プロローグ
レイグレイス闘技場からは今日も歓声が聞こえていた。
今日の試合は力自慢の男VS牙を唾液で濡らしている魔物。
闘技場には強者ゲートと魔獣ゲートがあり、挑戦者ゲートからは闘技場が捕まえてき
た魔獣が出場し、強者ゲートからは、闘技場が用意した人間や力自慢が出場する。
セレナ・クリスタルも闘技場での戦闘経験がある者の1人だった。
彼女はふらりと闘技場に現れ、相手が騎士だろうが魔獣だろうが舞うような軽やかな
動きで相手を倒し、そしてその美しい容姿から彼女は無敗の舞姫と呼ばれた。
しかし、無敗の舞姫は4年前のある日を境に闘技場から姿を消した。
まったく…久しぶりに街に買い物をしに来たら、これまた懐かしい所から歓声が聞こ
えるわね…
フードをかぶってきて正解だったわ
「ねえ、セレナ。あそこって毎日沢山の声がきこえるよね。何してるのかな?」
レインが私の袖を引っ張りながら闘技場を指差す。8才だからなのかまだまだ好奇
心旺盛だ。
「そうね、あそこは…自分の力を試す場所よ。」
「へぇ〜。……セレナ? 」
「ん? 何?」
「えっと…あの…セレナ、あそこ嫌い? 」
レインが心配した顔で私の顔をのぞいてくる。
「え? どうして? 」
「だって…セレナ僕があそこの事聞いたら嫌な顔したから、あそこ好きじゃないのか
なって…」
確かにあそこにいい思い出はない。
出場ゲートだって、挑戦者ゲートではなく、魔獣ゲートからの出場だった。試合が終
わるたびに魔法結界のはられた部屋に閉じ込められる。そして試合が決まるとまた闘
技場へ連れて行かれ、生き残るために戦いまた部屋に入れられる。
その繰り返しだった。
「そうね。確かにあそこには…辛い事が沢山あったわ。でも、私はアカザが解放してくれたもの…私は幸せだったわ。」
そう…私は囚人剣闘士の中では幸せだった。囚人剣闘士のほとんどは戦いに敗れ殺されるか、自分の犯した罪の分だけ勝ち残り自力で外に戻るか、監獄で自害するかのどれかだ。私のように釈放される例はとても少なかった。
「セレナは、アカザのおかげでここにいるんでしょう? じゃあ、アカザのおかげで僕はセレナにあえたんだね!! 」
「そうね…私はレインにも会えたんだもの。本当に私は幸せよ」
「えへへ。僕も幸せだよ! ねえ、今日のご飯は何にするの? 」
「そうね…今日はシチューにしましょうか。」
「本当!? やったあ!」
「さあ、買うものも買ったし、帰りましょうか。」
はしゃいでいるレインの手を引き、町外れにある我が家に帰る。我が家といってもこの街に来てからまだ3ヶ月だ。
私を闘技場から救い出してくれた赤竜。
私を闘技場から解放し、竜の里にまで連れて行ってくれ、3年間を共に過ごしてくれた竜
「俺はいつでもセレナの味方だよ」
しかし、突然アカザはそう言って私を置いていってしまった。
アカザが私から離れて行ってしまってからもう4年がたった。
なぜ私を竜の里に置いていったのか
なぜ私にレインをあずけたのか
なぜ私が闘技場に閉じ込められていた理由を知っているのか
なぜ知っているのにその理由を私に教えてくれなかったのか
色々聞きたいことがたくさんあったが、アカザを追ってレイグレイスまで来てからわかった。
アカザはもう私が知っているアカザではないのだと。
レイグレイスについた日に私は人の姿のアカザがレイグレイスの若き国王、セルト・レイグレイスの横に立っているのを見つけた。