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第20話 一日を振り返って

 晩御飯を食べて風呂にも入ったオレはベッドの上でぼーっとしていた。今日は入学式だったので勉強はしないことにした。まあ、入学式がなくても今日は勉強はしてなかったと思う。

 何故なら、真琴のことばかりが頭に浮かんで勉強に集中できそうにないからだ。

 真琴にキスをされたあの直後から真琴のことしか考えられなくなっている。考えただけで真琴のあのやわらかい唇の感触を思い出してしまう。そして、その度にオレは恥ずかしいような気持ちになる。

 なんで真琴はあんなことをしたんだろうか。あのときよりかは幾分か冷静になり始めた頭で考える。

 最初に思い浮かんだのは真琴がオレのことを好きだから、ということ。でも、それはもうわかってる。真琴、本人の口から聞いたことなんだから。

 じゃあ、なんであのタイミングだったのか。なぜ魅月が逃げていったあのタイミングなのか。

 それとも、あのタイミングだったからこそやったのだろうか。魅月がいなくなってオレと二人きりになったからやった?

 けど、真琴の性格から考えてそんなことはできないような気がする。二人きりでいたときの真琴はそれほど積極性があるわけでなく、どちらかといえば恥ずかしがりやだった。

 そんな性格の真琴に出来るはずがない。けど、魅月と一緒にいてオレに慣れたからそういった部分はなくなっている可能性も考えられる。また、それ以外のことが原因であるとも。

 考えれば考えるほどわからなくなってきた。

 なにか思い浮かぶかな、と思い思考を曖昧にしてぼーっとする。こうすれば妙案が浮かぶことがある。だけど、逆に何も思い浮かばないことだってある。

 何かがいきなり頭のそこから浮かんできた。

 それは、先ほど考えていたことの答え、ではないが関係ないものでもないような気がする。

 なんで、真琴のことばかりをオレは考えているんだろうか、という自分自身に対する疑問。

 それは、真琴にキスをされてそれが頭から離れないから。それだけのはずなのに、何故かそれだけが理由ではない、と頭のどこかが言っている。

 確かに、真琴にキスをされた、というのが理由ならその瞬間のことだけを考えていればいいはずだ。それなのに、オレは別のことまで考えている。

 今日一日の間で真琴が浮かべた表情。真琴のとった行動。真琴の言った言葉。そんなことまでも考えている。


『やっと、会えた』

 そう言って真琴は出会っていきなり校門のところで嬉しそうな表情を浮かべて抱きついてきた。


『そっか、やっぱり、そうだよね』

 そう言って真琴は記憶の中の魔王と同じように悲しそうな微笑みを浮かべた。


『むう、苗字じゃなくて、名前で呼んでよ。名前で呼んでるほうが仲がよさそうでしょ』

 自己紹介をしたとき真琴は不満そうな表情を浮かべてオレの方に顔を寄せてきた。


『涼樹のことが好きなんだよ!魅月に負けないくらいに!だから、魅月は涼樹に告白しちゃだめー!』

 魅月が現れて俺のことを好きだ、と言ったら真琴は顔を真っ赤にしながらそう言った。


『朝は冷えて澄んだ大気をゆっくり温めるように徐々に光を強める太陽が昇って、昼は雲が空を踊ってて、夕方は、夕日で真っ赤にそまる。そして、夜になったら星が瞬く。雨が上がった後は虹が出来る、曇ってても雲の隙間から光が漏れてくる。雨とか曇りはあんまり好きじゃないけど、こういう空も見せてくれるから嫌いにはなれないんだ』

 穏やかな顔を浮かべながら胸に手を当てそう言った。そのときの表情がオレの中で一番強く残っている。


 穏やかなあの表情が真琴の浮かべた表情の中で一番、好き、だった。

 

 好き、という言葉にオレは何かを感じた。

 なんだろうか。不思議な感じがする。けれど、未体験、という感じでもなかった。

 これはオレの気持ちを不安定にさせる。そして、何故だか心臓が脈打つのが少し、早くなる。

 真琴のことが頭から離れなくなり――。

 そこで、オレは理解した。自分の感じたものを。自分の気持ちを。

 オレは、真琴のことが、好きなんだ。

 いつの間にそうなっていたんだろうか。

 真琴が好きだと気がついたその瞬間のような気もするし、真琴に出会ったその瞬間のような気もする。でも、いつ、なんていうのはほんの些細なことなんだと思う。

 真琴が好き、それに気がついた、それだけでいいんだと思う。

 そして、気がついたならオレは行動しなければいけない。真琴の告白に答える、それがオレのすべき行動だ。

 と、ふと、魅月のことが頭をよぎった。あいつが、オレが真琴が好きだっていうことを知ったらどんな反応をするのだろうか。

 笑うのか、怒るのか、泣くのか、どんな反応もしてくれないのか、それらのどれになるのか予想することが出来ない。

 じゃあ、もし、オレが魅月を選んだ場合なら?たぶん、真琴はオレの前では今にも崩れそうな笑顔を浮かべて一人になったら泣いているんだろうな、と予想することが出来た。

 オレは今日一日、真琴しか見ていなかった。それは単に見ていたんじゃない。真琴の行動一つ一つを覚えるように頭の中に刻み込むように無意識のうちにじっくりと見ていた。

 もしかして、魅月はそんなオレに気がついたからあのとき、逃げて行ったのかな、とオレは唐突に思った。

 魅月はオレに見てもらえていなかったことが寂しくて、真琴ばかり見ているオレの隣にいづらくて逃げていった。もし、そうだとしたら、魅月には悪いことをしたな。明日、会ったら謝っとかないとな。

 そのあとに真琴の告白に答えてやらないといけない。けど、理由はないけれどそれは何とかなるような気がする。

 そんなことを思いながらオレは真琴の顔を思い浮かべていた。


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