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断罪回避したって浮気男に次が無い保証は無いので強制力対抗同盟で別の幸せ掴みます!

作者: 七茶
掲載日:2026/04/30


ある夜、寝苦しさに目が覚めた瞬間、頭の中を嵐のような記憶が駆け巡った。


「どういう…こと?」


ベッドの天蓋を見上げながら、私はゆっくりと呼吸を整えた。

寝る前までただの侯爵令嬢だったはずなのに、別の人生の記憶が流れ込んできたのだ。


前世、私は日本で平凡なOLとして生きていた。

いつ何故死んでしまったのかは分からないけれど記憶は20代後半で途絶えている。

そして今、この世界は──有名な乙女ゲーム『薔薇の王子と三つの誓い』の世界だった事に気付いてしまったのだ。


「明後日から学園…という事は」


私はベッドから起き上がり、鏡の前に立った。銀色に輝く長い髪、青みがかった紫の瞳。

間違いない、私はエルシーヌ・ヴァンフリート、悪役令嬢としてヒロインの前に立ち塞がり断罪される役どころだ。


そして、私には婚約者がいる。ゲームの攻略対象の一人、第一王子クロード殿下。

王命ではあったが好きになれると思っていた。

寝る前、までは。


「婚約者が居るのに浮気したあげく自分を棚に上げて断罪する男なんて…」


ゲームの記憶を辿ると、クロードは学園入学前日に街で出会う平民出身のヒロインに心奪われ、婚約者を放置して交流を重ねる。


自分の浮気が原因なのにヒロインへのいじめが悪質だと私との婚約を破棄して断罪した上で、その場の勢いのままに王家に伝わる薔薇を捧げてヒロインに公開プロポーズするのだ。

まずお前が断罪されろ。


「もしヒロインを阻止したって、永遠に浮気の可能性があるじゃない!」


ヒロインに奪われずに断罪回避したって、婚約者が居ながら他の女性に惚れる素質が丸々消え去るわけじゃない。

第二第三のヒロインに惚れ込むだけだ。

私は拳を握りしめた。前世の記憶を持つ今、そんな未来に従うつもりはない。でも、まだ起きてもいない浮気を咎めることはできない。


「ならば…証拠を取ればいい」


私は決意した。明日、入学前日。王子とヒロインが出会う運命の場面を、魔法道具で記録するのだ。


***


翌日、私は優雅に微笑みながら街並みを歩いていた。手には、記録用の小さな水晶を仕込んだブローチを握りしめている。


「エルシーヌ様、こちらです」


従者が案内する先には、すでにクロード王子の姿があった。そして彼の視線の先には──ピンクブロンドの髪を軽く束ねた可憐な少女が、書物を落としているところだった。


「…君は」


クロードが手を差し伸べる。その瞬間、私のブローチが微かに光った。


ゲーム通りの展開だ。王子は平民の少女に一目惚れをし、彼女は恥ずかしそうに頬を染める。私は冷静にすべてを記録し続けた。


十分な証拠を手に入れた私は、その足で王城へ向かった。王妃様に直談判するためだ。


クロード王子は側妃の子であり、正妃であるエレノア王妃とは血の繋がりがない。

王妃は私の味方になってくれる可能性が高い。少なくとも、ゲームの設定ではそうだった。


「エルシーヌ・ヴァンフリート、エレノア王妃に御目通りを願います」


私は緊張しながらも、背筋を伸ばして部屋入った。


優雅に紅茶を飲んでいたエレノア王妃は、銀髪を高く結い上げ、深紅のドレスをまとっていた。その美貌は、年齢を感じさせない輝きを放っている。


「久しぶりね、エルシーヌ。どうしたの?そんなに急いで」


王妃は優しい笑みを浮かべたが、その瞳には鋭い観察眼が光っていた。


私は一礼をすると、水晶を取り出した。


「王妃様、お見せしたいものがあります。クロード殿下の…恋に落ちる瞬間です」


王妃は少し驚いた表情を浮かべたが、水晶に手を伸ばした。魔法で記録された映像が浮かび上がる。街でのクロードと平民少女の出会いの場面だ。


しばらく沈黙が続いた後、王妃は深くため息をついた。


「またか…」


「え?」


「また、強制力が」


がっくりと項垂れながら王妃は水晶をそっと机に置き、私をじっと見つめた。


「エルシーヌ、あなたも…『覚醒』したのね」


その言葉に、私は息を呑んだ。


「王妃様、まさか…」


「ええ、私も転生者よ」王妃は少し疲れたように微笑んだ。

「しかも、この世界に来てからもうニ十年近くになるわ」


私は言葉を失った。


「最初の十年は、この物語を変えようと必死に努力したの」王妃の声には深い諦めがにじんでいた。

「陛下の婚約者を辞退しようとしたり、側妃を迎えない様に陛下との仲を良好に保とうとしたり、けれど…側妃の影響力を削ごうと、王国の制度を変えようと…結局」


「結局?」


「全てが失敗に終わったわ」王妃の瞳に涙が光った様な気がしたが、一瞬でいつもの王妃様へと戻る。

「まるで強い流れのように、物語は本来の筋書きへと引き戻される。私はそれを『強制力』と呼んでいる」


王妃は立ち上がり、窓辺へ歩み寄った。


「クロードが生まれてからも何度も試したわ。クロードが浮気性になるのを防ごうと、彼に誠実さを教えようと。

第二王子を作る事で、婚約者の後ろ盾の重要さを意識させようと。

でも、結局はまた物語の通りになってしまったのね」


私は王妃の背中を見つめながら、胸が痛んだ。ニ十年も、この運命と戦い続けてきたのだ。


「でも…諦めません」私は強く言った。

「王妃様も、まだ諦めてはいないはずです。でなければ、私にこんな風に打ち明けたりしないでしょう?」


王妃が振り返った。その目には、再び炎のような決意が灯っていた。


「その通りよ、エルシーヌ」


王妃は私の前に歩み寄り、両手で私の手を包んだ。


「一人では無理だった。でも、もし二人なら…」


「強制力に対抗できるかもしれません」私は続けた。


王妃の唇が緩んだ。「そう、強制力対抗同盟を結びましょう」


その日、私たちは深夜まで話し込んだ。王妃のニ十年の経験と、私のゲームの知識を組み合わせ、計画を練り始めたのだ。


「まず、クロードの浮気癖の根源を断たなければならない」王妃は地図を広げた。

「ゲームの設定では、彼の性格形成に大きな影響を与えた人物がいる。側妃の弟、ヴィンセント侯爵よ」


「あの、女性関係で悪名高い方ですね」


「ええ。彼がクロードに『王家の男は真実の愛に生きる権利がある』という歪んだ価値観を植え付けたの」王妃の目が険しくなった。

「この男をなんとかしなければ、根本的な解決にはならない。この男を浮気を原因とした破滅に追い込み、浮気への危機感を覚えさせる」


「でも、強制力が働いたら…」


「強制力は『物語の重要なポイント』には強く働くけれど、細部まではコントロールできないはずよ」王妃は指で机をトントンと叩いた。

「私たちは物語の大筋を変えようとするのではなく、細かい部分を積み重ねて、最終的に大筋そのものを変えてしまうの」


私はうなずいた。「つまり、クロードがヒロインと交流する事自体は止めない。でも、その関係が発展しないように細かく妨害する」


「そして、もっと根本的に」王妃は意味深に微笑んだ。

「クロード以外の選択肢を、あなたに用意するわ」


「え?」


「ただの強制力回避だけでなく、悪役令嬢が幸せを掴んでこそ、最高のハッピーエンドじゃない?いるでしょ?適任が」


私は考えた。確かに、強制力のせいで自分たちの幸せを捨ててやるのは癪だ。


「騎士団長のラインハルト様…」


「そうよ」王妃の目が輝いた。

「彼はゲーム中であなたに好意を抱いている描写がある。しかも、彼は強制力の影響を受けにくい『脇役』の立場よ」


「王妃様は、私とラインハルトを…」


「出会わせるだけよ。後は自然な流れに任せる」王妃はいたずらっぽくウインクした。「強制力が『王子とヒロイン』に集中している隙に、私たちは別の物語を紡ぐの」


その計画に、私は胸が高鳴った。単に運命に反抗するだけでなく、新しい可能性を切り開くという発想だ。

その上、ラインハルト様は王命が出る前の私の初恋の…


「他にも手は打っておくわ」王妃はいくつかの書類を取り出した。「学園の教師陣に、私たちの味方を増やす。特に、ヒロインが所属する魔法理論科の教授は重要よ」


「ヒロインの成長を妨げるのですか?」


「違うわ、彼女に『別の道』を示すの」王妃の表情が優しくなった。

「あの子も被害者よ。ゲームの主人公として、無理やり王子たちと恋愛させられる運命からは、解放してあげたい」


私は王妃を見つめながら、心から尊敬の念を抱いた。ニ十年の孤独な戦いの中で、それでも他人への慈愛を失わなかったのだ。


「では、作戦開始ですね」私は立ち上がり、深々とお辞儀をした。


「ええ、エルシーヌ」王妃も立ち上がり、私の肩に手を置いた。

「一緒に、この歪んだ物語を書き換えましょう。浮気男と強制力に、ぎゃふんと言わせるために」


窓の外では、夕日が王城を赤く染めていた。まるで、私たちの決意を祝福するかのように。


私は王妃の手を握り返した。孤独だった戦いに、ついに同志が現れた。前世の記憶と、王妃のニ十年の経験。この組み合わせが、運命という壁を打ち破るのだ。


「まずは明日から、学園生活が始まります」私は微笑んだ。

「ゲーム通りの展開を期待しているこの世界を、がっかりさせてあげましょう」


王妃も笑みを返した。「そうね、まずは小さな変化から。あなたとラインハルトの『偶然の出会い』を仕込んでおくわ」


その夜、王城を後にしながら、私は空を見上げた。星々がきらめく中、かつてない希望が胸に広がっていた。


強制力に対抗するのは容易ではない。でも、少なくとも私はもう一人ではない。そして、ただ反抗するだけでなく、新たな幸せを築く道があることを知っている。


「クロード殿下、ごめんなさい」私はそっと呟いた。

「でも、私はあなたの浮気に耐えながら生きる悪役令嬢なんて御免です。王妃様と一緒に、私だけのハッピーエンドを勝ち取りますから」


風がそっと髪をなで、あたかも応援しているかのようだった。


明日から、物語は変わり始める。小さな、しかし確かな一歩から。

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