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第8話 二人の想い

 真琴はいきなり魅月の声が聞こえてきたことに驚いたのかびくっ、と体を震わせた。その瞬間に腕に力でも入れたのかネーラが「ミー!」と抗議の声を上げる。

「どうしたのかしら?真琴ちゃん。顔が真っ赤よ」

 オレ達の方まで近づいてきた魅月は真琴の顔を覗き込みながらそう言う。

「そ、そんなことないよっ!」

 真琴は魅月の言葉どおりに顔を真っ赤にしながら慌てて否定する。そんなふうにしてると、肯定してんのと同じだぞ、とオレはあえて心の中だけで突っ込みを入れる。

「そうかしら?」

 魅月は悪戯っぽい笑みを浮かべながら言う。彼女がそんな表情を浮かべるのは初めて見たが真琴をからかっているってことはわかった。

「あぅ……」

 真琴はからかわれていることはわかっているがどうすることも出来ないようで、そんな変な声を漏らした。

 それを見た魅月は楽しそうな表情を浮かべる。

 なんだか、オレが一人だけおいていかれているような気がする。いや、ネーラもおいていかれてるんだろうけどこいつを数に入れるのはどうかと思う。

「そういや、お前は話があるんじゃなかったのか?」

 なんとなくこのままだとオレの存在が忘れられそうな気がして魅月にそう話をふる。

「あ、そうだったわね。真琴ちゃんをからかってる場合じゃなかったわ」

 魅月はそんな確信犯的発言をする。

「涼樹、わたしはね、あなたに伝えたいことがあるの」

 急に魅月は真面目な雰囲気を纏う。何を言うんだろうか、とオレは身構える。

「わたしは、あなたのことが好きなの。前世であなたと旅をしているときからずっと、ね」

 魅月の口から紡がれたのは告白の言葉だった。魅月の頬には微かに朱が差している。

 あまりにも意外すぎたのでオレは次にどうするべきかわからなくなった。それは真琴も同じようでオレの視界の端で固まっているのが見えた。

 このまま時間が止まってしまうんじゃないだろうか、という錯覚を抱きかけたとき、

「だ、だめー!そ、それはだめー!」

 と、真琴が口を開いた。なにかをすごく慌てているようだった。というか、何がだめ、なんだろうか。

「何がだめなのよ。涼樹はあなたのものじゃないでしょ?」

「そ、それでもだめなものはだめなんだよ!だって、あたしも……」

 そこで真琴は言葉を切る。なんだか、さっきも同じことがあったな、とオレは思う。

 けど、今度はさっきと違ってその言葉の続きを聞くことが出来るような気がした。何故なら、今の真琴には勢い、という行動の動力源となりうるものがあるからだ。

「涼樹のことが好きなんだよ!魅月に負けないくらいに!だから、魅月は涼樹に告白しちゃだめー!」

 真琴は顔を真っ赤にしながらもそこまで言い切った。しかも、真琴はネーラを離しオレの腕にしがみついている。

「ふふ、やっぱりそうだと思ってたわよ。でも、涼樹は渡さないわ!」

 そう言いながら魅月は真琴がしがみついているのとは反対側の腕にしがみついてくる。そして二人はオレを挟んだまま睨みあう。

 魅月はどうなのかはわからないが真琴はその場の勢いでやってしまっているんだと思う。普段の状態の真琴が声を荒げたり腕にしがみついてきたりはしないと思うから。

 というよりも、二人に挟まれたオレはどうすればいいんだ?とりあえず、今の段階でわかってることは真琴と魅月はオレの事が好き。それで、今オレはその二人に挟まれて取り合いが行われている、と。

 オレは冷静にそこまでまとめる。いや、本当は恥ずかしくて取り乱しそうなのだが、無理やりそれを抑えている。

 オレが取り乱してしまえばこの場の状況をどうすることもできなくなると思ったから。

「ねえ、涼樹はどっちのことが好きなのよ」

 睨みあっているだけでは埒が明かないと思ったのか魅月がそう聞いてくる。

「わたしのことのほうが好きに決まってるわよね」

 余裕そうな笑みを浮かべてそう言う。

「涼樹は、あ、あたしのことの方が好きだよね!」

 対して、真琴は顔を真っ赤にしながらそう言っていた。

 どっちが好きかと言われてもわからない。オレはどっちのことが好きなんだろうか。いや、それ以前にこの二人のどちらかの気持ちに応えられるような気持ちがオレの中にあるんだろうか。

 ……たぶん、ないだろうな。誰かを好きになるということがどういうことかわからないからこの二人の気持ちには応えられそうにない。

 だから、

「ごめん、オレにはわかんねえよ。どっちが好きか、なんて」

 そんなある意味卑怯な答えを返す。けど、オレにはそういう答えを返すほかなかった。

「だったら、今からあたしのことを好きになればいいんだよ。ううん、あたしがそうしてあげる!」

「そんなことさせないわ。涼樹にはわたしを好きになってもらうのよ!」

 二人はそう言いながら両側からオレの腕を引っ張る。本気で引っ張っているようでかなり痛い。

「痛いから、やめろ!」

 オレは力任せに腕を自分の方に引き寄せて二人から解放されようとした。けど、思ったよりも強くオレの腕を掴んでいたらしく、二人はオレの方に引っ張られる。当然二人はオレにぶつかる。

「うわっ」

「「きゃっ」」

 三人分の声が重なりオレ達は周りの椅子や机を巻き添えにしながら豪快な音をたてて倒れる。床や机などにぶつかり背中の方が痛い。そして、真琴と魅月はオレの上に倒れている。

 普通の人より軽いとは思うがそれでもやっぱり重い。

「二人とも、重いから、早く、どいてくれ」

 二人に乗りかかられているので声が出しにくく切れ切れの声でそう言う。

「ご、ごめん!」

「ご、ごめんなさい!」

 真琴と魅月は大慌ててでオレの上からどける。それによってオレは楽になった。

「ミー?」

 ネーラがオレの顔を覗き込んでくる。

「心配してくれてんのか?」

「ミー」

 ネーラは一度頷く。

「そっか、ありがとな」

 そう言ってオレは上体を起こす。というか、真琴と魅月はオレの心配をしてくれないのか?、と思って視界に入ってきたのは、

「真琴のせいで涼樹が痛い目にあっちゃったじゃないの!」

「た、確かにあたしのせいでもあるけど、魅月も悪いよ!」

「そんなことないわよ!あなたが先に涼樹の腕を放していればよかったことじゃないの!」

「それはあたしのセリフだよ!」

 そんなふうに言い争いをしている真琴と魅月だった。

 その光景を見たオレは、はあ、と溜め息をつく。ネーラはオレのもらした溜め息に同意するように「ミー」と鳴いた。


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