平行線と後釜
己……本当に言うことを聞かないあの方です(*`Д´*)
「よう、元気にしてかい?」
漆黒の長いロングヘアを持つ女は片手を上げ、挨拶した。顔に張り付いているのは謀をするような、悪巧みをするような笑み。少なくとも初対面の者は、警戒を緩める真似はしないだろう。
インペラトルはそんな彼女に対しても、さして対応を変わること無く微笑みを浮かべた。
「あんまり頻繁に来られると、逢い引きと間違われてしまう」
「はぁ? あんたと逢い引き? ないないない!! 絶対無い」
インペラトルが発した言葉を女は丸っきりの冗談と捉えたようだ。口から唾を吹き出し、右手をひらひらと振りながら爆笑している。其所に策士の笑みは毛頭無かった。
「あんたみたいな超絶マイペース、私から願い下げだわー。奥さん大事にしなよー」
目に溜まった涙を指の関節で拭うと、女は髪を払った。中央にある質の良いソファに乱雑に腰掛けると、本題とばかりに肘を着く。
「そろそろ、私の命も無くなる頃かと思ってね」
「ふむ。何を根拠にそんな事が言えるのか、是非とも教えて欲しいものだな」
インペラトルは唇を歪め、三日月を作り出していた。現れた当初に見せていた、女の表情をそのまま受け継いだかのような、邪悪な笑みだった。
女の方はその質問を煙たがるように、体制を崩し、後ろ髪をぐしゃぐしゃと搔き乱し始めた。
「知っている癖に……。流石狸だな。別次元の私がこうも立て続けに死んだんじゃ、私もそろそろ寿命を危惧するべきだろう? さっさと代わりを付けて継続して欲しいもんだね。私の為に」
女の口調は、まるで全てを達観したかのような台詞だった。大きな社会一つを見るように、歯車のねじ一本を見るように、一つが抜け落ちても後釜を据えればどうとでもなると、そう、言いたがっているようだった。
「大丈夫だろうよ。代えが効かないほど困った事はない。ねじ一本分の歪みはやがて、全体にまで回る。一滴の猛毒が体を巡るように……」
「それもそうさな。歴史は変わらない。どんなに平行を辿っても、“平行で無くなるなら意味が無い”。“交わっては意味がない”。“同一でなくなるなら意味がない”。生きていたらまた来るよ」
─終─