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#2/三毛猫★ヤマト~友達以上にならないと契約した親友にキスされて死にそうです~

「友達以上にならない契約」

高校の入学式の日に出会った二人。

【学園王子の亜希×学園の姫の聖那】


学年一位の天才・勉強以外はポンコツの聖那。

学年二位の万能型、亜希。

亜希は、女顔のあまり相手に恋愛感情ばかりを持たれ、男友達に恵まれなかった聖那の、初めての親友だった。心から信頼を預けていた。

それなのに──。


玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする「武子内親王/小倉百人一首」

(このまま生きていれば秘めてきた恋がばれてしまう。それくらいなら死んだ方がマシかもしれない)


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※本編はすべて全年齢です / 物語の終盤にR18を予定していますが、本編とは逸れたところで番外編として(R18公開可能サイト等で)公開する予定です

※文章はすべて自作ですが、専門知識の相談や助言に一部AIのお力を借りています

※10年以上前に二次創作として書いた作品を一時創作として書き直しました

※ほかの小説投稿サイトにも投稿しています

#2 / 第一部 第一話「ナイスチューミーチュー!」(中)


ひんやりと冷房の利いた図書室で涼みながら、黙々と読書に勤しんでいる。

そこへ突如として、どこからともなく「エリーゼのために」の旋律が室内を支配した。しかもかなりの大音量だ。

なんだよ、うるさいなあ……オレは眉間に皺を寄せる。

図書室側の要らぬサービスかと思われた旋律は、オレのすぐ脇にあった赤い大きなボタンを押すと止まるらしい。誰に説明を受けたわけでもないのに、なぜかそのことを知っていた。

少しの逡巡もなく、オレはそのボタンを力強く押した。旋律が止まる。

もう一度書物の耽美な世界に入り浸って、暫しの時間が経過する。チカッ。今度はまつ毛に刺さる陽光が眩しい。

なんなんだもう、読書に集中できないじゃないか。根源不明のその光があまりに眩しいので、一度目を強く閉じて、開いた。


チチチ、という小鳥の囀り。オレは自室の安っぽいベッドの上。窓から差し込む明々とした陽光はやっぱり眩しかった。

アラーム音が「エリーゼのために」のスマホの画面は、八時ちょっと前を示していた。

「や、やべえ」

これが一人暮らしの辛さな訳だ。

飛び起きて、慌てて支度をする。一瞬だけ見たスマホの画面に、母親からのメッセージ通知がきていた。「入学式、行けなくてごめんねえ」と、涙を流した顔文字付きの文面だった。ちょうど三つ下の妹の入学式と重なってしまったためだ。

手櫛で適当に髪を梳いてから、後ろに束ねて一本結びにする。肩まであるこの金の長髪が、女子に見間違われる原因の一つであることはわかっているのだが、なかなか切れずにいる。幼少期、長時間の勉強を強いられていたころ、最も集中力の妨げとなったのが「伸びかけの髪」だった。ならばいっそのこと、と結べる程度まで伸ばしてしまったら、それがことのほか快適で、四歳頃からこの髪の長さを変えたことがない。今となっては、後ろに束ねる髪がないと落ち着かなくなってしまった。また自分で言うのもなんだが、この髪型はこの上なくオレに似合っているらしく、ショートヘアなどにすればおそらく母親と妹からブーイングの嵐をくらう。

朝食などもちろん取れるはずもなく、空腹のまま家を飛び出した。

ごめんなさい神にも仏にも女神にも誓って返します、と胸の前で十字を切ってから、アパートの前のボロ自転車をかっぱらって漕ぎ出した。結び方のわからないネクタイと通学バッグを籠に突っ込んで、渾身の力でペダルを踏む。

八時十五分発の電車に乗れば、ギリギリ間に合う。

無心に自転車を漕ぎ、有言実行、オレは八時十三分に駅に滑り込む。初めて使う綺麗な定期券を改札にタッチすると、バコッとフラップドアが閉じて、オレの進入を拒んだ。

な、なんで? と思いながら、締め出された定期を見ると、バスカードだった。

幸先不安だ。



喘ぐように息を切らしながら、入学式の席に着く。八時起床で、九時開始の式典になんとか間に合った。胸の中で自分に拍手喝采する。扱い方が不明のネクタイは、体育館の入り口に立っていた職員の女性が結んでくれた。

さあ、くるぞ……と、オレは腹を括る。

コソコソ、コソコソ、という潜まった声がこちらの耳を打ち始める。耳を澄ませばその「コソコソ」には、キャーとか、ウソーとか、マジーとか、やばくない? とかそういった、感情先行型の、語彙力不足の言葉たちが内在されている。

オレは前髪で顔が隠れてしまうように俯く。ああ、後ろで髪を束ねてこなければよかった。

自慢ではないけれど(自慢という域を超越して、もういっそ辟易)、オレはとんでもなく女顔らしい。父親から譲り受けた北欧の血が影響しているのもあるだろう。

幼稚園のお遊戯会、小・中学校の学園祭など、「姫役」が必要な場面が訪れた時には、それらの役柄は一つ残らずオレに押し付けられた。その思い出は、埃(「埃」であって、決して「誇り」ではない)を被ったアルバムの中へと封印されている。

そして得てして、女顔の男、というのは良いもの、もしくは美しいものに分類されてしまうらしい。オレとしては気味が悪いものとして扱ってもらったほうが、むしろ楽だったのではないかと思う。

だって、ボブ・サップの体に、オードリー・ヘップバーンの顔を乗せてみてごらんなさいな。気持ち悪いよ、これは。

サップの筋骨隆々たる剛健な体躯と、オードリーの端麗極まる美顔どちらも百点満点なのに、二つが融合することによってそれらの美点は見るも無残に崩壊する。それは何故か。ずばり、そこにはそれらの美点や魅力をいとも容易く凌駕してしまうほどの、違和感と不和さ、理不尽さがあるからだ。

だからふつう、女顔の男なんて、気色悪い部類に分類されて、当然なのではないでしょうか?

詮無いことを思案しながら、その場をやり過ごす。オレの座る列全員分の、好奇と驚異で充溢したナイフのような視線が、ぐさぐさとオレの身体を刺してくる。

それでも、こんな状況下にももう慣れた。十五年間、人生のステージが変わるごとに感じてきたのだ。もうベテランである。

そのヒソヒソ声はゴキブリの生命力のごとくすさまじいスピードで繁殖し、感染していくため、最後には前後左右に四方八方、とにかく三百六十度全方位からのナイフを覚悟しなければならない。

けれど今日は、後方からの視線は全く、感じなかった。オレの後ろ側に、そのゴキブリ並みの繁殖と感染を断ち切る、なにか強力な抗生物質があるらしかった。

その抗生物質はなんだろう? 後方にパンダでもいるのかな。さすがのオレも、パンダには敵わない。


ここで校長とやらの、長い長い、終わりの見えない講話が始まった。人間が「永遠」を体感するのはこういうときだよな、と思う。

えーこの学園の生徒という、うー、自覚とけじめを持ち、えー、日々勉学と、おー、精進に勤しみ、いー……。

オレは「あーいーうーえーおー」が全てコンプリートされるかどうかの検証を始める。早くも残りは「あー」だけだが。

そんなことをしながら遊んでいても、やはり暇だし鼻に付く話なので、パイプ椅子をギィギィ唸らせながら、後ろへ頃けていた。幼年期、勉強の合間をぬって、最寄りの公園のシーソーによく乗りに行ったことを思い返す。あの公園はまだあるのかなあ、などと考えながら、ギィギィ、ギィギィ、ギィギィ……。規則性が見えてきたところでなんだが、次の擬音は残念ながら、ギィではなく、バタンッ、だった。

後ろに倒れた。子どもでも予見可能な連鎖だ。だって暇なんですもの──。

倒れた、と思ったのに、いつまで経っても背中に衝撃は来ない。不運にもオレの後ろの席に座ってしまった奴が、倒れてきたオレを素晴らしき反射神経で受け止めていた。

そのナイスな反射神経の持ち主に、「わりィ!」と謝罪しようとした。

けれど、その言葉を呑みこんでしまった。

ああ、わかった。

後方から視線を感じなかった理由。

「抗生物質はあんたか!」

倒れ掛かった状態のまま、探偵の気分になる。パンダじゃなかった。

「は?」

は? と、不快そうに眉根を寄せて、にべもない返事をしてきた男は、まことに美しかった。

ミケランジェロのダビデ像も逃げ出さんばかりの、美男子だ。まさに人語を話す彫刻と言えた。ギリシャ神話の女神アフロディテが丁寧に一本一本紡いだであろう艶やかな黒髪と、天使たちが丹精込めて作り上げた漆黒の双眸や高い鼻梁。それらを全能の神ゼウスが完璧な配置で顔面の枠の中に収めた。彼は、そういう容貌をしていた。

オレのような「女顔」という姑息な手段──と自負している──ではなくて、まっとうな、正攻法の、男前だ。美という意味ではオレと共通の部分があるのに、まったくの対極。

その抗生物質は、ガタッとオレの椅子を元の位置に黙って戻した。その粗野な仕草から彼の苛立ちが伝わる。まあ、当たり前だ。

──そう、今思えば。

物理的に初めて接触したその瞬間から、オレは彼の手を焼かせていたわけだ。


オレは暫くお利口さんに、校長の講話のコンプリート具合を再度検証していたけれど、やっぱりすぐに飽きたので、やっぱりまた、ギィギィしはじめた。

そしてまた後ろに倒れた。

「……お前、その学習能力の無さで、よくこの学校入れたな」

後ろの抗生物質は、また律儀に倒れてきた椅子を支えながら、こちらを腐してくる。

「アイムソーリー! ユアウェルカム! ドントウォーリー! ワッチャネーム?」オレはおどけてみせた。

「なるほど、わかった。お前補欠合格だな。しかもギリギリまで正規合格者の辞退を待ち望んでた類だ。そのひ弱な体つきはスポーツ推薦でもなさそうだ。さては裏口入学か?」

「それってつまりオレがこの中で、一番馬鹿ってことを言いたいのかな?」

「それ以外の解釈があるなら教えてくれよ」抗生物質はにべもない。

一番馬鹿ね、とオレは繰り返す。「確かに、それと似てる部分はある」

「だろうな」

そこまで吐き捨てるように言って、椅子をまた元の位置へ戻してくれる。律儀な奴だな。

オレは講話の再検証を始める。残りの「あー」がなかなか登場しないな、と思った矢先、まだクリアしていないのにも拘らず、学園長の長ったらしい話は終わってしまった。

「……続きまして、新入生代表の辞」

厚化粧の女性教員がマイクに向かって無愛想に告げる。さきほどオレのネクタイを結ってくれた女性だ。

新入生代表の辞は、入試で首席だった生徒が担うらしい。

「……はい」

という気だるげな返事と共に、誰かが立ち上がった。

誰が立ち上がったかって。

もちろん、オレだ。

後ろの抗生物質の驚愕の表情を見下ろして、ニタリ、と笑みをロ元に貼り付けた。

「一番は一番だけど、下じゃなくて、上なんだ」ちょっとだけ肩をすくめてみせる。「おしかったね、ボク」

彼の目元が、暗く陰ったように見えた。敗北という名の屋根の下に入ったかのようだった。

そしてこれこそが、オレと「相棒」との出会いだったわけである。



【続】

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