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3話 裏切り


三日後の朝。

まだ日が昇りきっていない特別棟の薄暗い部屋に、乾いた靴音と荒い息が響いていた。


「はぁっ……! もう一回いくぞ翔馬!」


蒼い波動を指先に集めながら与志野が構える。


「おう……!でも今度は手加減してくれよ!」


翔馬は足に力を込める。

三日間の修行で、あの暴走した跳躍はだいぶ技になってきていた。


――ドン!


翔馬が床を蹴った瞬間、空気が一瞬だけ凹んだように歪む。


たった一歩でまるで走り幅跳びの様に跳躍する。


瞬間、与志野が指先から蒼い衝撃を撃つ。


「はっ!」


ドッ!!


蒼閃が翔馬の頬をかすめ、壁に深い亀裂を刻んだ。


「おい与志野!今の本気出しすぎだろ!」


「わ、わりぃ!加減がまだわかんなくて!」


二人の笑い声が狭い部屋に響いた。


その横で、田野は静かにノートを閉じる。


「……いいね、もう戦えるレベルにまで来てる」


いつもの眠そうな目。

だがその奥には、言いようのない影が揺れていた。


翔馬は気づかずに笑いながら言う。


「田野、今日もありがとうな。お前がいなきゃ絶対ここまで来れなかった」


「……うん。そう言ってもらえると……嬉しいよ」


田野は一瞬だけ目を伏せた。


何かを決めるように。


その日の夕暮れ。

田野は一人、校舎裏へ向かっていた。


(……今日こそ言わないと)


翔馬達にあの話を。


そう思いながら特別棟へ続く階段を曲がった瞬間。


空気が急激に冷たくなった。


「遅いよ、田野くん」


階段の影から、細いシルエットが滑り出てくる。


女子生徒。

青紫の髪を揺らし、人懐っこい笑顔を浮かべた――いや、貼り付けたような笑顔。その笑顔からは鋭い牙が見え隠れしている。


YOU died の直属の部下。

通称、サメ。


「……サメ」


「あはは、そんな怖い顔しないでよ、今日は進捗聞きに来ただけだからさ、どう?その後は?」


田野は一歩も動かない。


「俺は……もう決めた。

YOU diedの派閥には……亜里野達は入れない」


サメの笑顔が、音もなく消えた。


「え〜?困るなぁ……順調ってYOU died様にも伝えてあるのに」


サメの目は既に捕食者の目に変わっていた。


「ていうか忘れたの?君の友達のエルサ君、その気になればいつでも殺せるんだよ?」


「あいつは……!関係ないだろ!」


「関係あるでしょ〜、あんたの祝福が目覚めたきっかけも確かあの子じゃなかったっけ?」


田野は唇を噛む。


「祝福の情報を教えて君の友達の安全も保証する……その代わりに君は私達の派閥に入って覚醒した祝福者達をスカウトする、そういう契約でしょ?」


「あいつらも……俺の友達だ!あいつらの安全も保証してくれ!そういう契約だろ!」


「ハハッ、何それバカみたい……こっちに入れば安全は保証するけど?」


「ふざけんな!YOU diedの派閥に入るって事は他の何野四天王と敵対するってことだ!安全な訳ねえだろ!」


サメの裸足が、コツン、とコンクリを叩く。


「ふーん……情が移ったんだ?」


ほんの一瞬。

夕暮れの光がサメの片目だけを照らした。


その目は完全に狩人のそれだった。


「てかさ……」


空気が震え、サメの輪郭が一瞬かき消える。


「私先輩だよ?タメ口とかムカつくんだけど」


次の瞬間。


田野の視界からサメが消えた。


「……っ!?」


背後。


サメの足が田野の後頭部に叩き込まれた。


ドガァッ!!!


田野の体が地面に叩きつけられる。

視界がぐにゃりと揺れた。


「く……っ!」


必死で立ち上がる。


「契約解除……って事でいい?」


サメの全身が微細に震えている。

まるで飢えた獣の様な凶暴さ。


田野は構える。


「舐めるなよサメ..……!」


田野の身体から蒼いオーラが湧き出る。


「my only girlfriend(俺だけの彼女)!!!」


田野の身体から青白い半透明の少女が現れた。


「カッコいい〜!でもその祝福、戦闘向きじゃないでしょ」


サメが笑うと同時に田野の背後から巨影が落ちてきた。


(影を泳ぐ能力に加えて本物の鮫を出せる能力……!)


少女が田野を抱き抱えそれを何とか躱わす。


「そんな使い方できるんだ、便利だね」


「ッ……!お前……!」


その直後、いきなり田野の左腕があり得ない方向に回転した。


「ぐあっ!?」


田野はあまりの痛みに立っていられず膝をつく。


「だから敬語使えって、可愛くないな」


田野の背後に立っていたのはYOU died のもう一人の部下。


身体自体は細いが、片腕が不自然に太い男。


通称、左・さ・わん


(しまった……こいつがいたか……!)


「……逃がすわけ無いだろ……田野。

裏切り者は……捻り潰す」


田野は絶望の中で拳を握る。


(左・腕……文字通り左腕を操る……やばい……)


「今なら後輩のよしみで許してあげるよ、田野君」


サメが笑う。


「バカか、サメが許しても俺が許さねえよ」


「フフッ……だってさ」


田野が歯軋りすると同時に左・腕が地面を蹴る。


避けようとした田野の死角の影から2メートルはある鮫が突進した。


衝撃波が走り、田野の体が吹き飛ぶ。


「がはっ……!!」


背中を打ち壁に崩れ落ちる。

視界が赤黒く染まっていく。


田野の背後にいた少女は田野がダメージを受けたと同時に崩れて消えた。


「ハア...ハア......my.....my only....!」


「じゃ、殺すね。

YOU died様からの命令だし」


「安心しろ、お友達には手出さないでやるからよ」


サメの影からでかい魚影のようなものが出た。

左・腕の拳が握られる。


(翔馬……与志野……ごめん……)


田野は最後の力で呟いた。


「殺されて……たまるか……」


二人の影が一斉に迫る。


「my only girlfriend!!!」


再び少女が顕現する。


田野は最後の力を振り絞るかのように叫んだ。


「うおおおおおお!」


次の瞬間。


――ドゴォォォンッ!!!!


階段下の壁が砕け、粉塵が空を覆った。


田野の体は動かない。

血がじわりと広がり、夕陽が赤く反射する。


「……行くぞ、他の奴らに嗅ぎつけられたら面倒だ」


サメが髪をかき上げ、笑う。


「さぁ……次は君たちの番だよ、祝福者くん達」


風が止まり、学校全体が不気味な静寂に包まれた。


「……?今何か聞こえなかったか?」


「え?気のせいだろ、俺には何も聞こえなかったぜ」


「……そっか……」


「それより翔馬、もっかい付き合ってくれよ、今度は連続でやってみたいんだ」


「はいはい……」


特別棟で修行を続ける翔馬と与志野は、まだ知らなかった。


これから起こる悲劇と苦痛を。

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