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潔癖な野良猫

「あの……何時も此方にいらっしゃられる方なのですが」

 不意に助手兼ね、秘書を担当してくれている青年が私に声を掛ける。墨汁で描いたような漆黒の髪を真ん中分けして、利口そうな顔立ちをしている。しかし其所に嫌味な部分は皆無で、真面目さだけが浮き彫りになっている。

 私は青年──ヴォルに顔を向けると、僅かに首を傾けた。

「あぁ……“彼奴”がどうかしたか?」

「あんまり親しく為さいますと、奥様が嫉妬なさってしまいますよ」

 私の身を案じるように、困った表情で語り掛ける。出来るだけ声を顰めて、耳元で話したのは、大声でいうべき事では無いと判断したからだろう。

 私はその様子を見て、思い切り吹き出した。その笑い声は次第に大きくなり、部屋中に響き渡る。

「君は“彼奴”のことを知らなさすぎる。彼奴が懸想することなど、万が一にも有りはしないよ。絶対・・という言葉はあまり使いたくは無いがね」

 両目でヴォルの顔を捕らえると、少し困ったように顎に手を当てていた。長い付き合いになるが、また付いていけないとでも思っているのだろうか。まぁ、気軽に接してくれれば良い。

「例えば──そうだなぁ。彼奴が敬語を使っている時には、相手に敬語を使う事を強要している……と考えられる」

「何が言いたいか、全く分かりません」

「単なる彼奴に洩ったイメージだよ。彼奴は平成生まれの癖に妙に礼儀に厳しいんだ」

 はぐらかしているとも取れる私の言葉をヴォルが嫌な顔をして聞き流す。顔に『また始まった』と書いてある。論点をずらす事は何事に置いてもしてはいけない事だが、言いたく無いことに関しては非常に役に立つ。

「嫌いなんだとさ。知りもしない相手になれなれしくされるのが。彼奴は潔癖な野良猫だから。押し付けがましい事も、なれなれしくされるのも、基本的には嫌いなんだ」

 この世は“give-and-take”と声を大にして言いかねないような輩だから。


            ─終─

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