4話 宣告
翌朝のホームルーム。
教室にはいつもと違う重たい空気が漂っていた。
ガラッ――。
担任の大井史が教壇に立つと、ざわつきが一瞬で静まった。
「えー……皆に連絡がある、昨日田野が……事故で大怪我をした。現在、入院中だ」
「……は?」
教室の空気が固まる。
「おいおいまたかよ……」
「この前も山愚痴達が……」
そこらかしこから小さな話し声が聞こえる。
翔馬は思わず立ち上がった。
「嘘だろ……昨日まで普通にいたじゃねえか!」
大井史は眉をひそめる。
「詳しい状況はまだ調査中だ。
命に別状はないが、しばらく登校はできないと思ってくれ」
与志野は拳を握った。
(事故……?そんなわけない……まさか……)
翔馬と与志野は目を合わせる。互いに同じ疑念を抱いていた。
田野は事故なんかじゃない。
――襲われた。
その確信だけが胸の奥で燃えていた。
そして放課後。
二人はいつもの秘密の特別棟の部屋にいた。
昨日のままの、焦げ跡とひび割れた壁が生々しい。
翔馬は息を吐く。
「時期を見てお見舞いに行こう、それまで……鍛えるぞ」
与志野も頷く。
「犯人もこの力もまだ色々訳わかんない事だらけだけど……とにかくやるしか無い」
二人は黙々と修行を続けた。
翔馬は跳躍のコントロールを。
与志野は蒼閃の精度を。
だがその集中は――突然、破られた。
コンッ……
軽い靴音。
「いいねぇ……男二人でむさ苦しい青春してんじゃん」
薄暗い部屋の扉の前に、黒いロングコートを纏った少年が立っていた。
笑っているが、その目は氷のように冷たい。
「誰だお前。」
二人は身構える。
少年の後ろには、サメと左・腕が無言で立っていた。昨日の血を一滴も纏わぬような、いつも通りの顔で。
(何だこいつら……奥にもう二人……?)
「俺か?俺はYOU diedってもんだ。お前らをスカウトしにきた。」
その男は軽く手を上げた。
「本当はわざわざ出向くのは嫌だったんだが……田野がしくじりやがったからな、仕方なく来てやったんだよ、心の広い先輩に感謝しな」
「田野がしくじった……って……」
与志野がYOU diedの言葉に反応する。
「そっか知らねえのか……あいつ元々俺らの下っ端でお前らをスカウトしに行かせたんだけど……直前で日和ったみたいでな」
「お前らの……下っ端?」
「あー勘違いしてやるなよ、お前らに危害が及ばない様に庇って俺らの仲間に入れない様に言ってたらしいぜ、優しいね〜、まあ優しいだけで実力の伴ってないクズだったけどな」
翔馬の瞳が激しく揺れる。
「お前らが……田野を……!」
YOU diedは微笑む。
「まあ怒るなよ、ガキじゃないんだから話し合いで解決しようぜ?」
次の瞬間。
パン。
空気が――鳴った。
YOU diedが手を叩いていた。
その瞬間、YOU diedの手のひらの前に空間が盛り上がるように歪んだ。
「なんてな。」
無の裂け目から、YOU diedの手に銃火器のようなものが渡った。
「は……?」
翔馬は息を呑んだ。
(なっ……祝福!?銃……って……)
与志野は即座に指を構えた。
「俺の祝福の能力さ。
俺の思い描いた武器を作れるんだ。」
「武器を……作る……?」
「死にたくなきゃ見せてみろ、テメェらの祝福」
YOU diedはその銃口を翔馬達に向けた。
「YOU died。」
バババババッッ!!!
弾丸の雨が室内を切り裂く。
瞬間、与志野がその銃口の正面に躍り出た。
「thousand finger(千の指)!!!」
ドドドドドドドド!!!
蒼く光る閃光のラッシュがYOU diedの放つライフルの弾丸を全て弾き飛ばした。
「へぇ...…いい祝福だな、まあ及第点.....ん?」
翔馬がいない。
否。
YOU diedの背後に瞬間移動したかの様なスピードで翔馬が回り込んでいた。
(慣れてきたら技名でも決めようか)
田野の言葉が蘇る。
「double step!!」
(速――)
ドン!!!
YOU diedの身体が吹っ飛び壁に叩きつけられる。
だがYOU diedは壁と自分の間にクッションのような物を挟みダメージを軽減していた。
(クソ……衝撃吸収された!ていうかあの二人はYOU diedの部下か?見た感じ何もしなさそう……)
瞬間。
パン。
YOU diedの身体から裂け目ができる。
その裂け目からロケットランチャーが出てきた。
「なっ!!?」
「お前...…正気か!?音と衝撃で一般人に....!」
「関係ないね、見られたら殺すだけだ。」
その言葉と共に引き金を引いた。
「うっ!!」
翔馬は間一髪でそれをかわしたが、視界の端から迫る手榴弾に気づかなかった。
ドゴォォォン!!
壁が砕け、翔馬の体が床を転がる。
「うぐっ……!」
(痛……全然壊れてねえ……ロケットは……フェイクかよ……!)
与志野が叫ぶ。
「翔馬!!」
与志野がYOU diedに方向転換する。
「thousand finger!!!!」
ドドドドドドドドドド!!!!
蒼閃の連撃をYOU diedに向け、放つ。
「銃弾を弾き返せる威力と精密力……それだけだな」
空間が歪み――
与志野の蒼閃は、出現した半透明な盾に飲まれて消えた。
「なっ……盾!?」
「田野に大分仕込まれた様だが……今のままじゃ俺の遊び相手にもならないな」
YOU diedがゆっくりと歩き出す。
そしてYOU diedは翔馬の目の前にしゃがみ込み、囁いた。
「逃げるなよ、文化祭――1ヶ月後。
そこで使えるかどうか見極める」
翔馬は歯を食いしばる。
「……ふざけんな……今……決めろ……!」
だが手榴弾を至近距離で喰らった影響で、上手く立つ事が出来ない。
YOU diedは笑って立ち上がった。
「じゃあ頑張って鍛えろよ。
期待してるぞ、後輩君」
次の瞬間。
全ての兵器がふっと消えた。
まるで最初から存在しなかったかのように。
YOU died達三人の足音は、夕暮れの廊下にゆっくり消えていく。
残された翔馬と与志野は、ただ荒い呼吸だけを残していた。
「……絶対……ぶっ倒す」
翔馬は拳を握った。
「文化祭で……終わらせる」
その瞳には恐怖と怒り、そして燃える決意が宿っていた。
だがその決意が――
彼らの運命をさらに歪めていくことを、
このとき二人はまだ知らなかった。




