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第14話 昼食は四人で

 昼食を食べるときの席の場所は予想通りのものとなった。

 まず、オレと母さんは自分の席――つまり、向かい合う位置に座っている。そして、オレの隣には真琴と魅月が半ば無理やりに座っている。

 本来は机の一つの面に椅子が二脚入るくらいの広さしかないのだ。そこに三脚も入れば狭いに決まっている。オレ達はほとんど密着状態になってしまっている。

「真琴、狭いから、あっちにいきなさいよ」

「嫌だよ。狭いんなら魅月が向こうに行けばいいんだよ。あたしは、涼樹とくっつけるからこれでいいんだよ」

 そう言って真琴はオレの腕に抱きついてくる。抱きつかれるのはもう何度目だかわからない。そのおかげなのかすっかり慣れてしまっている。

「こらっ!真琴、涼樹にくっつくんじゃないわよ」

 魅月は真琴をオレから引きはがすためか腕を伸ばす。

 母さんは真琴と魅月がぎゃあぎゃあ、と騒いでいるのを楽しそうに眺めている。

 そして、オレは小さく溜め息をつく。さすがに二人が何度も争っているのを見ていると疲れてきてしまった。

「二人とも早く食べるぞ」

 オレがそういった途端に二人はぴたっ、と言い争うのをやめた。

「そうだね。早く食べよっか」

 本当にこの二人、オレの言う事は素直に聞いてくれるんだよな。苦笑したい気持ちを抑えつつもそんなことを思う。

「沙耶さんの作った料理、美味しそうですね」

「そうかしらー?」

 魅月が言ったことに母さんはそう返す。そういえば、真琴と魅月が言い争っていたせいでどんな料理が並べられているのかしっかりと見ていなかった。

 オレは視線を机の上へと向ける。そこには綺麗に同じ大きさで切られたフランスパンがひとつの皿に盛られ、それぞれの前には空の底の浅い皿とシチューの入った皿があった。

 真琴と魅月が来たから絶対に失敗しないシチューにしたんだろうな。でも、フランスパンがあるってことは最初から昼食はシチューにするつもりだったんだろうか……。

「じゃあ、いただきます!」

 そんなふうにオレが考え事をしていたらいきなり真琴が食べ始めた。シチューをすくったスプーンを口へと運んでいく。

「沙耶さん、これ、すっごく美味しいですよ」

「そう言ってくれると嬉しいわー。少し多めに作ったから、もっと食べたかったら言ってねー」

「はい!」

 よほど美味しかったのだろう。真琴の声はとても弾んでいた。

 オレも食べてみることにした。

「「いただきます」」

 偶然にも魅月と声が重なった。ちらり、と魅月の方を見てみると魅月はなんだか嬉しそうだった。

 そういうところを見るとやっぱりオレのことが好きなんだな、と思う。そして、そう思うと、やっぱり早く二人のどちらが好きなのか決めなければいけないと思ってしまう。

 オレは必ずどちらかを選ばなければならず、そのときにふられたほうは傷ついてしまう。早く決めなければそれだけ傷は深くなってしまうような気がする。

 そこまで考えてオレは考えるのをやめる。今こんなところで考えたって意味がない。真琴と魅月。この二人と一緒にいるときはその時間を大切にしなければいけない。考え事をするのはオレが一人でいるときだけでいい。

 そう思いオレはシチューを口へと運ぶ。

 うん、やっぱり美味しい。母さんはこういう料理の方が向いてる。

「あ、これすっごく美味しいですね。今まで食べてきたシチューの中で一番くらいに。沙耶さんお店、開いてもやっていけるんじゃないですか?」

「うん、沙耶さんの料理なら大丈夫だと思いますよ」

 魅月の言ったことに真琴は同意する。オレのことが絡みさえしなければこの二人は仲良くやっていけるみたいだな。どうやら、オレの予想に間違いはなかったようだ。

 オレはそんなことを思いながら三人のやり取りを眺めている。

「無理よー。私にお店なんてー」

「なんでそんなに謙遜してるんですか?絶対に大丈夫ですよ」

「謙遜とかそういうのじゃなくてー、私の性格の問題よー」

「性格、の問題ですか?」

 声に出していったのは魅月だったが真琴もよくわからない、というふうに首をかしげている。

「私、すっごくマイペースなのよー。だから、お客さんが来たときにすごい長い時間待たせる自信があるわよー」

 そこは、自信を持って言うところじゃないんじゃないだろうか。まあ、でも母さんのマイペースっぷりは他の追随を許さないくらいだ。だからといって自信を持って言うかどうかといわれれば首をひねりたくなるところだ。

「あ、確かにそんな感じありますね。特に喋り方とかが」

「そういえば、涼樹もなんだかマイペースな感じするよね」

 魅月は母さんに話しかけ、真琴はオレに話しかけてきた。

「そうか?」

「うん。沙耶さんほどじゃないけど結構自分のペースで動いてる感じがするよ」

 うーん、そうだろうか。でも、周りに合わせて動いたことはほとんどないかもしれない。周りに合わせて動くことが嫌なわけではないが、自分のペースで動けるときは自分のペースで動きたい、という考えはある。そう考えたらマイペース、ということになるんだろうか。

 そういえば、マイペース、だなんていわれたのは初めてだ。それだけ真琴がオレのことを見ている、ということなんだろう。

「こら、真琴。なに、いつの間に自分だけ涼樹に話しかけてるのよ」

「ん?だって、涼樹だけ話に参加できてなかったんだよ。だから、寂しいかな、って思ってあたしが話しかけてあげたんだ」

 やっぱり、真琴はオレのことをちゃんと見てるんだな。寂しい、とは思ってなかったけど話に参加できていなかったのはほんとのことだ。

「うっ……。で、でも、逆に沙耶さんだけを会話に参加させないってわけにもいかないでしょう?」

 魅月の言っていることは少し言い訳がましい。もしかしたら、魅月はオレが会話に参加していなかったことに気がついていなかったのかもしれない。そして、それを自分でも認めたくない、そういうことなんだと思う。

「あ、それは考えてなかった。でも、あたしは涼樹が会話に参加してないっていうのが嫌なんだ。だから、あたしは沙耶さんを会話からはずしてでも涼樹に話しかけるよ」

「それって、沙耶さんに対して少し失礼なんじゃないかしら?」

 魅月はそう言っているが、母さんに限ってそれはないはずだ。マイペースということは人の輪にあまり固執しないということで会話に参加できないくらいどうってことないみたいだ。

「別に、私のことは気にしなくていいわよー。私はあなた達を見ているだけで楽しいわよー」

 実際に母さんはそう答えた。でも、それはマイペースだから、という理由だけではなかったみたいだ。

「でも、料理はちゃんと食べてほしいわねー。最初の一口の後からはずっと話してばかりで食べてないでしょー?」

 その言葉を聞いてオレ達は食事を再開した。


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