

「はい」


 生け簀に餌をぶちまけている途中のオルレアさんは、若干憔悴した顔つきだった。


「ヤヤテツェプが夢に出てな……めちゃくちゃ夢見が悪かったんだ。ちなみに何故か夢の中のアンタは水面を走って逃げてたよ」

「水面を走る!? ……なるほど、そういう手が!」

「ねーよ。真面目に検討しようとしないでくれ」 


 いや、絶対に無理ではないと思う。

 俺に氣を教えたエロ本おじさん曰く、理論上だが氣は極めれば水面に浮く木の葉に爪先だけで立つことさえ可能らしい。実は俺の逆立ち指立て伏せも氣の応用で、見た目と違って指より支える全身の方にこそ多くの力を回している。


 氣を全開にしながらの全力疾走は極めて難しいが、多少なりとも水に面する足の補助になれば後は自前の筋肉でいけるかもしれない。

 敢えて問題を挙げるなら、多分マスターするまで修業が必要という事か。

 俺は現場主義、そんな環境を選ぶ修業は基本的にできない。


「王国最強騎士ってスゲー人だと思ってたけど、実際に会ってみるとスゲーの意味合いがだいぶ違う気がしてきた。発想を飛ばす方向性が狂ってるわ。あのバケモン間近で見ておいて『とりあえず捕まえて解剖しよう』とか真顔で言いだすし」

「それに関してはうちの騎士団じゃスタンダードですよ? 副団長のあれは自分に降りかかる火の粉を心配してただけです」

「マジか……マジなんだろうな。もう騎士団の人たち魚釣りの方法と足場づくりで動き出してるし……」


 五メートルの毛むくじゃらオークに襲撃された事だってあるのだ。

 化け物など今更である。

 やらねば問題が解決しないなら、やる。

 正攻法が無理なら工夫してやる。

 それでも無理なら反則技を使ってでもやる。

 とにかく解決するのが俺たちの仕事であり、そこに失敗は許されない。


「というかオルレアさんもガタイの割に結構ネガティブですね。伝説の怪魚なら倒したら英雄でしょ?」

「漁師や釣り人なら憧れるだろうけどなぁ。養殖知っちまったらやっぱりそこはリスクとしか見えないんだよなぁ」


 ため息をつくオルレアさん。

 確かにリスクリターンを考えれば妥当な判断だろう。

 なによりオルレアさんには魚を釣らなければいけない理由も義務もあまりない。プレセペ村はいわゆる原住民の村だが、近代化の波に染まって旧来の漁師は減っているのだ。相手は人喰いの可能性もある。今時化け物退治で名を挙げようといった気骨は発生し辛いだろう。


 居たら居たでクリフィア自警団みたいに面倒になるので、望みはしないし責めもしない。危ないことは騎士に押し付けてくれるべきだ。


「……マモリの奴は、行くって言いだすんだろうなぁ」


 ぽつり、と。オルレアさんは遠い目でそう呟いた。


「何でかよく知らんけど、あいつ前から怪魚の情報を聞いて回ってるらしくてよ。絵のモデルにする気だとかなんとか周りは色々言ってんだ。昨日のあれも、本当は別のネイチャーデイの人が乗る筈だったのを、あいつが強引に押し通して乗っちまった」

「外見からは想像できないアグレッシブさですね」

「だろ? しかもあいつ睨むと怖いから逆らい辛いんだわ」


 確かにマモリさんの睨んでいるときの目つきは凄い迫力がある。

 内ハネの髪とうつむき気味の姿からは内向的な雰囲気を感じさせるのに、一度動き出すと止め辛い。それでいて、明らかに口下手というか、自ら多くは喋らないタイプに見える。そう口にすると、オルレアさんはそんな感じだと首肯した。


「ネイチャーデイ設立時には既にいたけど、あいつのことはよく分からん。ミケ老が面倒見てるけど孫子って訳でもねぇらしいし、コメットにしか懐かねぇ。まぁ、船の知識は豊富だから戦力にはなるけどな」


 ぽつぽつ出てきた情報を総合すると、彼女は村の中でもかなり若い方で、年齢は十代半ば。両親は誰も知らないが、噂では死別してミケ老が保護者らしい。ウッヒョイ系ではないが職人気質の絵描きで、著名なコンテストに何度も入賞しているそうだ。

 

「悪いが力になれんのはここまでだ。残りはコメット……は忙しいか。ミケ老にでも聞きな。俺も餌やり終わったら造船所に行かなきゃならんし」


 礼を告げ、別の人へ聞き込みに行く。

 ただし、ミケ老以外にも知らない人にちょくちょく話を聞きながらだ。

 聞き込みは任務の基本、とセドナは言っていた。あいつの仕事はそういった事柄も多いし、そういう場所では優れた容姿が一役買うこともあるだろう。俺たち騎士団も現地から協力を得る際、そういったことをするケースは多い。そのセドナの話を思い出しながら、聞き込んでいく。


 一人の村人から聞いた話が、別の村人から聞くと正反対の印象で出てくる。或いは、声の小さな人に限ってその場の誰も気にしなかった小さな事実を見つめている。

 聞き取りで出てくるのはあくまで表面的、主観的な情報だ。

 思わぬ人が思わぬところを見ていることもある。


 普段のオーク関連の聞き込みとは方向性が違うので、ちょっと気を揉みながら情報を聞き出す。案外俺はせっかちなのかもしれない、と思った。

 そして一通り午前の聞き込みを終えた俺は、ざっと情報を整理する。


 マモリさんはネイチャーデイが村に認知され活動を始めた頃には、既にいたらしい。当時の年齢は五歳前後。現在は十六歳――マモリさんの誕生日を祝う計画をしていたコメットさんがぽろっと漏らした情報だという。目つきのせいか大人びて見えるけど、確かに背丈も大人と呼ぶにはまだ少し小さい気がする。


 絵描きとしての腕はネイチャーデイ内でも上位に位置し、独特の色彩を使うために絵の具やその原料をよくコメットさんを通して注文している。菜食主義で肉も魚も口にしない、という情報もまたコメットさん経由。個人情報は殆どコメットさん経由でしか出てこない程に交友関係が狭いようだ。


 そしてコメットさんには非常に懐いているというか、甘えているようだ。誰の頼みを断ってもコメットさんの頼みだけは断らないし、コメットさんの言うことはだいたい聞くそうだ。

 コメットさんからすれば、彼女は世話の焼ける妹のようなものなのかもしれない。


 家族関係については噂が多すぎて絞り切れないので放置。

 出自のはっきりしない人間を面白がって脚色するのは人の悪い癖だと思うし、された側である俺としては彼女に若干の同情を覚える。その他個人情報や趣味嗜好もさっぱりだ。何度かそんな彼女に愛の告白をした余所者や村の若い男がいたそうだが、結果は玉砕。これは余談だろう。


 ただ、ヤヤテツェプの事を時々嗅ぎまわっていたことや、その際の彼女の雰囲気がどこか危うかったというのは、やはり気になる情報だ。無視すればいずれジャニーナの二の舞に、なんて笑えない。


「……自分で調べといてなんだけど、ストーキングしてるみたいであんまりいい気分じゃねーな」


 一方的に相手のことを知る行為はフェアではない。

 相手が良識を踏みにじる犯罪者であるならば吝かでもないが、もはや直接ネイチャーデイの人に聞くタイミングだろう。今の所騎士団内で滞っている作業もないし、少しネイチャーデイ本部に足を運ぼう、と俺は立ち上がった。




 ◆ ◇




 ネイチャーデイ本部前が何やら騒がしいことに気付いたのは、それなりに本部に近づいてからだった。最初は少々声の大きな芸術家がウッヒョイしているのかと思ったが、どうにもそういった様子ではなさそうだ。


「いるんでしょ? 取材ぐらいいいでしょ、取材ぐらい。ネイチャーデイの宣伝にもなりますよ?」

「そう言われても、怪しい人を入れる訳にもねぇ」

「だーかーらー、怪しくないって! ほれ、これ名刺!」

「えー、なになに? 月刊ジスタ……王都新聞の人?」

「ちっちっちっ、月刊ジスタはそんな王国に媚びた嘘つき共とは違う! 王国で起きているリアルを追求するために有志によって設立された新進気鋭のメディア集団なのだ!!」

「つまり無名の組織の怪しい人だね」

「ぐむぅ!!」


 ハンチング帽を被った小柄な男はその図星を突かれた言葉に怯むが、俺に目が合ったと見るや否やものすごいスピードで走ってきて無理やり肩を組んだ。


「俺この騎士さんと友達なんすよーー!!」

「おい、何だお前?」


 俺も困惑、ネイチャーデイの人も困惑だ。初対面の人といきなり友達になるほど俺は能天気な性格ではないのだが、男はさりげなく――まぁ、どんなにさりげなかろうが目の前のネイチャーデイの人には丸見えなのだが――反対方向に体を向かせ、耳打ちする。


(おい、口裏合わせろ地味な騎士!仮にも協力者の騎士団が一緒となればあっちも無碍には断れねぇ!)

(嫌ですけど)


 むしろどこにイエスと言えるポイントがあるのだろう。

 俺でなければ一発殴られても文句の言えない無礼加減だ。

 だいたい、これから聞き込みに行こうというのに不審者を招き入れては話が進まないではないか。俺は嫌な顔を隠さず首を横に振るが、小柄な男は引き下がらない。


(こんなところでウロウロしてるってことはお前仕事も貰えない下っ端だろ! うちの月刊ジスタで『新進気鋭の騎士』ってな感じに紹介してやっからよ、特ダネの為に協力しろよ。なっ!!)


 美味い話だろ? と言わんばかりの笑顔だが、どうやら新聞業をやってるくせにこの国の筆頭騎士の面も覚えていないらしい彼が所属する月刊ジスタの未来は暗い気がする。


 しかし、特ダネ――まさかもう怪魚出現の噂を嗅ぎつけたというのだろうか。

 案外、常識はないけど情報を嗅ぎつける嗅覚は本物なのかもしれない。


 別段このまま放置でも職務上問題ないが、実績がないのに行動力だけ有り余る人間は、往々にして放っておくと勝手に暴走し、肝心かなめの時に邪魔になる事が多い。しかもそういうタイプに限ってすべての話を自分の都合のいいように解釈するので人の話を聞かない。

 逡巡の末、俺は放置よりはマシかと男の首根っこを掴んでネイチャーデイの方へ歩いていった。


「すいません、こいつは本人の言う通り新聞関連の取材に来た男なんですが、俺の監視の下でのみ取材を許可されてるんです。勝手に一人で来たときは俺に一報ください」

「へー、こんなのの面倒とは騎士さんも災難だねぇ」

「いやまったく。ま、最低限邪魔しない範囲で面倒見ますから、通っていいですか?」

「どうぞどうぞ!」


 俺は既に何度かここを出入りしているので顔を覚えてくれていたらしいネイチャーデイの職員が、笑顔で入り口を開ける。入口の扉が閉まると同時に首根っこを離すと、男はけほけほと軽くせき込みながらこちらを向いてサムズアップする。


「ナイスアドリブだぜ騎士さん。欲を言えばもうちょっと優しく運んで欲しかったな……」

「御託はいい。で、ここに何探りに来たんだ?」

「ああ……実はな……」


 ちょいちょいと手招きし、耳を貸すようジェスチャーする。大声では話せないということかと思い近寄ると――耳元で思いっきりパァン!! と手を鳴らして男は踵を返した。


「引っ掛かったなバーカ! これで暫く耳がキーンとして動けまブベッ!?」


 小細工しようとしているのを気配で察した俺は手を耳元で鳴らされた瞬間にはこっそり指で耳を塞ぎ、男が踵を返したときには既に逃げられないように襟首をきっちり掴んでいた。いきなり逃げようとしたのは驚いたが、それはそれとして捕まえるのは余裕である。


「公務執行妨害でしょっ引いて欲しくなければ素直に喋るんだな」

「や、やだなぁ。ちょっとしたジョークだよジョーク。な? カッカすんなって……」


 悪びれた様子もなく悪い悪いといいつつ、彼の足が瞬時に俺の足の爪先を力いっぱい踏んづける。


「なーんて素直に行くと思ったかバーッかっはぁ!? 足痛ってぇぇぇぇぇ!?」


 不意の足踏んづけからの逃走、スリなどの手癖の悪い人種がよく使う手だが、相手と場所が悪かった。


「俺のブーツの爪先には戦闘用に鉄板入ってるぞ」

「マジかよ嘘だろ!? い゛っ、~~~~!! お、折れた! これ足折れた! 医者呼んでくれぇ!」

「そいつは大変だ。今すぐ靴を脱いでみろ。仕事柄応急手当は得意だぞ」

「……」

「……」

「あっ! あんなところに騎士団長が!!」


 そう言って窓の外を指差したので、窓の外に視線を向けつつ踵を返す男の首をがっしり掴む。ぐえー!! と絞められたアヒルみたいな声が響いた。予想通りと言うべきか、外には誰も見当たらない。

 霊感先輩なら何か感じ取ったかもしれないが。

 だって湿地では死人それなりに出てるみたいだし。


「一ついいことを教えてやる。騎道車の豚箱は階段下の物置以下の広さと寝心地だ」

「分かった! ちくしょう、分かったよ! アンタの指示に従う! ……従えば協力してくれるんだろうな?」

「無理のない範囲でな。言っておくが、騎士として見逃せないものは一切見逃す気はない。次に暴力行為をしたら俺以外の騎士も追ってくるのはしっかり理解しとけよ」


 どうやら適当に俺をあしらって建物に入り、用済みになったら逃げるつもりだったらしい。計画性があまり感じられない男だ。俺の名前を教えたらどんな反応をするのやらと思いつつも、逃げられないと悟ってがっくり肩を落とす男に問いかける。


「名前と目的、きっちり言ってくれなきゃ協力はし辛いぜ」

「わぁったよ……俺の名はパラベラム。未来の敏腕記者だ。ここへは『怪魚と戦う謎の美人画家の正体に迫る!』って記事を書くための取材に来たんだよ」


 不貞腐れた小柄な男、パラベラムは恨めし気にそう言い放つ。

 ……おい、こいつこっちの顔を見てため息つきやがった。

 ここまで失礼な奴も珍しいな。マジで豚箱体験させたろか。

この小説について「展開が遅い」「説明が多い」という指摘があったので見直そうかと色々考えたのですが、このバランスを崩すとどうしても現在の小説のテイストが大幅に崩れそうなので諦めました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この小説の感じ好きなので、テイスト変えないでくださって嬉しいです。 説明削られると、爆発した時やしみじみするところでの気持ちが薄くなりそうな感じがします。 展開は、貯めて爆発!って感じで続…
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