マスカレェド
雌の、女の匂い……。
変わり映えのしない、執務室。一面には大量の本が埋まっており、一目見ると本の背表紙で壁を造ったのかと思われる。その中にぽつんと置かれたアンティーク調の机で、書き物をしていると、不意に扉が開いた。
「お元気ぃ?」
気の抜けた猫撫で声。こうでもしないとゆったりと話せないというだから驚きである。因みに普通に喋らせた結果、全くもって意味不明な音の羅列を刻んだ。
女はひらり、ひらりと手を振りながら、此方に近づいて来る。
「元気だとも。あぁ、そう言えば、えすえぬえす? なるものを始めたらしいな」
「おっ、よく知ってるねぇ」
そう言って、この中で使えるかどうかも分からない端末を取り出した。ちらりと目を通すと、彼女が発言した言葉が一覧となって見ることが出来る。
私はその端末を受け取ると、指先でいじって弄ぶ。
「便利だよ~。告知入れるにしても、何にしても。でもさ、そう言った情報社会だから、警戒は解いちゃいけないと思うのだよね」
そう言って目付きを鋭く尖らせた。猫にも似た、ヒョウにも似た、獲物を見据えた目だ。
そもそも彼女が自身、警戒は緩い方では無い。どちらかと言えば過剰な程に敵愾心を剥き出しにする。故にその発言は納得出来る。
「ふふっ。三次元には姿を現さないってなってんしょ? あれね、これを通じて知り合った人とは、絶対に直で合わないって事なの」
「ほう。お前らしいな」
「怖いからね。書くのと話すのじゃ違いすぎるし、極度の人見知りで、石になったまま場の空に壊したくないし……」
瞳をキョロキョロと安定させるなく動かすと、机に肘を付いて前屈みになった。まだ何か言いたい事がありそうだ。
私は卓上で弧を描く長髪を弄ると、問いかける。
「それだけ?」
「まさか。私も別人なら、相手も別人だって考えられる☆ 高校ん時見せられたDVDがトラウマねっ☆ あれ、結構良い楔。でも情報はほぼ命みたいなもんだから、私はまだまだ甘いのかもねぇ。此処では仮面を守ってくれる奴なんか、居やしないんだ。守りたかったら自分で守りな。あんただってそうだろう」
最後は少しだけ、聞き慣れた男口調でしめ上げた。
─終─
ある本を思い出してしまいます(´-ω-`)
その方の本、まだ二冊しか持ってない……(´-ω-`)