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第13話 後悔する心

「どういうこと、だよ」

 驚いてはいるけど、真琴にそれだけは聞かなければいけないような気がした。

「あたしが涼樹の前世の記憶を受け継がせたって言ったよね」

 ああ、そうだったな、とオレは頷く。

「実はね、記憶を受け継ぐ魔法を使うときあたし、結構無理しちゃってたんだ」

 どういうことだ?、と思ったがオレはすぐにある仮定が思い浮かんだ。

 真琴はあの鎖に繋がれていた間魔法を封じられていたんじゃないだろうか。というか、そうじゃなかったら真琴はとっくに逃げてしまっているはずだ。鎖は壊さず鎖のついた地面を破壊して。

「もしかして、あの鎖に繋がれてた間は魔法が使えなかったのか?」

 とりあえず、確認のために聞いてみる。

「うん。涼樹のいうとおりあたしはあのとき魔法が使えなかったんだ。でも、涼樹が鎖を切ってくれた瞬間。あたしが死ぬ間際。そのほとんど一瞬といっていいほどの時間の間にあたしは魔法を使ったんだ。そうやって無理やり魔法を使った結果、あたしの中の魔力が暴走しちゃったんだ」

 真琴はどこか悲しげな、後悔したような表情を浮かべる。魅月はそれに気がついた様子はない。

「でも、あなたが死んだ瞬間は何も起こらなかったわよ。少し時間差があって白い光に包まれたけどそのときは涼樹が消えただけだったわ」

「多分、世界中にあたしの魔力が広がってから人類の退化と文明の消去と魔物の消滅が起きたんだと思うよ。魅月、涼樹とあたしが消えたって気がついてからすぐに記憶を受け継ぐ魔法を使ったんじゃない?あたしが消えてからあたしが考える限りでは数分くらいは時間があったはずだから」

「うーん……。確か、そうだったと思うわ」

 真琴の問いに魅月は少し考えてから答えた。

「……でもね、あたしがさっき言ったの半分くらいはあたしの仮説、なんだ」

 自分の言っていることが仮説ではないと思っているような声。

「自分の中の魔力が暴走した、っていうことはちゃんと覚えてるんだけど、その後のときは意識がなくなってたからわからないんだ……」

「なあ、真琴」

 真琴が悲しんでる、後悔している、と考えていたらいつの間にかオレは口を開いていた。

「なに?涼樹」

「お前、もしかして無理やり魔法を使って人類や魔物に影響を与えたかもしれないこと後悔してるのか?」

 一瞬、真琴は驚いたような表情を浮かべる。けど、次の瞬間には悲しげな表情へと変わる。

「……うん」

 真琴は小さな声でそれだけ答えた。

「やっぱりな。……でも、気にすることなんかないんじゃないか?結局ただの仮説なんだろ?だったら、そんなことを気にして後悔してても意味ないだろ?」

「でも、それ以外に原因なんてないんだよ?だから、あたしのせい、としかいいようがないんだ」

 初めて聞く真琴の自虐的な声。オレは真琴にそんな暗い声を出してほしくない、と思っていた。だから、

「そんなに自分を責めなくていいだろ。今の平和なこの世界を作ったのは自分だ、そう思えば少しは気が楽になるだろ?」

「でも……」

「でも、じゃねえよ。確かに、消えちまった魔物たちや人間たちは可哀想かもしれねえけど、しかたないだろ?それに、オレは真琴にこんな平和な世界に飛ばしてもらって感謝してるって言っただろ?だから、真琴はそんなに悔やまなくてもいいんだよ」

「涼樹……」

 真琴がオレの名前を呟く。後もうちょっと。後もうちょっとで真琴が悔やんでいることを楽にしてあげれる。オレはそう思って更に言葉を紡いでいく。

「それに、今更そんなこと悔やんだって仕方ないだろ?昔は力があったかもしれないけど今は単なる高校生だ。真琴は魔物を創り出せる、なんて力を持ってるけど、世界を救えるような力は持ってないだろ?」

「うん……」

「だから、魔物を消して、人類の歴史をリセットさせたことを悔やんだってどうすることも出来ないんだよ。……それでも、悔やんでるっていうんなら消したやつらの分も幸せに生きてやれ」

 これは単なる真琴を後悔から逃がすための一言でしかない。けど、真琴が前世のことなんかを気にかけて悲しんだり、悔やんだりする必要なんか全くない。

 むしろ、自ら望んできたっていうなら自分の生きたいように、自分の満足のいくように生きるべきだとオレは思う。

「……ありがとう、涼樹」

 そんな静かな声が聞こえてきた。

「あたし、もしかして誰かに自分がしたことからかばってほしかっただけなのかな?涼樹の言葉を聞いてすごく楽になれたよ」

 そう言ってから真琴は正面からオレに抱きついてきた。オレはいきなりのことに驚いたがそれだけだった。視界の端で魅月が驚いたまま固まっているのが見えるが気にしない。

 オレは真琴の頭を撫でてやる。真琴の髪はとてもさらさらでさわり心地がよかった。

「涼樹はあたしのことを責めないんだよね?あたしは自由に生きていいって思ってるんだよね?」

 少し不安で揺れる確認をするような声。真琴はオレの最後の肯定の言葉がほしいようだ。だから、オレはなんの迷いもなく答えてやる。

「ああ」

 短いそれだけの言葉だがオレはそれだけで十分だと思った。別の言葉を混ぜて飾り立てた方が嘘のように聞こえるような気がしたからだ。

「うん、よかった」

 安心したような声。オレに抱きつく腕に少し力がかかる。

「これで、あたしは涼樹をあたしに振り向かせることだけに集中できるよ」

 真琴は顔をあげる。ひどく近い位置に真琴の顔がある。

 オレと真琴はじっと見つめ合っている。体を動かしたいのに動かすことが出来ない。

 胸の鼓動が早くなりじょじょに何も考えることが出来なくなってきて――――

 いきなりオレと真琴の間に手が現れた。それは乱暴に開かれオレと真琴を無理やり引きはがす。

「な、なに二人でいい雰囲気をつくってるのよ!それに真琴、涼樹にくっつきすぎよ!涼樹にくっついていいのはわたしだけなのよ!」

 そう言うと魅月がいきなり抱きついてきた。

「うわっ!」

 魅月は勢いをつけて抱きついてきたみたいでオレはベッドの上に押し倒される。

「み、魅月、いきなり何するんだよ!」

 いきなり抱きつかれたことに狼狽してしまいオレはそう叫びながら上に乗っている魅月を隣に落とす。それからオレは上体を起こそうとしたけれど魅月に抱きつかれているせいでそれはできなかった。

「なっ!なんで、真琴に抱きつかれたときと違ってそんなに焦ってんのよ!」

 魅月の怒ったような顔が目の前に来る。どうやら魅月はオレが焦っていることが不満なようなだ。

 魅月はオレに抱きつくのをやめるとベッドに座りなおす。オレもそれにならう。

 そういえば、さっき真琴に抱きつかれたときオレは驚いたものの焦ってはいなかった。

 あのときの真琴はとても不安そうだった。彼女の望むとおり抱きしめてあげなければ泣き出してしまうような気がした。

 そんな思いがオレの中から焦りを消し去ってくれたんだろう。

 でも、冷静になってあのときのことを思い返してみるとすごく恥ずかしくなってきた。普段の自分なら言わないような恥ずかしい台詞。それがオレの恥ずかしいという思いに更に拍車をかける。

 そんなことを思っていたら隣に真琴が腰掛けてこう言った。

「それは、涼樹があたしのことを大切に思ってくれているからだよね」

 嬉しそうな、声だった。

 なんでかはわからないけど真琴のそんな声を聞いているとこちらまで嬉しくなってしまう。

 真琴のほうを見てみると真琴は笑っていた。そんな表情を見てオレも真琴に笑いかけた。

 もう、大丈夫そうだった。真琴はもう、前世の記憶で苦しんだり悔やんだりすることはないだろう。そう思うと安心もした。

「涼樹はなんで真琴の方ばかり見てるのよ」

 魅月の方を見るとうらめしそうな表情で魅月がこちらを見ているのが目に入った。

「い、いや、この場合は仕方ないんじゃないのか?」

 魅月のうらめしそうな表情に多少たじろぎながらもそう答える。

「……確かにそうかもしれないけど、わたしは涼樹に見ていてほしいのよ。わたしの好きな人が他の人を見ているなんて許せないわ」

 少し不機嫌そうに口を尖らしている。

「それはあたしだって同じだよ!涼樹はあたしのことだけを見てくれればいいんだよ!」

 いきなり反対側から真琴が肩に軽く抱きつきながらそう言ってきた。そして、魅月と睨み合う。

 いや、真琴の顔は見えないので本当に睨みあっているかはわからない。けど、魅月はオレの顔の横の方を睨んでいる。だから、オレは魅月が真琴と睨みあっているんだと思った。

 二人は睨みあった状態のまま硬直する。

 今更だがオレは真琴の顔がすごく近い位置にあるということに気がついた。真琴の息遣いが聞こえてくるほどだ。それを意識すると落ち着かなくなってきた。

 だから、少しでも気を紛らわせようと今日の昼ごはんはなにかな、とか考えてみる。

 すると、丁度よく扉を叩くこんこん、という音が聞こえてきた。その途端に部屋の真ん中のほうにいたネーラが真琴の鞄の方へと向かって飛んでいった。たぶん、オレ達以外に姿を見せるつもりはない、ということだろう。

「入るわよー」

 母さんの声が聞こえてきた。そして母さんはオレが何か言うよりも早く勝手に部屋の中に入ってきた。いつものことだからそれほど気にしたりはしないけど。

「お昼ご飯の準備がー……って、邪魔しちゃったかしらー?」

 今のオレたちの状態を見て何を思ったのか母さんはそう言った。

 女の子二人に囲まれて一人はオレの肩に抱きついてて女の子が睨みあっている。それは、第三者から見たらどんなふうに見えるんだろうかと他人事のように考える。

 真琴と魅月は依然睨みあったままだ。母さんが来たことには気がついているんだろうか。たぶん、気がついていないような気がする。

 とりあえず、オレは止まってしまったこの部屋の時間を動かすために口を開く。正確にはオレが止めてしまったようなものだ。母さんは質問をしてオレが答えてくれるのを待ってくれているだけなのだから。

「えっと、母さんは何しに来たんだ?」

 母さんに聞かれたこととは関係ないことのような気がしたが深くは気にしない。

「お昼ご飯の時間だから呼びに来たのよー」

 母さんはオレが全然関係ないことを聞いたことに関して気にしていないようでいつもどおりに答える。

「わかった。じゃあ、母さんは先に降りてて、後でこの二人連れて行くから」

「ええ、わかったわー」

 母さんはそう言ってオレの部屋から出て行った。とりあえず、深く言及されないでよかった。

「おーい、二人ともごはん、出来たってよ」

 睨み合っている二人にオレはそう言う。

「ひゃう!」「ひう!」

 それぞれが変な悲鳴をあげる。普通に声をかけただけで驚くくらいこの二人は睨みあっていたようだ。

「え、えっと、りょ、涼樹、いきなり何の用かな?」

「え、ええと、涼樹、いきなり何の用かしら?」

 真琴と魅月は変な声をあげてしまったことが恥ずかしいのか顔を赤くしている。というか、オレの言ったことの内容が聞こえていなかったようだ。

「昼ごはんの準備できたらしいから下に行くぞ、って言ったんだ」

 オレは先ほど自分が言ったことを繰り返す。

「あ、そうなんだ。じゃあ、早く行こう」

「そうね。早く行きましょう」

 二人はほとんど同時に頷いた。

 ほんとうにこの二人は仲が悪いくせに息だけはぴったりだよな。いや、オレのことがなければきっとこの二人はとても仲がよくなっていただろう。

 そんなことを思いながらオレは真琴と魅月をつれて下へと降りていった。


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