出発初日編
積み込んだドリンクをチビリとやりつつ一般道を東京へ向けて走る。
常に台風情報をチェックしながらだ。
だって台風君ってさ、俺のこと絶対好きだよ?
奥さんと婚前旅行に行った時なんざ、茶色い濁流の奥入瀬が出迎えてくれたし、
その時に荒れ狂う十和田湖も見たよ。
遡れば修学旅行で九州に行ったときの帰りは台風の中、出航したよね。
あの時は波が壁のように船の右にも左にもそそり立っていた記憶があるんだけど、
思い出はきっと事実を誇大なものに変えてくれるものだからそう信じたいけど、
あの時、死ぬかもって思ったよなぁ……。
まぁ、ともかく快調に東京入りを果たしたわけです。
1号線に進路を取れ!
コレが最初の目的だったりするんだけど、1号線目指していたら東京駅に来てしまいました。
ここまで来てかなり後悔しました。
何でタクシーのみなさんは自主的に1車線増やしているんでしょうか?
おかげで軽自動車なのに中央付近の車線しか通れないし!
僕は、家畜の数の方が人口より多い地域に住んでいるのです。
こんなにたくさん車のいる道は走った経験が薄いのです。
だ・か・ら!
俺の前からどけ~~~~~!!
って、車の中で叫んでも無駄なんだけどね。
心の中にあった、つらくなったら高速乗って行くんだ。
っていう思いは、ついつい車線変更出来ずにかなわず、
すっかり乗りそびれて、横浜を越えるくらいまで、緊張感漂うドライビングを楽しむこととなった。
帰りは高速に乗ってここを通過しようと強く思ったものだが、
コレが何の伏線にもなっていないことは最後まで見てもらえると良く理解できる。
まぁ、恐怖の時間を過ごしていたものだから、それ以降の運転は非常に楽しい!
ついつい、道を間違えるくらいに……。
あれ??
国道っぽくない道だぞ?
どこでどう間違えたのかは理解できない。
だけどね、なんとなく違うのは理解できる。
だってさ、さっきまで対向車はそれなりにあったけど、しばらく来てないよ?
それにね、我が家のカーナビは曇っていると未知の道を走り始めるのさ。
現在地情報なんぞあてにならない。
右前方に店舗の灯かりが見えた。
し……、新聞屋?
結構忙しそうに動いていて立ち寄って道を聞くのもはばかられる。
なんか変な気がするよ、深夜に、台風来ているって言うのに、道に迷ってうろつく奴。
道に迷ったらやるべきことはコンビニを探すことだと思っている。
街中ならなおさらだ。
コンビニの名前って町名が記されていることが多いからね。
地図買って、それに照らし合わせればばっちりじゃないか。
そういった小技を使い窮地を脱出して再び国道一号線に復帰、
しかしそのあたりでもう台風の広く伸ばした腕は俺の軽自動車を捕らえていた。
常にハンドルを風に対してあてていないと、まっすぐ走らないのだ。
どういうことだ?
まさか、奴め、こっちに方向変えたんじゃあるまいな?
NHKに切り替えて情報を待つ。
情報によると出発前の予定通りの進行ルートをとっているようだ。
ひとまず安心したものの、敵はそれだけではなかった。
箱根に差し掛かりあたりを白い悪魔が取り囲む。
霧だ!
白い悪魔と言うと、誰しも島本和彦の漫画の巻末についてきたショートストーリーを思い出すに違いない。
いや、もしそうだとすると、みんなかなりコアだな……。
ともかく霧は怖いのだ。
まず上下左右といった感覚が遮断されることで、自分の現在の位置どころか平衡感覚さえ奪われるのだから。
カーナビ様は、車が今、川の中を絶好調で走っていると教えてくれている。
本当にあてにならん。
こんな時は、だいたい100前後の技を持つ俺様の能力を発揮するときだ。
秘技、『ノロノロ運転』と『凝視』の技を使い。
センターラインを凝視してゆっくりと運転する。
な~んだ!問題ないじゃないか!
いける、いける!
などと甘い考えをした直後、対向車が来る。
有効視界5メートル以下の霧の中を突然現れる対向車。
ビビったさ、そりゃもう、心折れるくらい。
すっかり心が折れて、路肩によりたい僕の気持ちを非難するやつなんて誰もいまい。
って言うか一人旅だしね。
だがしかし、実際のところ、路肩によるのも怖いんだよね。
だって後続車両に突っ込まれたら嫌じゃないか。
やっぱり、車が止められるだけの広さがあって、自販機がついていたら最高……。ありました。その条件。
救いの神に感謝して車を停車させ、車を降りると深呼吸。
でもなんでしょうね?
このノドを通過する違和感は。
まるで霧の粒が侵入しているかのような感覚。
口で息をするのことをやめて、鼻で息をしつつ大きく肩を回してリラックス。
少しの間外にいたのだが、平衡感覚を奪われそうになり、車に乗り込んだ。
箱根を越えるときりも晴れ軽快に走ることができた。
近くのICから高速に乗りPAで車中泊、午前4時のことであった。
東京を車で普通に走れる人がすごい人に見えます。
あれがトラウマになったのか、今でも東京の一般道は嫌いです。




