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第23話 恋人になって

「ふふん、みんなすっごく驚いてたね!」

 教室に入りながら真琴はそう言う。オレたちはまだ手をつないだままだ。教室に入るときに視線を感じたがオレは気にせずに真琴に答える。

「そうだな。みんなオレたちのことを見てたな」

 先ほど、真琴が言ったことを本当に実行した。道行く人々に、恋人なんです、と言うのも、校庭の真ん中で恋人なんだー!、って叫ぶのも。

 特に後者の方。これはかなりの注目を浴びたと思う。

 オレたちはサッカー部と陸上部が練習をしていた校庭の真ん中まで手をつないだまま走っていった。練習しているところにいきなり入ってきたというだけでオレはたちは注目を浴びた。

 そんな中でオレは、オレたちは恋人なんだー!って叫んだ。隣で真琴も、あたしたちは恋人なんだー!って叫んでた。

 それで、校庭で練習中だった人は当然のこと、校舎にいた人たちまでもがオレたちに注目した。

 しかも、昨日みたいな興味本位、という感じの視線は一切なく、みんなびっくりしたようにオレたちを見ていた。

 なんだかオレたちにとってはその視線が気持ちよかった。たぶん、叫んだことによってテンションが異常にあがってそう感じたんだと思う。今日は今まで体験した人生の中でもっともテンションが高くなった日だと思う

 その後もオレたちは校門の前で、通学してくる人たちにオレたちは恋人なんですよ、と言って周っていた。

 今思い返せばすっごい馬鹿なことをしたような気がする。だけど、恥ずかしいとは思わない。むしろいろんな人にオレたちが恋人同士なんだってことを伝えれて満足している。

 そんなことを思いながら自分の席に座る。真琴はオレと向かい合うように椅子の向きをかえて座った。

 まだ、手は握ったままで机の上においている。

「楽しみだな。これから、あたしたちの間でどんなことが起こるんだろうね」

「さあな。でも、悪いことは起きないんじゃないか?」

 人生はいいことばかりではない、と言うが、なんとなくオレたちはその(ことわり)からはずれているような気がする。

 何故ならオレたちは、すでに一度、一生分の人生を体験している。その人生は、いいことなんか全くなくて苦しいばっかりだった。だから、今回の真琴に出会って、恋人となったこの人生ではいいことばかりが起こるような、そんな予感がする。

「うん、そうだね。そうなると、嬉しいよね!」

 真琴もそう思ってるのか声はとても弾んでいた。

「よくもまあ、あなたたちは朝から馬鹿なことをしでかしたわね」

 いきなり、オレたちの間に一つの声が割って入ってきた。

「まあ、でも、それくらい馬鹿な方が涼樹を譲ってあげたわたしとしては嬉しいんだけれどね」

 それは、魅月の声だった。今日の朝、話をしていたときのような悲しそうな声音はもうすでにない。その代わりに今は呆れたような声音となっている。

「魅月、大丈夫なのか?」

「何のことかしら?」

 とぼけるように魅月は言う。掘り返して欲しくないってことか。まあ、確かにあんまり思い出したくないことだよな。

「そうか、わかった」

「ふふ、ありがと」

 知らない人が聞けば前後のつながりが全くない会話。

「ん?二人ともなんか会話の流れが変だよ」

 現に真琴はオレたちの会話を聞いて不思議がったようだ。けど、真琴はオレと魅月が二人だけで話をしたということを知っている。

「あ、そっか……」

 だから、真琴は気がついた。といっても、たぶんオレが魅月に、真琴の方が好きだ、っていうことを話したんだろうということに気がついただけだと思う。

 でも、それだけでも悲しんでるだろう、ということはわかってるはずだ。だからか、真琴は清々しいくらいの声で、

「あたしは、魅月が想っていた分も涼樹を幸せにしてあげるよ。だから、安心してよ」

 そう言った。魅月は驚いたように、目をパチパチさせた後。

「……そりゃそうよ。あなたが涼樹を幸せにしないとわたしはあなたを恨むわよ」

 冗談めかして魅月は言った。

 真琴と魅月は恋敵同士というにはあまりにもとげがなく真っ直ぐだった。だから、こうしてオレが真琴を選んだ後でも魅月はオレたちの前に出てくることが出来るし、真琴は魅月の想いを受け継ぐことが出来た。

 なんとなくだけれど、オレ、真琴、魅月の三人で一緒にいることがこれから多くなりそうな気がした。当然、一緒に過ごす時間が長いのは真琴だろうけど、どんなときにだって間に魅月が入ってきそうな気がした。

 嫌な光景ではない。こうして、真琴と魅月は今だって仲がよさそうなのだ。だったら、三人でいられたら楽しいんじゃないだろうか。そう思った。

「涼樹、二人で幸せになろうね!」

 真琴は右手で握っていたオレの左手を両手で包むように握り直す。

「当たり前だろ。お前はオレの恋人になったんだ。絶対に幸せにしてやるよ。それから、オレもお前に幸せにしてもらう」

 オレは右手で真琴の左手を包み込む。そうして、お互いがお互いの手を包み込むような形になる。

「うん、二つ目の約束だね!」

 真琴が頷き、そして、オレたちは見つめあう。

「えーっと、もしかして、わたしはお邪魔かしら?」

「いや、そんなことないぞ」

「むしろ、仲の良いあたしたちのことを見ててほしいかも」

 オレと真琴はそれぞれそう言った。

「……なんだか、二人とも朝、会ったときと性格が全然違うわね。二人ともそんなに恥知らずだったというか、テンション高かったかしら?」

 確かに、今のオレは昨日とそれ以前のオレが見たら驚くほどの行動をしている。

 だけど、性格が変わったというわけではない。確かにテンションは異常に高くなっているけれど、それは性格が変わったからではない。

 オレが真琴に自分の気持ちを伝えて、真琴と恋人同士になったから。真琴と一緒ならなんでも出来るような気がしたから、今のオレは普段のオレなら絶対にしないようなことができたし、テンションもあがった。

「涼樹と一緒にいたらね。なんでも出来そうな気がするんだ。だから、あたし自身のテンションが上がって魅月にはあたしの性格が変わったように感じたんじゃない?」

 真琴もオレと同じだった。オレはそのことに妙な嬉しさを感じる。

「そう……それで、涼樹は?あんたも、真琴と一緒にいればなんでもできる、とか思ってるわけ?」

「ああ、真琴と同じだ。オレだって真琴と一緒にいればなんだって出来ると思ってる」

 一瞬の躊躇も考える間もなくオレはそう答えた。

 それから、オレは真琴の方を見る。真琴は嬉しそうな笑顔を見せてくれた。

「今のあなたたちと一緒にいると、なんか一人でいるわたしが寂しくなるわね」

「あ、ご、ごめん」「ごめん、魅月」

 オレと真琴は、ぱっ、と離れて二人で謝る。

 いくら今まで悲しくなさそうな声で話していたとはいえ、やはり、見せ付けられれば悲しくなるはずだ。

「別に、謝んなくたっていいわよ。ま、そんだけちゃんと、周りが見えてれば大丈夫でしょうね」

 そう言った魅月は微笑んでいた。

「じゃあ、わたしは自分の教室に戻るわ。お昼休みになったら食事するのにいい場所教えてあげるから教室で待ってるのよ」

 魅月は踵を返し教室から出て行った。先ほどの微笑みはどういう意味だったのだろうか。悲しさを紛らわせるために浮かべた微笑みには見えなかった。

「魅月、平気そうにしてるけど、本当は悲しいんだよね。……どうしてあげれば、いいのかな?」

 どうやら、真琴はさきほど魅月が浮かべた微笑みについてそれほど考えていないようだった。

 まあ、でも魅月が悲しんでるのは事実だ。それに対して何かしてやれれば、とも思っている。

 そのために、なにが出来るか、とオレは考えてみる。

「……何を、してやればいいんだろうな」

 オレはそう呟く。魅月を悲しくさせている原因はオレと真琴だ。これ以上オレたちが何かをしたらさらに悲しく思ってしまうかもしれない。

 でも、だからといって何もしないで放っておこうとは思わない。オレと真琴が原因ならオレたち二人でその悲しみを和らげてやりたいと思った。

「あ、そうだ。普通じゃ体験できないようなことをさせたら少しは悲しさがなくなるんじゃないかな」

 いきなり、真琴がそう言う。

「普通じゃ出来ない体験、ってなんだよ」

「普通じゃ出来ない体験、ってなんだと思う?」

「それって、答えになってないじゃないか」

 真琴はオレの質問に質問を返してきた。というよりも、オレの質問がそのまま返ってきた感じ。

「放課後までのお楽しみだよ」

「なんでだよ」

「この際だから、涼樹の驚く顔が見たいな、って思ってね」

 真琴は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「そう言うんならちゃんと楽しませてくれよ」

「うん!任せてよ!」

 とびっきりの笑顔で頷いてくれた。これは、期待できそうだな、とオレは心の中で思っていた。

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