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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

婚約破棄イベント、ヒロインにセリフごと横取りされて百合になる

掲載日:2026/05/16

「ミミリア公爵令嬢。私は、あなたとの婚や──」


きらびやかなシャンデリアが輝く、きらびやかな夜会会場。そのど真ん中で、この国の王太子であるエドワード殿下が、勝ち誇った顔で私を指差していた。


ついに来た。


私の前世の記憶が確かなら、これは乙女ゲーム『恋する令嬢のティータイム』のエンディング。


いわゆる、悪役令嬢(私)への婚約破棄イベントというやつだ。


周囲の貴族たちが、ヒソヒソと憐れみの視線を私に向けてくる。


だが、公爵令嬢である私は、ここで取り乱すわけにはいかない。完璧な淑女の微笑みを浮かべ、優雅に扇子で口元を隠し、殿下の破棄宣言が終わるのを待つ。


その時だった。



『バァァァァァン!!!』



地響きのような爆音を立てて、夜会会場の重厚な大扉が蹴破られた。あまりの衝撃に、会場にいた全員の肩がビクッと跳ね上がる。


扉の向こうから会場内の煙と共に現れたのは、息を荒くした一人の少女。ゲームの本編ヒロインであり、殿下が本気で惚れ込んでいるはずの、男爵令嬢のクレアだった。


「──約を破棄するっっっ!!! 間に合ったぁぁ!!!」


「はっ?クレア……?」


殿下の口から、完全に間の抜けた声が漏れた。


そうなるのも当然だ。


自分が今まさに言おうとしていたセリフの後半を、一番言っちゃいけない相手に思いっきり横取りされたのだから。


しかし、男爵令嬢クレアは、呆然とする殿下を1ミリも視界に入れない。彼女の目は真っ直ぐに、この私だけを捉えていた。


『タッタッタッ』と、令嬢らしからぬ猛ダッシュでドレスを翻し、クレアは私の目の前まで詰め寄る。


そして、私の両手を『ガシィィィッ!』 と、骨が軋むほどの力で握りしめた。


その瞳は、大好物のご馳走を目の前にした猛獣のようにギラギラと輝いている。


「私はここに、真実の愛を誓います!」


クレアの突然の告白(?)に、会場が静まり返る。だが、一番状況を分かっていない哀れな殿下が、フッと鼻で笑って調子を取り戻した。


「おお……! そうだろう、そうだろう! やはりお前も私を愛して──ミミリア公爵令嬢! 聞いたか、私はこのクレア男しゃ──」


「私はミミリア公爵令嬢との愛を誓います!!」


「……へ?」


殿下の言葉は、無残にも途中で遮られた。


静まり返る会場に、殿下のマヌケな声が響き渡る。


殿下、違う。その子はあなたじゃなくて、私に向かって愛を誓っているの。


私は、差し出されたクレアの手を見つめながら、困惑を隠せなかった。公爵令嬢としての仮面を保ちつつ、なんとか冷ややかに問いかける。


「……あの、クレア男爵令嬢? 私とあなたは同性ですし、そもそも私たちは今日が初対面のはずですが? 殿下への嫌がらせなら、他所でやっていただきたくてよ」


淑女の手本のような、冷たい拒絶。普通なら泣き出すか、恥じ入る場面だ。しかし、クレアは満足げに『ニヤリ』と笑うと、次の瞬間、とんでもない行動に出た。


『ピカッ』と、


夜会会場のシャンデリアが、一瞬だけ不自然に激しく輝いたのだ。まるで、何かのゲームの「クエスト達成エフェクト」のように。それを見たクレアは、天を仰いで涙を流した。


「しゃあぁぁぁぁ!!! イベントクリアぁぁ!! よっしゃあぁぁ!!」


ドレス姿のまま、力強いガッツポーズを何度も繰り出す男爵令嬢。周囲の貴族たちが、恐ろしいものを見る目で一歩、また一歩と後ろに下がっていく。


「え……? あ、あの、クレア……?」


置いてけぼりにされた殿下が、震える声で彼女を呼んだ。


クレアはハッと我に返ると、慌ててガッツポーズを引っ込め、殿下に向き直って完璧な淑女の礼をした。


「……失礼いたしました、王太子殿下。あなたの事は、とても好きでした」


「お、おお……! そうだろう、そうだろう! やはり私を愛して──」


「イベントキャラとして、とても好きでした。バグが多いので、アプデで修正されてほしいレベルには愛着があります」


「は……? いべんと……? あぷで……?」


殿下の口から、この世界の誰も知らない謎の単語が漏れ出す。


殿下、もう喋らないほうがいいわ。その子はあなたを同じ人間だと思っていないから。


「あの、クレア男爵令嬢? 先ほどからイベントだのアプデだの、一体何の話をされておりますの?」


私はひきつる笑みを必死に堪えながら、公爵令嬢としての声を絞り出した。


これ以上、この狂人に夜会をかき乱されては、公爵家の名誉に関わる。しかし、私の言葉を聞いたクレアは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「ふふ、公爵令嬢。あなたがまだ『お嬢様モード』を崩さないというのなら……これを見ても同じことが言えますか!?」


「は──?」


次の瞬間、クレアは躊躇なく自分の豪華なドレスのスカートを、両手で『フワリ』と捲り上げた。夜会会場に、貴族たちの「なんてはしたない……!」という悲鳴が響き渡る。


だが、私の口から出たのは、悲鳴ではなく「完全な凝固」だった。


クレアのドレスの裏地。


そこには、純白の安全ピンでガチガチに固定された、『私(公爵令嬢)』の特大ぬいぐるみが鎮座していたのだ。


あまりの精巧さに、脳が処理を拒否する。


いや、ちょっと待って。


そのぬいぐるみが着ているドレス、私が先週クローゼットから無くした、お気に入りの限定仕様の刺繍ドレスの一部じゃない?


「見てください公爵令嬢! 今日の私のドレスも、ヒールも、扇も、すべてあなたとお揃い(ペアルック)です! 前回のループであなたが『来年の夜会はこれが流行りそう』と呟いたのを一言も逃さず再現しました! ちなみにこのヒールは、あなたが先週紛失した実物です!」


「……(ストーカー!? 怖い!)」


ドン引きする私を余所に、クレアは裏地の人形にうっとりと頬ずりをしている。


だが、私の脳内にある『もう一つの記憶(前世のオタク脳)』が、突如として激しく警報を鳴らし始めた。


待って。


あの独特な、少しタレ目で愛らしいデフォルメの付け方。


限界までこだわり抜かれた、フリルの細部までの美しい縫い目。


そして何より、私の魅力を200%引き出している、圧倒的な『解釈の一致』の神々しさ。


このクオリティ、この世界に存在するはずがない。


前世のネットの海で、私が毎晩、血眼になってイラストや同人誌を漁っていた、あの御方の作風に酷似している──。


私は、知らず知らずのうちに一歩前に踏み出していた。


公爵令嬢としての、おしとやかな皮が、ピキピキと音を立てて剥がれていく。


「……ちょっと、あなた」


「はい? なんでしょうミミリア公爵令嬢?」


「あなた、まさか、前世でのサークル名……『ホワイト・リリー』の『百合園ゆりぞの先生』……っ!? 『狂信的百合』ってアカウント、見覚えありませんか!?」


私の口から飛び出した、この世界の誰も知らないコトバ。それを聞いた瞬間、クレアの動きがピタリと止まった。


彼女は目を見開き、信じられないものを見るように私を見つめ返した。


「えっ!?……あ、あなた、まさか、私の新刊が出るたびに、長文の考察マシュマロを毎晩送りつけてくれて、全ての固定ツイートを爆速でリツイートしてくれていた、フォロワーの『狂信的百合の使徒』ちゃん……!?」


「「神(先生)ーーーー!!!???」」


「「熱狂オタク(お前)かーーーー!!! 」」


『ガシィィィッ!!!』


私たちは、夜会会場のド真ん中で、大洪水のような涙を流しながら、互いの手をこれでもかと固く握りしめた。


「嘘でしょ、先生! なんでここに!? というか、今日のぬいぐるみの解釈、神がかってます! 生きててよかった!」


「私の方こそびっくりよ! 私の描いた百合を、いつも『尊さの極み』って大絶賛してくれたあなたと、まさか異世界で相互フォローできるなんて……!」


お嬢様の皮なんて、もうどこにも残っていなかった。


ただの「限界百合オタク」と「神作家」の、感動の聖地巡礼が始まってしまったのだ。


「な、何なんだお前たちは! まさか…クレアの名を語る偽物か? 警備兵! この不届き者どもを早く──!」


顔を真っ赤にした殿下が叫ぶ。

しかし、神百合作家と熱狂百合オタクの視線が、同時に冷たく殿下へと向けられた。


「警備兵だと? 気安く呼ぶんじゃないわよ、この異物が」


クレア──いや、前世の百合園先生が、冷酷な目でエドワード殿下を睨みつけた。


その視線は、お気に入りの漫画のコマに突然割り込んできた、落書きを見るかのようだった。


「ひえっ!?」


あまりの覇気に、殿下が情けない悲鳴をあげて一歩下がる。


「ちょっと先生、落ち着いてください。先ほど『イベントクリア』って仰ってましたけど、一体どういうことですの?」


私は優雅な仮面が外れそうになりながらも、オタクとしての本性全開で先生に食いついた。


「よく聞いて、使徒ちゃん。この世界はね、私たちが前世で『百合の間に挟まる男は全員、法的に排除されるべき』ってネットとか、町中で熱弁してたから、転生させられた【百合ゲーム】の世界なのよ」


「……百合ゲーム? 殿下がヒロインを奪い合う、あの乙女ゲームではなくて?」


「そう! ゲームのシステム側は『婚約破棄イベント完了』っていう文字列フラグだけで進行を判定してるの。だから、王太子が言うはずの『破棄する』ってセリフを私が横取りしてあなたに叩きつければ、システムが『イベント完了!セーフ!』ってガバガバな判定で通しちゃうのよ!」


先生の口から語られる、衝撃のメタ事実。


「もしこれをやらずに、王太子が普通にあなたを婚約破棄して私を選んだら……『百合エンド』のルートから外れたとみなされて、世界がエラーを起こして強制再起動ループするの。最初からやり直しよ! めんどくさすぎるでしょ!?」


「な、なんですって……!? 最初の『婚や……』まで巻き戻るってことですの!?」


「そうよ! だから私は、大切な推しとの生活を守るため、これまでのループで王太子があなたにウザ絡みするのを、裏で物理的に暗殺してイベントを阻止してきたの! でも、推しの供給が途切れるループ期間はもう限界! だから今日、力技でイベントをクリアしたのよ!」


先生の口から明かされる、壮絶な裏工作の数々。


なんて尊い執念。


なんて圧倒的な行動力。


さすがは前世で週刊連載を落とさなかった神作家である。


「なるほど、理解しましたわ。つまり、このまま私たち二人が真実の愛を誓い合えば、システム的には『完全なハッピーエンド』として処理されるわけですわね?」


「その通りよ、使徒ちゃん!」


私はフッと不敵に笑うと、先生の手をギュッと握り返した。


「だったら話は早いですわ。先生のプロット、この私が最高のファンとして、完璧に演じきってみせます!」


「使徒ちゃん……! ああ、なんて素晴らしい解釈の一致……!」


私たちが夜会の中心で熱い絆を確かめ合っていると、完全に蚊帳の外に置かれていた殿下が、プルプルと震えながら割り込んできた。


「お、お前たち……一体、何を言っているんだ……? 婚約破棄はどうなるんだ! 私はクレア、お前を愛して──」


「うるさいわね定型文。音声ミュートにするわよ」


「殿下、もうお引き取りください。私たちは今、非常に重要なイベントの最中ですので」


冷たくあしらわれた殿下は、「NPCの自動音声」以下の扱いを受け、その場にガックリと膝をついた。


周囲の貴族たちは、あまりの不条理な光景に「関わったらヤバい」と察し、誰一人として王子の味方をしようとはしなかった。


「さあ先生、最後の仕上げをいたしましょう!」


「ええ、最高のエンディングを見届けましょう!」


『ピカァァァァァ!!!』


夜会会場のシャンデリアが、今までにないほど眩い光を放ち、世界にフラグ成立のファンファーレが響き渡った。


私たちはそのまま、夜会会場の全員の前で堂々と退場した。





あの大波乱の婚約破棄夜会から、数ヶ月が経った。


初夏の爽やかな風が吹き抜ける公爵家の庭園で、私は優雅にティーカップを傾けている。


私の目の前には、相変わらずドレスの裏地に私の特大ぬいぐるみを仕込んだままの、最愛の神作家──クレアが座っていた。


「ねえ、使徒ちゃん。今日のシフォンケーキ、めちゃくちゃ美味しいわね」


「ふふ、先生にそう言っていただけて光栄ですわ。前世の先生の商業誌をイメージして、料理長に何度も試作させた甲斐がありました」


「やっぱり使徒ちゃんは最高のファンよ! 意見の一致が完璧すぎる!」


私たちは今、誰にも邪魔されない平和で尊い「百合お茶会」の時間を満喫していた。


あの夜会の後、世界が巻き戻る(ループする)ことは二度となかった。


システム側は、私と先生が夜会の真ん中で手を握り合い、真実の愛を誓った時点で『百合ゲーム・完全攻略』と判定したらしい。


国家転覆の危機(?)を救った(?)として、私たちは国王陛下からもお咎めなし。


それどころか、あまりの二人の絆の強さに、周囲の貴族たちからは「なんと気高く、美しい。まるで姉妹だ……」と、勝手に神聖視されて大人気になっていた。


すべてがハッピーエンド。私たちの勝利だ。


「そういえば先生。例の『異物』だったエドワード殿下、今どうされているかご存知?」


私がクスクスと笑いながら尋ねると、先生はあからさまに嫌そうな顔をして、紅茶を『ゴクリ』と飲み干した。


「ああ、あのポンコツNPC(王太子)? あの夜会のあと、公爵家との婚約を独断で破棄しようとしたペナルティと、夜会を大混乱に陥れた責任を取らされて、速攻で王位継承権を剥奪されたわよ。今は王都の端っこで、ただの平民として畑でも耕してるんじゃないかしら」


「まあ、当然の報いですわね」


百合の間に挟まろうとした男の、哀れな末路。


社会的追放を受け、本人は失意のどん底で泣き崩れているに違いない──。


私たちはそう思っていた。





しかし、その頃、王都の僻地にある小さな農地では、私たちの予想を遥かに超えた『狂気』が爆発していた。


「きぃぃぃぃぃ!!! 悔しい、悔しいぞぉぉぉ!!! クレアぁぁぁぁぁ!!!」


泥にまみれながら、クワを地面に叩きつけて叫んでいる男がいた。


元王太子、エドワードである。


彼は王位を失い、家を追われた。

普通なら絶望して引きこもるハズの状況だ。

しかし、彼の瞳には、絶望など1ミリも浮かんでいなかった。


あるのは、燃え盛るような凄まじい『執念』だけ。


「私は本気でお前を愛していたんだ、クレア! なのに、なぜミミリアを選んだ!? 同性だからか!? 女同士の絆の方が、男女の愛よりも尊いという、この狂った世界のことわりのせいで、私には勝ち目がなかったというのかぁぁぁ!!!」


そう、彼は諦めていなかった。

クレアが自分をNPC呼ばわりした理由を、「現行の法律への不満の裏返し」だと、斜め上に超解釈していたのだ。


「だったら……だったら、私がこの国を変えてみせる!!! 爵位など知るか! 私は一から平民の支持を集め、民衆を率いて政治のトップに上り詰めてやる! そして、この国の同性婚を認める法律を、私の手で改定してやるぞおおお!!!」


「おおおーっ!!」という、彼を慕う近所の農民たちの熱い歓声が響き渡る。


王太子だった頃よりも、なぜか人望が集まり始めていた。彼が努力すればするほど、結果的に私と先生の百合婚が法的に近づくという、盛大なブーメランである。


彼は気づいていない。

それが無意味だと言うことを。


「……ハックション!」


公爵家の庭園で、先生が小さくくしゃみをした。


「あら、先生、風邪ですの?」


「いいえ、なんだか背筋に、ものすごくしつこいポンコツの気配を感じただけよ。気のせいね」


「そうですわね。さあ先生、次の『新作(お茶菓子)』のサンプルの話をいたしましょう!」


「ええ、喜んで!」


初夏の青空の下、私たちの尊い日常は、これからもシステムに守られながら、永遠に続いていく。






         (お姉妹)

【制作メモ】

本作は、作者が考案したプロット、設定、言葉遊びをベースに、AI(人工知能)と二人三脚で本文の執筆・調整を行って完成させました。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


もし「お姉妹おしまいのオチにクスッときた」「限界オタクと神作家のコンビが好き」と思っていただけましたら、画面下部から【ブックマーク登録】や【評価の星(★★★★★)】をいただけますと、今後の創作の励みにめちゃくちゃなります!


よろしくお願いいたします!

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