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プロローグ 東京2032

作品世界の背景説明ですが、ご興味の出ない方は本編からで全然問題ありません。本編の更新をお待ちください。あと、この作品は完全なフィクションです。現実の地名、団体、個人などと似た表記のものがあっても、一切関係は存在しません。

『東京の中心が西側へ移動している』


 この言葉が最初に使われ出したのは、東海道新幹線品川駅が開業した2000年代前半の頃と想像される。主として経済的な視点から見て、人や物の流れが従来の東京駅を中心としたものから、より西側の区域に移りつつあることを指してのことだが、この傾向は年代を経ることに顕著なものとなっていく。2020年の東京オリンピックの開催を前に、羽田空港の大幅な機能拡充、山手線の品川 - 田町間への新駅設置と暫定営業の開始が発表され、リニア新幹線の開業時の始発駅も品川駅へと定められた。

 周辺地域の再開発までを含んだ所謂『東京サウスゲート計画』に多くの資本と人的資源が投入され、来日する外国人へ向けた東京の新たな玄関口としての品川エリアは大きくその価値を増していった。


 相対的に都市再開発の拠点地域指定をはずされたエリアは地盤沈下を余儀なくされた。特に東京オリンピック後のほどない時期に発生した、東京湾羽田沖を震源する複数の地震は、その傾向に拍車をかける結果となった。中でも木更津沖地震を命名された海ほたる直下付近を震源とするM6.8の地震は、東京都に島嶼部を除いた70年以上ぶりの震度6弱の揺れをもたらし、来るべき第二次関東大震災の前震ではないかとの観測を呼び起こした。結果として、それまで高騰を続けていた湾岸エリアの高層マンション群に少なからぬ直接的な被害と共に、居住地の安全性に対する不安感に伴う富裕層の離脱という間接的ながらより深刻な事態を招くこととなった。同様の現象はもとより震災時の脆弱性を指摘されていた武蔵野台地から外れた東京の東側エリアの全域に及び、その後東京圏の地価は長らく西側で原則上昇、東側で下落というで二極化の様相を呈することとなる。


 東京の変貌という意味で更に大きな要因となったのは移民問題である。産業競争力の強化と少子高齢化対策という題目で、外国人労働者の受け入れは年々増加を重ねていたが、2010年代末に実質的な移民受け入れに該当する容認就労期間指定を撤廃する法改正がなされて以降、既に職務区分として認められていた単純労働者が爆発的な勢いで増大する結果となった。

 移民の流入は当然ながら治安の悪化をもたらす。2010年代初頭に人口10万人当たり1000件程度だった全国平均の犯罪発生件数は、在留外国人数が600万人を越えた2030年には、2500件を越え、東京、愛知、大阪などの都市圏では5000件に迫る勢いで増加を続けていた。

特に東京においては以前より外国人居住者の比率が高かった荒川区、台東区などに加え江戸川区、江東区内の海抜0m地帯などの大規模地震被害予想され地価が下落していた区域に単純外国人労働者などの大規模な流入が起き、都市の再開発が進まないまま治安が極度に悪化するなどの状況が発生していた。それら地域では、殺人件数などの凶悪犯罪件数のより顕著な増加と検挙率の大幅な低下など、当該自治体の機能不全が露わになっていった。特に外国人居住者比率が2割を超えると行政サービスの十全な実施が覚束なくなるとの総務省の内部文書の流出が確認されて以降、状況が放置されるとの認識が住民に広がることで、自治の及ばない地域の存在が既成事実化されていった。


 悪化を続ける治安状況に対して、日本国民の大多数はなす術を持たなかった。だが、一部の富裕層は自分自身と家族の安全を確保するための投資を積極的に行うようになる。従来、米軍ハウスなど主として外国人向けの居留地で出入りの制限された区域が日本国内に存在していたのが、20世紀末にゲーティッドコミュニティの名で閉鎖居住地域の存在が再度クローズアップされることになる。

 2010年代には渋谷区広尾などに日本人富裕層向けの居住区が作られ、運用の過程で閉鎖区域外の住民の反発や行政側の対応など大きな障害がないことが確認されると、富裕層からの強力な需要を背景に開発の機運が高まりを見せる。2020年代初頭に東京高輪地区の一角に、フィリピンのヴィレッジを模倣する形で、閉鎖居住地域『白金高輪ヴィレッジ』が開設されると、国内大都市圏の複数の地域で同様な『ヴィレッジ』が次々と形成されていくこととなる。


 『白金高輪ヴィレッジ』のような第一世代のヴィレッジは、居住区画のみを外壁で囲み住民が安全に生活することのみを目的とするものだったが、やがてフィリピンの高級ヴィレッジ『アヤラ・アラバン』に見られるような広大な領域に様々な複合的な施設を併設したヴィレッジが求められるようになった。


 このような時代的要請を受け、2020年代後半に第二世代ヴィレッジの嚆矢として武蔵野ヴィレッジ』が開設された。ヴィレッジの領域は小平市、国分寺市、小金井市の三市に跨り、東西6km、南北3kmに及ぶ。かつての、富裕層向けカントリークラブ、大学、企業研究所、都立公園などの区域が含まれる。

本来、至難を極めるはずの土地取得は、法令の改正により売却された小金井公園の東側区域に首都圏最大の特養施設群を開設することを引き換えとする政治的判断と旧財閥系列の開発企業連合体の土地取得にかける潤沢な資金により驚くほど短期間で実現された。


『武蔵野ヴィレッジ』の外周は豪雨時及び災害時の利用を名目とした貯水池を兼用とする堀で外部区域と隔離され、ヘリコプターなどの空からの手段を除けば、ゲートと呼ばれる8箇所の堀に掛かる橋と組になる検問所を介してのみ出入りが可能となっている。


 2032年現在、『武蔵野ヴィレッジ』内に暮らす住民の総数は約8千名であり、計画開始時に想定された第一期造成工事は総て完了済みとなっている。居住区域のみならず、商業区域、総合病院、公園、スポーツ施設、コンサートホール、教育施設といった諸施設を備え、内部居住者にとって一つの完全な閉鎖系になっている


 その施設の一つ『曙光学園』は2029年に『武蔵野ヴィレッジ』南西部に開設された私立の高等学校である。『武蔵野ヴィレッジ』内の住人の子弟、及び難易度の高い受験を通過した外部生、そして少数の特別招待生により構成される学園は、将来の選良の育成を目的とした生徒の自主性を重んじる独自の教育課程を特徴とする。


※)近未来モノや現代科学モノのSFは、どう転んでも感想欄が炎上するのがお約束かと思いますので、残念ですが最初から感想欄は閉鎖とさせて頂きます。


ジャンル分けの変更で折角『科学ジャンル』という分類ができたようですので、SF好きとしてジャンルの隆盛を願って、枯れ木も山の賑わいということで記念に一つ投稿してみることにしました。一月~二月毎に一回程度更新できたらと思っています。


作者にはもう一つかちかちに凍結中の『妹オンライン」』という作品があるのですが、大変ありがたいことに以前の読者の方がいらっしゃるみたいなので、そちらの方を優先したいと思います。長らくエタ再会すぐまたエタのコンボでは仕方ないので、予約のところに書き溜めを増やして全部完成したら公開の形にしたいと思います(完成するまで予約はどんどん後ろにずれていくことに……)。この後は8割方、労力は前作品に注ごうということで『妹オンライン」』の方を二話分くらい(一万~一万二千字、今日は七千字程度)登録できたら、この作品を一話(二~三千字)更新の予定にしておきます。

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