筋金入りの愛妻家……。
私の主、敬意を込めて通称“インペラトル”と呼ばれている御方が、一人の女性に驚く程密着し、お気に入りの玩具にするように頬擦りしている……。
抱き付かれている女性は柔らかい、おっとりとした顔立ちに、漆黒の腰まである髪を太い三つ編みにしている。普段はもっと優美のだろうが、今は困ったように眉を顰めている。
「あぁ!! もう、離れて下さい!! うざったいです!!」
「ヴォル、私の嫁だ」
「……はい?」
いやいやいや、筋金入りの超絶マイペース。振り回されるよりも振り回す、“半永久的な少年のような人”と言えば聞こえは良いけれど、ぶっちゃけ奔放を絵に描いたような人に、嫁……!?
今時のバカップルさえ見せ付けないようなやり取りを直視し、唖然とする。
そんな事も構わず、インペラトルは頬や髪にキスを落とそうとしている。それに対抗するかの如く、女性は掌をめい一杯使って、顔を押し退ける。
「……仕事は……?」
「終えて無かったら抱き付いてないぞ、嫁」
「あぁ~~…………」
打つ手ナシと言ったように、深い溜め息を落とす。流石に女性が可哀想になって来たので、インペラトル引き剥がす事に協力する事にした。
「流石にお困りですよ……?」
「照れているだけだと思うのだが」
ローブを掴み、そのまま引き剥がす。長年使われておらず、糊の染み出た粘着テープのような音を立てて、漸く離れた。
しかしインペラトルは、きょとんとした顔で此方を見て来る。
女性は皺になったローブを掌で払い、深々と頭を下げた。
「照れてません!! 自己紹介遅れました。私はベクターと申します。一応……い、ち、お、う……この……この人の……」
顔を上げると、耳まで真っ赤になっているのが良く分かる。インペラトルの言う通り、照れているのかもしれない。
インペラトルはさもおかしそうに口角を上げたまま、火に油を注ぐような事を言った。
「ほら言ってごらん。“嫁です”って」
その言葉が決定打となったのか、ベクター様は急いでこの場を去っていた。
「逃げられてしまった」
「苦労が多そうですね」
悪いことをしたという自覚がないインペラトルに、振り回される。……心の底から同情致します……!!
呆れた目をインペラトルに向けると、彼は溜め息を着いた。
「普段はしっかりしているよ。私を律せる程に。しかし一度ペースを乱されると、その後は狂いっぱなしだ。それがもう可愛くてな……。其れを人前で見せるととても……」
「インペラトルが、愛情たんまりに人をいじる人だとよく分かりました」
─終─
そう言えばインペラトルの本名まだ出してないなー……。と最近気が付きました。
(インペラトルは称号です)
出さないと……(;´Д`)
愛情たんまりに弄る人が良いです(*´∀`)
(愛情大事!! 本当に大事!!)
小ネタ
ベクターはラテン語で“運搬者”という意味です(*´∀`)




