自分勝手
今回はシリアスでナンセンス、皮肉の話となっています。
壁全面が本で埋め尽くされた本棚。茶色を基調とした室内に、私とその娘がいた。私達は室内に置かれた長テーブルを挟み、座っていた。
不意に、娘が口を開く。
「人間って……勝手ですよねぇ~」
「うん?」
黒のふわふわしたツインテールに、紫水晶のような目。上体を崩しているせいか、何だかとても怠惰に思える。
私はくすりと笑って、髪を撫でた。
「どうした。急に」
『珍しい事もあるものだ』と思った。
私の娘、タナトスは口こそ悪いものの、何だかんだで優しい。毒を吐くにしても照れ隠しで言うことが殆どだし、気が付けば無意識に手を差し伸べている。
それが今は達観し、呆れたようにぼやいてきるのだから。
「…………」
タナトスは何も答えずに、目線を外した。視線の先を追うと、一つの巨大なケースに注がれている。
案じているのだろう。傷付くだけ傷付いて、既にボロボロになってしまった彼の事を。
私は黙って頷くと、ゆったりと微笑んだ。
「お前はやっぱり優しいね」
「別に……。それより……。むー……っ」
意見を言って欲しいらしいが、最初に発した言葉が質問では無いため、少し考えているようだ。
私は目を細め、頬杖着くと、口を開いた。
「散々傷付けて、本当に死にそうになったら手を差し伸べる。散々虚仮にしておいて、助けて欲しいときに依存する。本当に自分勝手で、周りを省みない生き物だ」
でもね──。
「だからこその人間なんだよ。そうでないと、らしくないからねぇ」
狡猾なのは弱さから。自己中心的なのは儚さから。本能的に恐怖から逃げるように出来ている。そうでなければ、他の生き物に殺されているだろうよ。
私はにやりと口角を上げる。唇の裂け目を見たタナトスが、身を硬くし、竦み上がっている。
「奔放で良いんだよ。奔放なのが人間の本来の姿なのだから。まぁそれで道徳的行為に反しているのなら、罰が与えられる。それだけさ」
まぁ、今回の件の発端は人間では無いから、罰は与えられないだろうがね。
──終──