第9話 互いに譲らない二人
なんだかよくわからないけれど、オレは真琴と魅月と一緒に帰ることになった。しかも、二人ともオレの腕にしがみついている。そのせいで少し歩きにくい。
ちなみに、ネーラは真琴の鞄の中に入っている。さすがにあんな変な生き物が外にいたら目立つだろう。いや、オレが真琴と魅月にしがみつかれている時点でオレ達は目立っているような気がする。ネーラが外で浮いているのとは別の意味でだけれど。
「なあ、お前らくっつきすぎで歩きにくいから離れてくれねえか?」
せめて、少しでも離れてもらおうとオレがそう言うと二人は素直に少しだけ離れてくれた。
とりあえず、真琴と魅月はオレの言うことは素直に聞いてくれるようだ。けど、真琴と魅月が向かい合ったら素直じゃなくなる、というか互いに譲らなくなるんだよな。
そんなことを思いながらオレは教室でのやり取りを思い出していた。
「オレ、そろそろ帰るから、お前らもちゃんと帰れよ」
真琴と魅月が言い争っているのを数分ほど眺めてからオレはそう言った。
「え、帰るの?だったら、あたしも帰る」
「そうね。帰りましょうか」
さっきまでの言い争いが嘘だったかのように二人はオレの方に笑顔を向ける。なんというか、オレは複雑な気持ちになった。なんでオレに笑顔を向けているのかわかっているぶん余計に。
そんなことを考えていても仕方がないのでオレは自分の鞄を取ろうとした。そこで、オレは気がついた。オレ達の周りの椅子や机がぐちゃぐちゃになっていることに。
「これ、直しといた方がいいよな」
オレはそう言う。
「うん、そうだね。直しておいたほうがいいと思うよ」
「じゃあ、早く直してから帰りましょう」
その声を合図にして、オレ達は片付けを開始した。まずオレは手近な机を起こす。
何も入っていない机はとても軽く、簡単に起こすことが出来た。これなら結構早めに終わることができるだろう。今日が入学式だったということが幸いした。
机の中に教科書とかを置いていくやつは絶対にいる。そういうやつの机を倒したら中身が出てしまい片付けるのが面倒くさくなる。しかし、今日は入学式。初日から教科書を持ってきているような奴は一人もいない。
そんなことを考えながら二つ目の机を起こそうとしたとき、
「あたしも、手伝ってあげるよ」
そう言って真琴がオレの持っているのとは逆の方を持って机を立ち上がらせる。確かに、一人のときより起こしやすいことは起こしやすかった。
けど、わざわざ二人でやるもんじゃないだろ。そう思って今度は椅子を起こそうとすると、
「涼樹、わたしも手伝うわ」
魅月はオレが起こそうとしていた椅子を持ち始める。そして、真琴までもが椅子を持つ。
何故か、オレ達三人は椅子を持ち上げてしまう。ただたんに、三人が一斉に椅子を立ち上がらせようと腕を上げた結果、持ち上がってしまっただけなんだが。
「魅月、あたしが最初に涼樹に手伝うって言ったんだよ。だから、邪魔しないでよ」
「そんなの関係ないわよ。わたしが手伝いたいと思ったから手伝ってるのよ」
椅子を持ち上げたまま真琴と魅月が睨みあう。第三者の視点から見たらかなりおもしろい光景だと思う。普通、三人で同じ椅子を持ち上げたまま向かい合った二人が言い争ったりしないだろう。
でも、真ん中に立っているオレはおもしろいという感情を持つ余裕がない。とりあえずオレは、二人を落ち着かせようと間に入る。
「オレは一人で持てるし、三人でやったらかなり効率悪いから分担してやるぞ」
その途端に二人は大人しく手を離した。オレはゆっくりと椅子を床に下ろす。これで、とりあえず一件落着か?、と思った途端、
「だったら、あたしだけ手伝ってもいいよね」
真琴がオレの隣に並んでそう言う。それに、負けじと魅月も、
「真琴が手伝うよりもわたしが手伝った方がいいに決まってるわ」
と、言ってオレの隣、真琴が立っている反対側に立つ。どうやら、二人ともどうしても俺と一緒に作業をしたいらしい。
「魅月はあたしが役立たずだって言いたいのっ!?」
「ええ、端的に言えばそういうことになるわね」
二人はまたオレを挟んで睨みあいをはじめる。
「ああ、もう!これぐらいはオレ一人で出来るからお前らは他のところを片付けてくれ!」
少し強い口調でオレは言った。
「うん、わかった……」
「涼樹がそう言うなら仕方ないわ」
少ししょんぼりとしながらも二人は素直に従った。いま、わかったが真琴も魅月もオレの言ったことは素直に聞いてくれるらしい。
そういうことなら、大きな問題が起きることもないだろう。オレが止めればいいんだから。でも、これから起きる二人のいさかいを考えたら自然と溜め息が出てきた。
「涼樹、どうしたの?疲れたの?」
「疲れたんだったら涼樹は休んでていいわよ。あとはわたしが片付けとくから」
オレが溜め息をついたことに気がついた二人は気遣わしげにオレの方に近寄ってくる。
「いや、いいよ。これぐらいなんとかなる」
優しくしてくれるのは嬉しいんだが、溜め息の原因はまさに優しくしてくれてるこの二人なんだよな。
「そう、ならいいわ。でもわたしは言ってくれたらすぐに手伝ってあげるわよ」
「涼樹、無理はしちゃだめだよ。あたしがいるんだからあたしが手伝ってあげるよ?」
オレの手伝いをするのは諦めてなかったようだ。
「オレの手伝いは本当にいらないから、早く片付けてくれ」
三回目の指示。それでやっと真琴と魅月はオレから離れて片づけを始めてくれた。
分担して仕事をしようって言うだけでこれだけの時間がかかるとは思わなかった。これからも、同じようなことが起こるのか、と思うとまた溜め息が出た。
そうしたら、また二人に心配されて近寄られてしまった。