四歩目
部屋の中は広く、壁や天井の至る所にランタンが設置されており、壁沿いにジャイアントアントが槍を携えてずらりと並んでる。
同じ顔がずらりと並んでるので少し怖い。
一番奥には女王と思われる人物がベッドの上で横になって、ベッドの両脇に盾と槍を持ったジャイアントアントが控えてる。
女王は普通のジャイアントアントとほぼ外見は同じだ。
違いは、背中から虫特有の透明な羽が生えていて、顔立ちが凛々しく、瞼があり目には他の者と違い黒目の周りに白目があり人間同様の目になっていた。
あと、胸が他のジャイアントアントと違って大きいみたいだ。
俺の予想では女王がDカップほどで、普通のジャイアントアントはBカップほどの大きさだと思う。
その中央を股間を手で隠しながら、女王の前まで行った。
「貴方が私の子供を救ってくれたんですか?ありがとうございます」
女王はベッドの上で姿勢を横から正座に変え、こちらに頭を下げた。
女王と言われるほどだから、高圧的な態度と思っていたのだが。
予想とは裏腹に、感謝の言葉を言って頭を下げたのだ。
頭を下げた女王の顔には、母が子を想う気持ちが表れている。
「い、いえ自分勝手に助けただけです。自分は剣で刺されたのですが、貴方達が治療してくださったのですか?」
相手の態度に少し驚いてしまったが、下手に出て様子を伺うことにする。
「それは違います。貴方が救ってくれた子供によると、剣は突き刺さらずに弾いたようです」
その言葉を聞き自分の胸を見るが、かすり傷一つあらず女王の言葉を疑ってしまう。
「貴方は私の子供を救ってくれましたが、貴方の体は普通ではない。魔物なのですか? それとも人間ですか?」
女王は俺の正体を知りたいのか訊いてくる。
しかし、その質問に俺は困った顔をしながら答える。
「自分は…… 自分は人間です。が、人間ではないかもしれません」
助けた女王の子供の証言通りなら、自分の体はこちらに来てから異変が起こったはずだ。
これまでにも異変は薄々気付いていた。
森林の中を裸足で歩いても、足裏は傷付いておらず、剣で刺されてもかすり傷すら付いてない。
そして、なぜか自分の股間にある息子が日本にいる時よりも、大きくなって頼もしくなっていた。
最後の理由は置いておいて、俺の異変は普通の人間とは異なる。
だから、自信を持って人間とは言い切れなかった。
「そうですか…… 宜しければ私に訳を話してくれませんか」
その言葉には俺を気遣う心が籠もっていて、心を温めてくれた。
俺はここまでの経緯を語った。
すると、女王の子供達がざわめきだし、槍を持ってる手に力を入れていた。
剣呑な雰囲気が漂ってきて不安になってきた。
俺やばいこと喋ったかも知れないな。
どうしてこのような雰囲気になったのか分からず女王に訊いてみると、
「貴方は伝承によると勇者です」
「えっ、自分がですか?」
そりゃあ魔物からすれば勇者は宿敵だろうから、皆身構えるはずだな。
現状を理解したら、嫌な汗がダラダラと背中から流れてきたよ。
「はい。伝承では《異世界から来られし者、その身に人のあるまじき力宿り。体一つで現れる》と人間にも魔物にも伝わってます」
「自分が?自分ではそう思いませんが…… 勇者がいるということは魔王も伝承があるのですか?」
「残念ながら魔王様の伝承はありません。ただ魔王を名乗る者は現れましたが、その度に勇者が現れ倒してしまってるようです」
そう話す女王の表情に陰りが見られる。
「ちなみに勇者と魔王はどのようなことしていたかわかりますか?」
「勇者はギルドが手に負えない魔物を倒したり、人間が困ってることを助けたりしていたみたいです。魔王様は逆に魔物が困っていることを助け、魔物に危害を加える者を倒していました」
話を聞いてると、犬と犬がお互いの尻尾を追い駆けるようなだな。
さすがにそのことを言う訳にもいかないので別の言い方で言う。
「お互いに手と手を取り合って協力しなかったんですか?」
「魔王様と勇者ですから。それにお互いに恨みがありますから……」
そう言う女王は恨みがあるのか顔を苦々しくしていた。
「戦争にはならなかったのですか?」
「勇者や魔王様は戦争にはなるべくならないように避けていました。けれど、小規模な小競り合いは何度もあったようです」
戦争にはなってないことに驚いたが、そこは勇者と魔王が戦争を避けていたお陰なのかもしれない。
ふと、ある考えが浮かび聞いてみる。
「…… 女王様。今は誰か魔王を名乗ってる人いますか?」
「他の魔物達から話は来てないですから、まだ誰も名乗ってないはずです」
「じゃあ自分が魔王を名乗っても問題ないですか?」
「えっ?」