6話 文化祭、開戦
神界高校の校庭に朝の日差しが差し込む。
校門にはテントが並び、校舎には笑い声がそこかしこから立ち昇っていた。
文化祭が、ついに始まったのだ。
「……始まっちまったな」
翔馬は人混みを見渡しながらつぶやく。
「気ぃ抜くなよ翔馬、今日が奴らの本命だ」
与志野が真剣な顔で応じた。
「ああ……分かってるけど……空気に流されてつい油断しちまいそうだよ」
田野は文化祭パンフを持ちながら、ため息をつく。
「せっかくの文化祭なのに……回りたかったなー」
「また来年と再来年があるだろ、そん時はエルサも誘って皆んなで回ろうぜ」
翔馬は田野の肩を軽く叩いた。
「そういえばエルサはどこ行ったんだ?」
「何か部活の当番があるんだってさ」
与志野の質問にパンフレットを名残惜しそうに見ながら田野は答えた。
「とりあえず人のいない所に移動しよう、こんな所で戦闘になるのはまずい」
「ああ……そうだな」
人気の少ない校舎裏――物資倉庫の影。
普段は誰も来ないこの場所を三人は戦場に選んだ。
「ここなら一般の人は来ない、やるならここだ」
「うん、ここなら俺も全力でやれる……!」
与志野が拳を握る。
「そろそろ文化祭が始まるな……もうすぐ開始のチャイムが……」
翔馬は時計を見ながら呟いた。
刹那。
校内全体にチャイムが鳴り響く。
同時に倉庫の影が揺れた。
緊張が場を締めつける。
だが同時に、風が妙に静かだった。
「――来るぞ」
翔馬の耳に、地面の“ざらっ"という微細な振動が届いた。
その直後。
バシュッ
地面が盛り上がり、黒い影が穴を食い破るように飛び出した。
「影を泳ぐ鮫……これって……!」
地面を泳ぐサメたちが獲物を見つけたように一斉に口を開き、翔馬達に向かって威嚇する。
その奥から、長い影がぬっと姿を現した。
「お出ましか...…!」
「久しぶり〜!田野君怪我治ったんだ!良かったね!」
「……誰のせいで病院送りになったと思ってるんだ?」
「相変わらず怖い顔だね〜、今日は文化祭だよ?せっかくなら楽しまなきゃね!」
サメはにこやかに笑いながら自身の影から出てきた手を引っ張り出した。
「あんた達を狩って……その首を私達のクラスに展示してあげる」
影から引っ張り出されたのはもう一人の敵、左・腕。
「死んでいなくとも戦線復帰は不可能だと思ったが……回復……そういう祝福だったな」
腕を組みながら、左・腕が薄く笑う。
「まあ少し寿命が伸びただけだ……YOU died様に逆らったお前の死は変わらない。」
「大人しくYOU died様に従っとけば甘い汁啜れたのにねー、そんなバカなんだから」
「最後の一ヶ月は楽しめたか?田野」
(サメ……左・腕……YOU diedはまだきてないっぽいな……)
田野も薄ら笑みを浮かべながら答える。
「あんたらこそ……人生最後の文化祭こんな所で過ごしていいの?」
「はあ?私達まだ二年生だけど?来年もあるし」
「来年があると思ってるの?先輩」
「……はぁ……誠意見せてくれたら許すつもりだったんだけど……あんたやっぱ生意気すぎ」
地面や壁を泳ぐ鮫のヒレが翔馬達を囲んでいく。
「だから……」
サメが前に出る。
「私の後輩にも……してあげない」
次の瞬間――
翔馬の左腕が勝手に跳ね上がった。
「ッ!?痛っ……!」
(左腕が勝手に……!?まさか!!)
「あんたらは"餌"に降格。」
左・腕の左腕から蒼いオーラが漏れる。
(しまった...…翔馬が捉えられた!)
「翔馬、与志野下がれ!!」
田野が焦りながら左・腕と距離を取る。
「あいつ...…思ったより範囲広いぞ!」
与志野の言葉にやりと笑ったサメが指を鳴らすと、
左・腕の近くに潜んでいた鮫達が三人を包囲するように陣を描いた。
「与志野!四方から来るぞ!」
「分かってる……うわっ!!」
与志野も左腕の制御を奪われ、蒼閃の構えが崩れる。
「お前ら……一ヶ月特訓しただけで本気で勝てると思ってたのか?片腹痛いな」
(左・腕の祝福が予想以上に厄介だな……!でも見た感じ多少は抵抗出来てるっぽい……)
「my Only girlfriend!!」
田野は少女を顕現させ、必死に与志野の肩を支える。
「グッ……ンン……!!」
与志野は少女の手を借りながら再び何とか無理矢理構えを取った。
(俺がこの中で一番火力がある……!ここで折れる訳にはいかない!)
「もう食べていいよ」
サメが静かに言い放つ。
ドォォォォォォ!!
左腕の自由を奪われたまま、サメの群れが地中から飛び出してきた。
翔馬は奥歯を強く噛み、足に力を込める。
「左腕なんて……関係ない!!」
力を溜めた瞬間、彼の足元が蒼光を帯びる。
「double step!!」
瞬間、翔馬の姿が掻き消えた。
地面が抉れ、風が弾ける。
サメの牙が空を噛んだ。
「速っ!!」
サメが驚きの声を漏らす。
翔馬は速度のまま与志野と田野を引き寄せ、狭い空間を強引に突破する。
(あいつの範囲外に出ちまえば解除される筈!一回立て直す!)
「与志野、田野!!強引で悪い!!」
「ちょっ……!!速すぎ……!!」
「うわああぁ!?」
二人を抱えたまま翔馬は稲妻の様な速度で鮫達の包囲網を突破し、距離を取る。
(俺の範囲から抜けるつもりか……逃がさん!)
左腕が翔馬を追う。
「無駄でしょ、こんな狭い所でそうやって一生逃げ回るつもり?」
瞬間、鮫たちが地面から再び飛び上がる。
「やってやる...…!」
一時的にだが左腕の範囲を外れた与志野が再び構える。
文化祭の喧騒など、もう聞こえない。
始まったのは――
神界高校を賭けた本気の戦いだった。




