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第三時限目 入学式

「……新入生の皆さんが、各人の希望に適う形で、生活そして学習のスタイルを見出しこれからの学園生活の中で十全に持てる可能性を発揮できるよう、私たち生徒会もできる限りのサポートを…… ……生活上の問題点、疑問点などが出た場合には、気軽に生徒会メンバーに声をかけたり、生徒会室を訪ねて……」


 曙光学園の入学式は、講堂に設置されている巨大ディスプレイの一つに表示される式次第に従って粛々と進められていた。だけど肝心の僕の意識の方は、完全に希薄化して夢の世界に溶け込んでいた。


 やり手な印象を与える美魔女風の学園長さんの挨拶、恰幅が良く脂ぎった雰囲気の武蔵野ヴィレッジ評議員さんによる来賓代表挨拶、有閑マダム風の奥様のPTA会長挨拶くらいまでは、なんとか頑張って話を聞いていた気がする。


 でも、花見から戻ったときにはもう集合時間ぎりぎりで、慌てて潜り込んだ講堂の椅子がとても座り心地の良いものだったり、壇上の人物にライトが当たってる分、観客席側では照明が落とされていたり、お行儀の良い生徒達ばかりで物音一つしない会場の雰囲気がいけなかったりしたのかもしれない。


 朝から生まれて初めてのことばかりで、容量の少ない僕の精神は疲労困憊の状態からすぐにスリープモードに移行してしまったのだった。


 勿論、一番いけないのは、一人きりのはずのお花見に突然登場して、僕を散々翻弄した挙句、名前も教えてくれずに謎めいた言葉を残して去っていった、綺麗で不思議なお姉さんだったのはどう転んでも間違いない。


「新入生、起立!」


 突然の命令口調の言葉に、あわわて意識を浮上させた僕は、機敏に立ち上がった周りの生徒達から二秒遅れくらいで何とか合わせることが出来たのだった。危なかった……


「礼! 着席!

 これをもちまして、曙光学園第七期生入学式は終了致します。

 新入生は誘導に従い、所属教室へと移動してください」


 人生の節目のはずの入学式で、式の途中からの記憶がさっぱりなくなっているのは困った気もするけど、多分、何の問題もないよね……と自分を慰めながら、移動の順番を待つことに。


 僕の所属クラスは1年3組。曙光学園は進学向けの学力別クラス編成などをしていないから、組の番号自体には特に意味はないはずだった。

 クラス担任と思われる、若い女の先生の先導で講堂の一角を占めていたクラスメートと共に教室へと向う。女の子同士が何人かで話をしているけど、多分、内部進学組なのだろう。教室について前面のディスプレイに表示される自分用の授業端末机に着いて生徒証を差し込めば一段落だ。


「先程、学園長からご紹介を頂きましたけれど、今年一年貴方たちの担任を受け持つことになりました、樫村美咲かしむらみさきです。どうぞ、よろしくお願いします」


 僕が寝ていた間に、やっぱりクラス担任の先生の紹介は行われていたらしい。

 年齢的には大学を出てまだ2,3年じゃないかと想像される、ショートボブの髪型をした闊達な雰囲気の先生だ。若い女の先生であることを喜ぶクラスの男子連中から、熱烈な拍手が送られている。


「じゃあ、クラス名簿の順番に自己紹介をお願いしましょうか。最初は葦田君から」


 樫村先生の言葉で入学時のお約束の自己紹介が始まった。

 こういう時、自分の名前が相模という普通の順番になる苗字で良かったと思う。

 同じ漢字を使っていても相澤なんて苗字だったりしたら、行く学校総てで出席番号1番を貰ってしまうこと請け合いだ。


 このクラス1年3組の生徒の人数は24人。全学年で6クラスあるから一学年の人数は約150人。高校から入学試験で合流する外部生の定員が50人だったことを思うと、内部生は100人。ちょうどクラスの3人に2人が内部生となる計算だ。


「次、相模君」


 考え事をしてる間に樫村先生からの指名が回ってきた。


「はい、相模陸さがみりくです。外部生で東京の北千住から来ています。どうぞよろしくお願いします」


 面白いことを言ったり、大きなことを言って注目を集めるのは、自分のキャラに合わないのは充分承知してるから、目立たず騒がす行きたいという方針で……


 クラスメートの名前と顔と声を知ることが主目的の自己紹介はすんなり終わった。外部生は予想通り僕を含めて8人で男子4人、女子4人の構成だ。恐らく最初に仲良くなれる可能性があるとしたら外部生の男子の3人なので、彼らの顔と名前だけは忘れないことにしようと思う。


「じゃあ、次はクラス委員長と副委員長を決めたいと思います。誰か希望者はいますか?」


 次に来るのはお決まりの学級委員決めだけど、これは一切心配することはないのだった。


「希望者がいないのなら、他薦で自分以外の誰か推薦したいと思う人はいますか?」

「滝口君と水瀬さんが委員長と副委員長にふさわしいと思います」


 先生の声に、一人の内部生の女の子が手を挙げて、二人の男女を推薦した。


「他に推薦がないようだったら、滝口君と水瀬さんが委員長と副委員長を勤めることに同意する人は拍手で賛意を示してください」


 クラス内からの拍手で二人の学級委員就任が決定する。勿論、僕もにこやかな笑顔で拍手を送った。

 勿論、推薦されるだけあって、委員長となる滝口君は背が高いスポーツマン系の好男子。水瀬さんは前髪を揃えた長い黒髪の意思が強そうなお嬢様系女子。内部生が認める適材適所ということらしい。


 要するに予定調和。内部生と外部生の比率が2対1ということは、学園内部の秩序はあくまで『武蔵野ヴィレッジ』居住者で占められる内部生の流儀で行われ、外部の人間に主導権を渡すつもりはないということの現れだ。


 曙光学園における外部生の役割は、あくまで内部生に対して刺激を与えるカンフル剤と学園の学力平均を上げ受験時への実績作りに貢献するモルモットとしての役割がメインということらしい。逆に、内部生相手なにか統制してくれと言われたりしたら胃が痛くなること請け合いだから、僕はこれで良いかな。


 他の役職に関しても、順に内部生の立候補とかで決まったのだけど、女子向けの図書委員と男子向けの美化委員の一人ずつに立候補がなく、結果的に外部生が両方就くことになったのは、最初から良心的に?枠が開けられていたということになるのかもしれない。


 話しあって決めろということで、僕を含む外部生四人で一人の美化委員を選出することに。負ければ高校入学最初の罰ゲームだ。


「大野に、相模に、西村だったな。誰かやりたい奇特な奴はいるか? いなけりゃ、じゃんけんだな」


 見も蓋もないコメントで一気に話をすすめたのは、外部生四人の中で一番体格が良くて押し出しの強そうな顔をした片桐君だ。自己紹介で確か泰斗ってお武家さまみたいな名前を言ってた気がする。リーダーシップもありそうだし、頼りにできそうな彼とは友達になれてうまくやっていけたら良いなあと思ったのだった。


「いいよ、それで」

「僕も問題なし」

「全然、大丈夫」


 勿論、片桐君の言葉に即座に同意した外部生の残りの二人、大野君と西村君を邪険にしてるつもりはないけど、外見と雰囲気的には、僕を含めてクラスの中では目立たないモブ組認定は間違いなさそう。


「あー、僕か」


 じゃんけんの結果、観念した声をあげたのは、ちょっとぽっちゃり気味で気弱そうな感じの大野君だった。慰めの言葉は勿論かけたので、後は僕ら外部生を代表して学園の美化に邁進してください。委員会活動での出会いもあるかもしれないよ。


 こうして、クラスメートとの初コミュニケーションと回避推奨の委員会活動への選抜を運任せの勝利で無事クリアした僕は、初日に関しては、一応滞りなく学園生活を始めることができたのだった。


 後から思うと、トラブルの種はもう既に一杯揃ってて順番待ちの状態だったのだけど……

超絶主人公ではないので、初日から波乱の展開にはなりませんでした。申し訳ありません。


(※妹オンラインを追加で5594文字登録しました 全221516字 17605字書き溜め)

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