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解放

 甘ったるい匂い。其れは自らの手によって搔き乱された長髪から香るものだった。何ものにも形容し難いそれは、表情に反して余りに甘美。

「うっ……うぅ……ひぐっ……」

 ぺたんと座り込んで、目蓋を擦る。細い指に傷付けられた目蓋は既に赤く腫れている。その女を慰めるように、男は女の体に腕を回した。

 男の顔は優美でありながら、弱みに漬け込む狡猾さを備えている。さながら獲物を前にした豹のように。

「触らないでよ。変質者、クソ爺、弱みに漬け込む卑怯者」

「はて、此処に来るなり大泣きして、座り込んだのは何処の何奴だったか? 私は御前の方が卑怯だと思うなぁ」

 そう言って腰に回した腕に力を込める。女は嫌がるように身を捩り、暴れるも、びくともしない。それどころか余裕綽々としたように、微笑みを浮かべている。

「頼んでくれさえすれば楽にしてやれるのに」

「楽になんかならない」

 その返答に少しだけ目を見開きつつも、腕を緩める事をしない。むしろ顔を近付けて、より至近距離で顔を見つめてくる。

「頑固だなぁ」

 そう言って、暴れた拍子に緩まった細い腕を無理に引き剝がし、頬にキスを落とした。

「きゃんっ」

「面白い反応をする」

「うっさい、黙れ!! 見損なった!!」


            ─終─

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