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第11話 二人を連れて

「ここが涼樹の家なんだぁ」

 宣言どおりに二人はオレの家までついてきた。真琴は何がそんなに珍しいのかオレの家を見上げて感嘆の声を上げている。しかも、しがみつくのをやめて。

 普通の家だと思うんだけどな。二階建ての一軒家。何の特徴もないので同じような家を探すのには全く苦労しないだろう。そう思っていまだにしがみついたままの魅月の方を見る。

 魅月はたいして驚いたり感動したりしているようではなかった。まあ、これが普通の反応だよな。

 そう思ってオレは改めて真琴のほうを見る。真琴はまだオレの家を見上げていた。

「真琴はなんでそんなにオレの家を珍しそうに見てるんだよ」

 オレがそう聞くと真琴はくるり、と半回転してオレの方を見る。

「これが涼樹の住んでる家なんだな、って思ってね」

 嬉しそうな笑顔で言う。それからオレの方に近づいてまた腕にしがみつく。

「大好きな涼樹について知れてすっごく嬉しいんだ」

 真琴の表情が嬉しそうな笑顔からはにかむような笑顔に変わった。

 こういう場合、オレは何か言った方が良いんだろうか。けど、何を言えばいいんだ?

 そんなことを考えてたら突然、扉の開く音が聞こえた。

「あらー、誰かが涼樹、って呼んでるのが気になって出てみたけど、こんなことになってるとは思わなかったわー」

 それから聞こえてきたのは間延びした母さんの声だった。

「涼樹ー、こういうのを両手に華っていうのかしらー?」

 オレに聞くな。ていうか、答えられるわけないだろ!

「あ、あの、あなたは涼樹の母、ですか?」

 丁寧な口調で魅月がそう聞く。オレの母さんのいきなりの登場に驚いているようだった。

「ええ、そうよー。私が涼樹の母の北沼沙耶(さや)よー。あなた達の名前はなんていうのかしらー?」

 母さんは自分の名前を答えた後、首を傾げながら二人にそう聞く。

「えっと、あ、あたしは神川真琴、です」

「わたしは柳川魅月です」

 対照的な二人だった。真琴は緊張していて言葉につまりつつ答えているのに対して魅月は落ち着いていて流暢な言葉遣いで答えていた。

「真琴ちゃんに、魅月ちゃんねー。二人とも、可愛い顔してるわねー」

 二人のことをじっと観察していた母さんがそんなことを言う。

「ふふ、それであなた達は涼樹とどういう関係なのかしらー?腕にしがみついてるってことは普通の関係じゃないわよねー」

 楽しそうな母さんの声。いや、母さんは楽しんでる。オレのこの状態を見て確実に楽しんでる。

「あたしは」

「わたしは」

 オレの母さんが楽しんでいるということに気がついていない二人は同時に言い始める。お互いに譲る気はないらしくそのまま続けられる。

「「涼樹の恋人候補です!」」

 二人の声は綺麗に重なってた。やっぱり、真っ直ぐにそういうことを言われるとすごく恥ずかしい。

「そうなのー。それで、涼樹はどっちを選ぶつもりなのかしらー?」

 母さんはオレの方を見る。

「どっちを選ぶって言われてもまだわかんねえよ。どっちが好きかなんて」

 オレがどっちの方が好きか、それを決めていればこんなことにはなってなかったと思う。

「まあ、そうよねー。決めてたらそんなふうにはなってなかったわよねー」

 母さんもそれはわかっているようだった。

「でも、早く決めてあげるのよー。そうしないと、二人共に逃げられるわよー」

 母さんの言うことは最もだと思うけどその逃げるかもしれない本人達がいる前でそんなこといわないで欲しい。なんだか複雑な気分になってしまう。

「大丈夫ですよ。わたしは決して涼樹から逃げたりしません。涼樹がどちらか一人を選ぶまでずっと一緒にいるつもりです」

 魅月の、オレの母さんにむかって告げる声はとても自信がこもっていた。

「あ、あたしも涼樹から逃げたりしないよ!あたしは、涼樹以外に心を許すつもりはないもん」

 真琴の言葉はオレの母さんへの言葉ではなく、オレへの言葉だった。魅月の言葉よりも聞いていて数倍、恥ずかしい。

「ふふ、涼樹は高校生活初日から面白い関係を作ったのねー。これは楽しみがいがありそうだわー」

 オレの耳にそんな母さんの呟きが聞こえてきた。絶対に毎日の生活に平穏は望めそうにない。

 いや、オレがどちらが好きか、それを決めれば平穏は取り戻せるのだと思う。けど、オレのふったどちらかがオレの決めたどちらかといざこざを起こす可能性は大いにある。

 だから、オレはどちらが好きか、ということを簡単に決めたくなかった。オレが本当に好きだと思えた人。その人をオレは選びたい。

 でも、好き、になるというのがどういうことなのかわからない。何をもって好きだと判断するのか、オレはそれを知らない。

 真琴と魅月は何を持ってオレのことを好きだと判断したんだろうか。前世のことが関係しているってことはなんとなくわかる。二人とも今のオレに一目惚れをした、という感じではなかったから。

 そこまで考えてオレは考えるのを中断した。外に突っ立って考え事をしてても疲れるだけだ。そう思って一歩踏み出そうとして、思い出した。

「そういえば、お前ら、どうするんだ?オレの家まで来たけどこのまま帰る」のか?

 途中でオレは言葉を切った。切らざるを得なかった。真琴も魅月も帰るつもりは全然ないようでオレの腕にしがみついたままだ。

「あたしはまだ帰りたくないな。涼樹の家に入ってみたいから」

「わたしだって帰るつもりはないわ」

 二人の言葉を聞いた後、オレは母さんの方を見る。どうするんだ?、という意味を込めて。

「私は別にいいわよー。ついでに、お昼ご飯も一緒に食べましょー?」

 母さんはオレがなんとなく予想していたとおりのことを言う。

「「ぜひ!」」

 そして、真琴と魅月の声は重なっていた。この二人、オレのことになるとかなり息が合うよな。

 そんなことをオレは考えていた。

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